ガンダムマイスターたちが学園に到着すると、グラウンドは白一色で多い尽くされていた。 異常気象でもなんでもない、人工降雪機によって雪が大量に降らされたのだ。すでに前々から「雪祭り」なる予告は堂々とされていたので、コートをきて手袋をはめ、防寒対策はばっちりな他の学生たちが雪を触って遊んでいる。 季節は春を過ぎた初夏。 といっても、雪がすぐに溶けてしまわないように、気温が少し低い週間を選んで雪は降らされた。 特殊な粉を混ぜることで、雪は真夏の太陽の下でもそうそう溶けることはない。それでも、「雪祭り」の雰囲気が暑い日に行われたのでは皆無だ。少し寒い日に「雪祭り」なる私立ガンダム学園の創立以来から続くわりと伝統的な行事が行われることとなった。 「うわあ、ほんとに降ってる」 雪など拝むことがほとんどないアレルヤが、真っ白なグラウンドをみて歓声をあげた。 ニールとライルはアイルランド生まれで、故郷が北の国に位置するせいで雪は見慣れている。ティエリアとリジェネは、母親が雪深い国の第二王女として生まれたため、故郷に戻るときなどによく雪に触れている。 ティエリアとリジェネは人工生命体であるが、その基礎となった卵子は第二王女のものであり、精子はその夫のものであるため、血と遺伝子はちゃんと繋がっていた。法律的に人工生命体は養子として出されることが決まっているので、養子として引き取られたが、二人は確かにアーデ家とレジェッタ家の血を継いでいる。 また、いくつも経営しているスキー場などがあるために、雪に触れたいと思えばすぐにどこかの国のスキー場にいけるし「自分専用のスキー場が欲しい」と我侭をいいだせば、この双子に甘い両親は余りある財力を湯水の如く使ってそれをなしとげるだろう。 実際に、子供時代わりと我侭だったリジェネは、その我侭ゆえに両親に余計な金をたくさん使わせている。現在はその今まで作られた「自分専用の何か」を寄付したり、普通に市民に無料で公開するなどしている。その点はティエリアがリジェネを尊敬する部分でもある。 「雪なんて、別に珍しくもないじゃない」 リジェネがふわふわのコートを着て、マフラーを巻き、耳には耳宛、手袋と完全に防寒対策をした格好で皆より少し送れて、送迎車の高級車から降りた。 隣にいるティエリアは、リジェネとお揃いの格好をしている。 皆、鞄は持っていない。今日から数日はいわゆる学校全体での「お遊び」の日であって、鞄なんって持ってくる必要はないのだが、ニールとライル、それにアレルヤはいつもの癖で鞄を持ってきていた。 「ああ、そういえば今年はおばあ様にあってない」 ティエリアが、同じように防寒対策としてマフラーを巻いたジャボテンダーを抱きしめながら、懐かしそうに晴れた青空を見上げる。 ティエリアとリジェネのおばあ様こと祖母は、かの国の女王だ。ティエリアとリジェネの母は王位継承権を放棄していないため、第二王位継承権を持っている。即ち、その子であるティエリアとリジェネも無論王位継承権を持っており、本来ならば王宮で育てられ、王子と王女としてその国に住んでいるはずであったが、父親であり伝統ある名貴族の後継者であった夫と大恋愛の末に結婚し、ティエリアとリジェネの母親は今の国に住んでいる。 祖母は娘の幸せを願い、そしてかわいい孫たちを溺愛していた。 お忍びで国を抜け出して、孫と娘に会いにくることもあるほどだ。 「おばあ様なら、先週専用コンピューターを通して会ってるじゃないか」 「違うよ。確かに会ってることになるけど、ちゃんと故郷を訪ねて肉声を聞いて実際に会ってないじゃないか」 「まぁそうだけど」 リジェネは祖母は嫌いではないが、いつまでも子供扱いしてくるのでどうにも少し苦手であった。 「来週会いにいこう。うん。お母様とお父様も連れて」 ティエリアはもう決めたようだった。 さぞかし、祖母は喜ぶだろう。 ティエリアが行くということは、無論リジェネも行くことになる。リジェネがどうして祖母が苦手かというと、将来の結婚相手を見繕って、お見合いというものをリジェネに何度もさせるからだ。 ティエリアは自由なのに、なぜ自分だけなのかというと、「今は亡き第一王女の第一王子」にどことなく似ているせいでもあった。すでに死んでしまった従兄弟のことなど、リジェネは知ったことではないのだが、祖母はリジェネにできれば国を統治してほしいらしかった。無論、リジェネはすでに拒否しているが、結婚相手を見つけるという大役だけはどうしても果たしたいらしい。 「ぼーっとしてどうしたの、刹那」 刹那は、本当にぼーっとしていた。 アレルヤ、ライル、ニールが雪合戦をはじめているのを、ぼーっと眺めている。 「・・・・・・・・・・・去年、雪祭りで俺は地獄絵図を見た」 「去年?」 ティエリアが首を傾げる。それはまだティエリアとリジェネが転校してくる以前のことなので、無論ティエリアは知らない。 「そう、あれは・・・」 刹那が語りだすよりも前に、絶叫がグラウンドにいる生徒たちからもれ、皆が逃げ出している。 「少年よおおおおお、寒い日も元気にしているかああああああ」 グラハム先生は、上はスーツを着てちゃんとネクタイをしめたいた。 元気に走り回っている。 うん、凄い元気だ。 下が・・・・たとえ、社会の窓全快でも、生徒たちは逃げ出さないだろう。 うん、たとえいつものような金色のふんどしに「少年命」という姿でもここまで逃げ出さないだろう。 それはそれはとても元気に、グラハム先生はフルチンで白いグラウンドを走り回っていた。 NEXT |