一瞬の永遠「特異な力」







「ええと・・・・何百年も前に死んだ、元宇宙総帥閣下の恋人さんですか?」
「うん、そう」
白人の青年こと、ニール・ディラディは透けた体で微笑んだ。
ティエリアに、ニールの姿は見えない。
宇宙総帥として必死に人を導き、宇宙のコロニー開発の先駆者となったティエリア。リジェネと刹那、同じイノベイターであり不老不死の二人がティエリアを支えていたが、それでもティエリアはずっと信じていた。

ニールと、この世界でもう一度出会うと。

ティエリアに限らず、イノベイターの能力や存在は人よりも、異種に近い。ティエリアは総帥として150年間も君臨しながら、異種たちとコンタクトをとり続け、そして彼らに「ニールとの出会いは不可能である」と否定されたのが今から130年前。
高次元生命体である異種。様々な能力を有しており、中には未来をみる力をもつ巫女もいた。
その巫女にまで「出会いは不可能である」と否定された。

ただ、一瞬の希望。
全ては灰燼と化し、宇宙総帥の座を補佐であったリジェネに託してコールドスリープについた。そのまま死ぬつもりだった。けれど、ティエリアを失いたくないリジェネはコールドスリープの限界で、ティエリアを覚醒させた。
ティエリアは責めなかったが、まだ生きているのかと天を仰いだという。
イノベイターという存在が、これほどまでに厭わしいとティエリアは思いもしなかっただろう。死すら思い通りにならない。実際に、今世界に存在するティエリアは以前のティエリアではない。
コールドスリープする前に一度肉体は滅び、意識体も滅んだ。だが、たえず脳量子波でスペアの肉体と記憶が全て繋がっており、新しいそう、戦争が終わった頃からいえば第3の肉体で生きている。

「先代宇宙総帥閣下が見えないなんて、ほんとですか?」
「うん。見えないんだ。世界ではティエリアは異種との交配の子ってなってるらしいけど。特別な能力はいろいろあるけど、でも俺みたいに魂だけの存在のそう、幽霊ってのは見えない。昔は、少しなら見えてたけど。今はその能力も失っている」
バーバラは、なんの違和感もなくニールと名乗った幽霊と話す。
こんなこと何度であった。今更驚くことでもない。

「頼めるかな?多分、あんたの手を繋いでいれば、俺の姿がティエリアに見える」
「い、今すぐいってきます」
「あ、待てよ、おい!」

バーバラは、隣のチャイムを鳴らすと、支離滅裂な言葉で全てのことを打ち明けた。その結果、ティエリアは綺麗な顔を顰めて、警戒した。
「何故、ニール・ディランディのことを知っている。そうは見えないが、情報局の者か?話すことはない」
ティエリアは、そのまま扉の奥に消えてしまった。

「だーからー。ティエリアはもう「魂」って存在も信じていないんだ。昔はあんなに信じてたのに」
「す、すみません」
バーバラはしょんぼりとなって、部屋に戻ってニールに頭を下げる。
「会話からはじめよう」
「会話ですか」
「そう、俺とティエリアしか知らないことを、あんたが口でティエリアに告げるんだ」

バーバラは隣のチャイムを何度も鳴らす。出てくる気配はない。警戒されているのは明らかだった。

「あ、あの!ニール・ディランディさんの魂というか霊というかが私の隣にいて、あなたに伝えたいことがあると。
誕生日には、ガーネットの宝石を贈ったそうですね。よくジャボテンダーが好きで、いつも一緒のベッドで眠ったり、デッキで天日干しにして、それからティエリアさんの歌はとても綺麗で、いろんな歌を聞かせてもらったと・・・・」
ガチャリ。
扉が開く。ティエリアの顔は、驚きに目を見開いていた。


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