静かなる海「金色の海へと還る」







「ティエリア・・・・」
トレミーはアイルランドに向かい、ティエリアの願い通り、冷凍保存されていたティエリアの肉体は棺に入れられ、ロックオン・ストラトスという墓の下に棺の入っていない墓標の下に埋葬された。
「なぁ。兄さんと一緒になりたかったのは分かるけど、でもな」
ライルは、埋葬されていく棺を見ながら、花束を投げ捨てる。白い薔薇と百合の花束。
「でもな、俺はここで終わらないぞ。あんたの意識体は生きてるんだろう?葬式なんか何度しても、あんたは生きてるんだ。アニューのように、死んでしまったのとは違う。諦めないのは、俺だけじゃない」
棺が墓の下に埋まるのを確認するために参加したのは、ライルと刹那だけだった。
残りの皆は、とてもではないが見ていられないと途中で退場して、涙を流していた。

ティエリアの願い通り、墓標のロックオン・ストラトスというコードネームの下には、本名でもあるティエリア・アーデという名が刻まれた。
その下には、二人、永遠の愛の海に眠ると刻まれた。

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「何度でも出会う。この世界で、何度でも・・・」
「僕が望めば、会ってくれますか」
「世界の「記憶」になるけれど、何度でも会って愛してるって呟いて抱きしめる」
「はい・・・・・」
目の前にいるロックオンは世界の「記憶」なんかではない。間違いなく、本物のロックオンの魂だ。物質世界をこえた精神世界なのだ、ここは。
だから、存在していられる。
「いつか、お前を迎えにいくから。この世界のどこかで、いつか、どんな姿になっているか分からないけど」
「魂で繋がっていると、信じてもいいですか?」
「繋がっているとも。絶対に、繋がっている」
ティエリアは石榴の瞳を大きく開き、金色にかえて微笑んだ。
バサリと、背中に12枚の翼が生えた。イメージだが、背中に12枚の耀く羽が。
「俺だけのルシフェル。堕ちた天使よ。いつか、迎えにいく。どんな姿になっても、どんな未来でも・・・いつか、絶対に、必ず」
明けの明星が瞬き堕ちる。

神に弓引きし反逆の天使ルシフェルは、かつて至高天にあり。セラフの頂上に耀き、他の天使たちをまとめたり。悪魔の誘惑に負け、神に反逆し魔王ルシファーとなる。
あるいは魔王サタン。

誘惑に負けた天使。ティエリアは、愛という名のものを知り、人となり、そして。
至高天より堕ちし者はされど背に12枚の光の翼を抱きたり。明けの明星と呼ばれたり。

「ティエリアには・・・やっぱり、こっちのほうが似合ってる」
ロックオンは、12枚の翼から六枚の翼を散らし、そして最後には全ての翼を散らしてしまった。
「愛を知って、人間になった」
「愛を知って、僕はあなたのせいで人間になったんです」
二人は微笑みあう。
そして、最後のキスを交わす。

「じゃ、またな!」
軽快な、実にあっけない爽やかな別れ声と一緒に、ティエリアの前からロックオンは消滅した。
魂が、あるべき場所に戻ったのだろう。
もう、エメラルドの光の向こう側にもいないだろう。
あるのはこの世界の「記憶」だけ。

「ロックオン」
ティエリアが名を呼ぶと、しばらくしてこの世界の「記憶」のロックオンが現れた。
「どうした?」
「いいえ。いつか、またこの世界のどこかで」
そして、ティエリアはこの世界の「記憶」に埋もれることなく、歩きだす。

ポチャンと、金色の海が音をたてる。
還るべき場所はそこ。
母なる羊水のような、金色の海へ。静かなる海へ。


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