時、遡る「女神の子供」







「なんでこんなところにいるんだ?」
ロックオンは、素直にそう質問した。
「ん・・・・これ・・・・」
少女が見せたのは、華奢な白い腕。やせ細ってはいないが、その腕には注射の針の跡が見ただけでも分かるほどにいっぱいあった。
「なんだこれは」
「投薬実験だって。今は、体全体の色素をなくす実験を受けてる。本当の髪の色は紫紺なんだ。今はこんな銀色になってしまった。瞳の色は元から変わらないけれど」
牢屋の中の少女は、悲しそうに目を伏せる。
「ねぇ、またきてね」
「どいてろ、刹那」
「ロックオン・ストラトス?」
ロックオンは、牢屋のシステムをいじりはじめた。ハッキングをしかける。それだけの能力がロックオンにはあった。刹那とアレルヤはまだ教わっていないが、ロックオンはすでにこういった複雑なシステム装置へのハッキングの仕方を教わっている。
システム装置の枠を外し、中の線をいじるまくるロックオンに、牢屋の中の少女は困ったように長い長い、床に渦巻く銀の髪を弄びながら絶望にひしがれる。
「だめだよ。たとえこの牢屋があいても、その先に僕の体温感知センサーがあって、外に出れない仕組みになっている」
「いいから、ここから連れ出す」
「どうして?」
「どうしてって、お前は何もかんじないのか。こんなところに監禁されて、投薬実験なんて受けて、まるでモルモットじゃないか。人間扱いされてない」
少女はあっけらかんと答えた。
「だって、私は人間じゃないもの」

システム装置がカチリという音をたてる。牢屋への扉が開く。
「人間じゃないなんて、そんなばかなことあるか」
「だって本当だもの。私は人工生命体。人間じゃない。だから人権も何もない。犬や猫のようなもの。私を生かすも殺すもここの人間次第」
ロックオンは、少女の頬を軽く張った。
少女は呆然とロックオンを見上げる。
「どうして・・・・」
「人間だ!」

人間だ。
そうだ。
ずっとずっと、誰かにそういって欲しかった。
私は人間でありたかった。
なのに、どうして人工生命体なんだろう。

「・・・・・・・・・・・ひっく」
少女は泣き出してしまった。
「ごめん」
ロックオンは謝ると、上着を少女に着せる。あまりに薄着だったからだ。アレルヤと刹那は、人がこないように見張っている。
「歩けるか?」
「無理・・・長い間歩いてないから・・・」
ロックオンは少女を背負った。その胸は、本当にまっ平らで、絶世の女神のような美貌をもった少女は、中性的で少年かもしれないとロックオンは思った。でも、今はそんなことなんてどうでもいい。
この子を、ここから救い出さなければ。
「なぁ、お前のこと知ってるのか、ここの代表は」
「代表?何それ・・・私のことを知ってるのは、ここのドクターチームの一部だけだよ」
「くそが!」
ロックオンは吐き捨てた。
ばれていないことをいいことに、CB機関の奥で人体実験が行われている。そうロックオンはとらえたのだ。
「逃げよう!」


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