「やー、フグ中毒死ってちょっと遊びすぎたかな」 ドクター・モレノは残っていたコーヒーを飲みながら、けらけら笑っていた。 ティエリアをからかうのは、なんて楽しいのだろうか。そもそも、ティエリアという生き物は、ガンダムマイスターでありながら、その美貌ゆえに他人を近寄らせないかんじがするが、実際に接してみるとおもしろおかしく、かわいすぎてもうツボになる。ドクター・モレノは、医者であるが故によくティエリアのアホアホ行動に巻き込まれる。この前のジャボテンダー出産とか。 でも、ドクター・モレノは楽しんでいた。 トレミーに乗っている皆が、アホでカワイイ、それなのに戦闘になると人が変わったようにかっこよくなる頼れておもしろおかしいティエリアを愛して、見守っている。大人たちは、ティエリアがアホアホでも構わないと思っている。昔のように、誰とも口をきかず、協調性ゼロの頃に比べればなんて進歩したんだろう。 そうさせたのは、全てロックオンの愛情だ。ロックオンと付き合いはじめて、ティエリアは本当に変わってしまった。 「あー。フグ中毒死とかいうから、フグ食べたくなってきた」 コーヒーを啜りながら、ドクター・モレノは本当にフグが食べたくなっていた。 「ロックオン。見てください、足跡です」 ティエリアの部屋に残された足跡。 「この足跡の持ち主が犯人に違いない」 「いや、それめっちゃわざとらしいから。絵の具でかかれてるし。しかも40センチはあるぞ?」 普通は、清潔なトレミーに足跡なんてつかない。宇宙空間で暮らす彼らは、足に泥をつけて帰ってくるということがまずない。地球に降りて帰ってきても、靴裏は洗浄されて、トレミーを埃っぽくしたりはしない。 「きっと、犯人は足が40センチもある巨人だ。イエティかもしれない」 「いや、ありえないから。イエティが、雪山から降りて、フグ釣るか買うかしてティエリアの部屋に忍び込んで、ジャボリーに食わすのかよ?」 「ううむ・・・確かに、それもそうだ」 「ジャボリーが勝手にティエリアの部屋から逃げ出して、食料貯蔵庫に置いてあったフグを食べて死んだって可能性は?」 「そんなことはあるはずがない。フグなど、毒を含んだ危険な食物はトレミーには置いていない。それに、魚の生ものはトレミーの規約で調理禁止になっている」 「それもそうだな」 生の魚は傷みやすい。食中毒などにならないための策である。 「だったら、どこでフグを?」 「問題はそこだ!」 ビシッとかっこよく、ティエリアはロックオンに指をつきつける。 「どこでフグを手に入れたか!これが問題だ」 「やっぱ、地球?」 「いや、きっと宇宙フグだ!」 「は?」 「宇宙に生息するフグがいるに違いない!そのフグを、ジャボリー君に食べさせた人物がいる」 ティエリアの可能性は無限だ。どこまで発想が湧いてくるのか。もう、天才かもしれない。 「ええと、ジャボリーは宇宙フグ中毒死、と」 ロックオンは、いつの間にかティエリアの助手になっていた。メモをしている。 「それから、フグ中毒死を偽装する、この首吊り状態。布は・・・・これは、ターバン!?」 よくよく見れば、それは裂いた布ではなく古くなったターバンだった。 私服でこのトレミーにターバンをつけている人物は一人だけしかいない。中東出身の少年。 いっきに、事件が解決に近づく。 「犯人は刹那だ!刹那のところにいくぞ!」 ティエリアは、ジャボリー君を右手にかかえ、助手のロックオンを連れて刹那の部屋を訪れた。 「刹那、入るぞ」 「おい、ロックかかってるぞ?」 「刹那に、ずっと前に暗号を教えてもらった。ロックオンがいないときなど、一緒のベッドで眠っている」 「なにいー!?」 そっちのほうが、ロックオンには大問題だった。恋人のティエリアが、年下ではあるが刹那とそんな親密な関係になっていたとは! 「どうした、ティエリア?」 部屋の中に入ると、刹那は一人で格闘ゲームをしていた。 「刹那、君がジャボリー君に宇宙フグを食べさせ中毒死させ、そして偽装のために僕の部屋の天井に吊るした。ジャボテンダー殺人事件の犯人だな!?」 「違う」 「しかし、このターバンが揺るがぬ証拠だ!」 古いターバンを、刹那に見せる。 「ああ、これは・・・ランドリーでなくなったやつだ。もう随分前に」 「刹那、そんな見え透いた嘘ついても無駄だぞ!」 ロックオンは、刹那を逮捕しようとしている。 「ロックオンと、俺の言葉とどっちを信じるんだ、ティエリア?」 刹那は、ティエリアの頬に手を添えて、じっと真紅の瞳で見つめる。 刹那が、ぎゅっとティエリアを抱きしめる。 「刹那・・・・」 「ティエリア・・・・」 二人は見つめあっていた。ちょっと怪しい雰囲気だ。 「こらこら!」 刹那をティエリアからばりっとはがすロックオン。 NEXT |