ティエリアがバットの代わりにしていたのは愛しいはずのジャボテンダー。 なのに、ティエリアはよく乱暴に扱う。そのせいで腕がもげたり、足がもげたり、目のボタンが外れたり・・・まぁ怪我がおおい。 その度にティエリアは泣いて診察室にかけこんでくる。いや、生き物じゃないんだから、診察室にもちこまれても、治療なんてできないんだが。 そこはまぁティエリアシンドローム。ロックオンと二人で手術室にこもって、丁寧にランプまで灯して、手術台の上に寝かせてチクチクと、裁縫する。おかげでドクター・モレノは裁縫が趣味の一つになった。 恐るべし、ティエリアシンドローム。 「ドクター・モレノ。たんこぶができているが大丈夫か?」 ティエリアが首をかしげている。 一体誰のせいだ、誰の。お前のせいだ、お前の。 まぁ、そんなことで怒るようなドクター・モレノではない。 「で、どうした。またジャボテンダーが怪我か病気でもしたのか。それとも健康診断してほしいのか」 ドクター・モレノはゴミ箱に捨てられた新しい白衣を、椅子にかける。びちょびちょで汚れている。あとでランドリーで洗濯せねば。 「あれ、そういえば俺らなんの用事でここにきたんだっけ」 ロックオンがそう言い出した。 「あれ?なんだったっけ」 物覚えのいいティエリアまで忘れてしまったようで、二人してうんうん唸っている。ジャボテンダーを何故か、ティエリアはベッドに寝かせて毛布を被せた。 「とりあえず、ジャボテンダーさんは寝かせておこう。で、なんの用事できたんだ、僕とロックオンは。ドクター・モレノ、知らないか?」 知らんがな。 知ってるはずないがな。 そもそも忘れるような用事なのか。まぁ緊急でこられるよりはずっとましだが。流石に緊急の本当に、流血沙汰な戦闘後の治療は、こっちも心臓に悪い。特にティエリアは痛みに対する神経が鈍いせいで、そのための薬を処方しているのだが、それでも最近ききにくくなってきたのか、この前検査したら腕の骨が折れて自然治癒で完治した痕が発見された。人間ではないティエリアは、驚くほどに怪我に対する自己治癒能力が高い。だが、だからといって放ってはおけない。細菌感染や二次感染をひきおこされたりしたら、たまったもんじゃない。 ティエリアの健康診断は他のクルーよりも頻度が高く、無性というためまた慎重になる。普通なら体調悪化になっている症状でも、本人は何も感じないので気づきもしないのだから始末が悪い。 それに人間がかかる病気にかかると、違う症状を引き起こす可能性が高いので注意が必要だ。なので、インフルエンザや風邪といった流行しそうな病気には一番早くにワクチンの注射を受ける。 その他、様々な病気のワクチン接種を受けた。 「あー、えーとなんだっけ」 ロックオンが、困ったなという表情をしていた。 「ああ、そうだ。ジャボテンダーにもインフルエンザのワクチン接種しとくか」 ドクター・モレノはいたって真面目にその用意をする。本人、今気づいていない。ジャボテンダーが人間じゃないってことに。頭のたんこぶから、どこか悪いとこでも打ったらしい。 「えーと、右手だして。消毒するから」 ロックオンが、ジャボテンダーの右手をさしだす。 ここら辺、とても息が合っている。 「いーやーだー!!注射はいや!痛いから嫌い!」 ティエリアが、ジャボテンダーをひったくって、匿う・・・・どころか、ぶんぶん振り回して、二人をべしべし叩く。 「あいててて」 痛くないように見えるが、けっこう痛いんだこれが。 そうだ、ティエリアは注射嫌いだった。これ、大人にもけっこう多いんだけど、ティエリアの場合ワクチン接種で通常よりも過剰に注射されたり、採血検査を頻繁に行われたりするので、注射嫌いになってしまった。 いつもはロックオンが傍にいて必死に耐えている。ここらへんは、涙ぐましい。 注射器が、プスッと暴れる(?)ジャボテンダーに刺さった。 「ジャボテンダーさんが注射器に襲われている!」 いや、ティエリアがぶんぶん投げて、ロックオンとドクター・モレノをべしべし襲うから、ドクター・モレノの手にあった注射器が偶然刺さっただけなんだが。 襲われているらしい。 ティエリアは、注射器をゴミ箱に捨てた。 「まてまてまてまてまてええええええ!!」 流石に、その行為は医者としてドクター・モレノは見逃すわけにはいかない。 ワクチンの入った注射器を通常ゴミとして処理するなんて、そんなことできるわけがない。 そういったものは、特殊な処理を終えてゴミとなるのだから。医療施設のゴミだって、漁って中から患者の切り取った肝臓が出てきたりしたら怖いだろう。なんの注射に使ったかもわからない注射針がでてきたら怖いだろう。それとおんなじだ。 NEXT |