エメラルドの光と纏って堕ちていくロックオンの体を、ティエリアは包み込んだ。 「あれ・・・・暖かい・・・変なの」 ロックオンは、ティエリアの頬を撫でた。 ティエリアは、制服姿から裸になっていた。背中には、12枚の翼がいつの間にか生えていた。 「ルシフェル?」 ロックオンが背中の翼に手を伸ばすと、12枚の翼は六枚になった。 「なんだ・・・セラフ・・・・ティエリアの姿をしたセラフ」 「ロックオン」 ティエリアの腕の中で、闇に沈んでいったロックオンの体はエメラルドの光の泡沫となって消えてしまった。 「ロックオン・・・!!!」 そう、これは再生された世界の「記憶」 「記憶」であって、ロックオンはもう何年も前に実際にこうして死んで、今も宇宙のどこかを漂っている。 そう、これは「記憶」 分かっているのに、ティエリアの涙は止まらない。 「ああああああ」 背中には、六枚の翼が光り輝いている。 「ロックオン、ロックオン、ロックオン・・・・・」 散っていくエメラルドの光をティエリアは必死でかき集める。何度何度かき集めても、それはロックオンの形にならない。 どんなに手を伸ばしても。 「こんなに心が痛い・・・でも、あなたを愛してよかったと思う。あなたと出会えて良かったと思う。ロックオン・・・・僕は」 ティエリアは、背中の六枚の翼を自分で引きちぎった。 「天使なんかじゃない。僕は人間だ。ティエリア・アーデという名の、ロックオンが愛してくれたただの人間だ」 涙をたくさん零しながら、ティエリアはエメラルドの光の向こう側の世界で、自分自身を抱きこんだ。 そして、そのまま意識を失った。 気づくと、いつもの金色の海をティエリアは漂っていた。 確認するが、背中に翼はない。だが、あれが夢であったとも思えない。まどろむように何度も夢をみてきたけれど、あれは確かにそう、世界の「記憶」を見たのだ。 ティエリアは、涙で真っ赤になった瞳で周囲を見回す。いつもの、データの海。 そうか。僕は、こんな思いを今皆にさせているのか。 「そうだぜ。あんまりだろ?」 ティエリアは、金色の海から暖かな手に抱き上げられた。 そこは、光の岸辺。 「あなただってあんまりだ。あんな世界の「記憶」を僕に見せるなんて」 「でもそうでもしなきゃお前さんは鈍いところあるから、みんなの悲しみの深さに気づかなかっただろう?」 「皆が、あんな絶望と孤独感と・・・悲しみを、僕のために味わっているのだろうか」 「そりゃそうだろう。仲間なんだから」 グローブをした手に頭を撫でられて、ティエリアはその人に抱きついた。 「ねぇ。愛してる」 「そんなこと、ずっと知ってた」 「ねぇ、一緒にいてほしいけど、だめなんだね」 ティエリアは、ロックオンに抱きしめられていた。ロックオンはティエリアを硝子細工のように扱って、優しく何度も口付けてくれた。 ティエリアはそのたびに涙を零して、耳元で愛していると囁いた。 「世界の「記憶」でもなんでもいい。今だけは、このままで」 せめて、今だけは。 あなたという存在に触れていたい。 愛しているから。こんなにも、こんなにも。 静かなる海の波の音が聞こえる。ザァンザァンと、金色の海は遠くで波をおしてはひいて、それを永遠に繰り返している。まるでオルゴールのように。 金色の海は、優しくて暖かい母の羊水に似ている。 愛とは 時に世界を変革する NEXT |