時、遡る「もげた!」







いつものように、ジャボテンダーの腕を掴んでブンブン空気を唸らせて振り回し、ロックオンを殴っている時だった。その時は訪れた。

ブチブチブチ、ボトッ。

一瞬、ティエリアは何が起きたのか分からずにぽかんとしていた。

床に落ちた物体を見たロックオンは青ざめた。
「あわわわわ」
床に落ちたのは、ジャボテンダーさんの本体っていうか、胴体。
ついに、ティエリアはやってしまった。今まで、腕とか足の部分が破れた程度で、ロックオンがいつもその部分をソーイングセットを取り出して器用に繕っていたのだが、今回ばかりはどうだろうか。
哀しげに床に落ちたジャボテンダーの胴体の、もげた腕の部分からは綿が大量にはみ出していた。
「ティエリア?」
ティエリアは、ジャボテンダーの腕の部分を持ったまま動かない。
「僕は、もうジャボテンダーさんの後を追うしか・・・」
どこからかロープを取り出してきて、天井に吊るすと首をつろうとする。
「まてまてまてーー!!」
ロックオンが、ティエリアの体を羽交い絞めする。

「僕は、ジャボテンダーさんになんてことを!」
ティエリアは無残な姿になったジャボテンダーを抱きしめて本気で泣き出した。
「ジャボテンダーさん!うわあああああ」
石榴の瞳から大粒の涙がいっぱい溢れて、銀の波となって白すぎる頬を伝って床に落ちる。
ティエリアの脳に、今「ロックオンに直してもらう」という選択権はない。
「俺が直してやるから」
「だめだ、もう手遅れだあああ。こんな重症!」

ロックオンは、いつかこんなことになるんじゃないかと思っていたが、いつものように「腕がもげました、繋げてください」と言い出すと思っていたのに、ティエリアの動揺ぶりは半端ではない。
ロックオンはすぐにある人物の名前を頭に思い浮かべた。
「ド、ドクター・モレノがいるじゃないか!」
「そ、そうだ!彼なら、ジャボテンダーさんに再生治療を施してくれる!」
泣き止んだティエリアは、ロックオンになだめられながら、もげた腕と胴体を持って、いつもよく来るドクター・モレノの診察室を訪れた。
「ああ、今度はなんだ?」
ミルク・オレを飲んでいたドクター・モレノ。
でも、ティエリアが持っていた物体を見て、中身を零した。
ついでに、口の中の中身も吹き出した。

「あっはっはっはっは、ついにやったか」
「笑うなあああ!」
ティエリアは本気でドクター・モレノの首を絞めた。
「ギブギブ」
「見ての通り、ジャボテンダーさんの腕がもげた。再生治療を施してくれ」
「はぁ?再生治療?ロックオンに縫って繋げてもらえばいいだけだろう」
「こんな重症!見ろ、綿が飛び出しているんだぞ!?君は平気なのか!」
「いや、平気だから」
「なんて白状な医者だ!」
ドクター・モレノはいつものように聴診器をティエリアの頭にあてる。
「うーん、これはジャボテンダー中毒症だな。最近ジャボテンダー教なるものがCBでも流行っているようだし」
「なんとかならないか、大将」
「まぁ、手術で縫うのも裁縫みたいなものといえばそうなるが。はいはい、患者が通ります。重症です。ロックオン、お前もこい」
手術室にジャボテンダーともげた腕と、ロックオンは助手として中に入った。

手術中とランプが表示された。

「ああ、ジャボテンダーさんどうか助かってくれ。君がいないと僕は生きていけない。他のジャボテンダーではだめなんだ」
ドクター・モレノの言った通り、ティエリアはジャボテンダー中毒症だった。しかもジャボテンダー教を流行らせたいわば開祖にあたる。


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