硝子細工の小鳥「何度でも何度でも」







それはまるで硝子細工の小鳥。
あるいは天使。
脆くて脆くて、触れたら壊れて消えてしまいそうな。

その存在が、ここに在るのだと確認するために何度も抱きしめる。何度も口付ける。

「愛してるから」

何度も囁く。
ちゃんと、言葉は届いているはずだ。そうだと信じたい。
この想いがちゃんと伝わっていると思いたい。

「なぁ、なんで泣くの?」
涙を零すティエリアの涙を拭きとってやる。
ティエリアは首を左右に振って、ただ泣いていた。
「大丈夫だから。俺がいるから」
腕の中の小鳥が消えてしまわないように、優しく何度も髪をすいてやった。
石榴色の瞳は、天井をみて、それからロックオンのエメラルドの瞳を見た後、また天井を見た。
「絵本読んで」
拙い言葉で、言葉を綴るティエリア。
ロックオンは、ティエリアが手を伸ばしてとった絵本をもって、ティエリアをベッドに寝かしつけると、その絵本を読んでいく。
「お姫様は、王子様にいいました。ずっと一緒にいてくださいと。王子様は言いました。お姫様がそう望むなら、ずっと一緒にいてあげると。お姫様の願いは叶いました」
もう、何度も読んだ絵本。
続きを、ティエリアが繰り返す。
「お姫様は言いました。やっと願いが叶った、これで私は魔女の呪いから解放される。美しいお姫様は、硝子細工の小鳥になってしまいました。何百年もずっと一人で孤独に生きてきたのが、魔女の呪いだったのです。王子様は、硝子細工になってしまったお姫様の傍にいるとちかった通り、ずっとずっと傍にいました。そして、王子様は硝子細工の小鳥となったお姫様の対の小鳥になりました。王子様が、そう願ったのです。お姫様の傍で、王子様も硝子細工の小鳥となって、二人で永遠の時を過ごしました」
パタンと、絵本を閉じるロックオン。
「いい子だな。中身覚えたんだな」
ロックオンは、優しく笑ってティエリアの額にキスを落とす。
「ねぇ。あなたは誰?」
「俺か。俺はな、ロックオン・ストラトス。お前の王子様だ」
「そう。僕の王子様。お姫様は誰?」
「お姫様はお前さんだ」
「誰?」
「ティエリア、お前だ」
「それが僕の名前?」
「そうだ。俺だけのお姫様だ」
ロックオンは、涙を零しながらティエリアを抱き寄せた。
「俺だけのお姫様。ずっと傍にいてやるから。硝子細工の小鳥になっても、ずっと傍にいてやるから」
それは絵本の内容だ。ロックオンがティエリアを抱きしめると、ティエリアも反応を返してロックオンの背中に手を回した。
「王子様は誰だっけ?」
「俺だよ」
何度も答える。

ティエリアの石榴色の瞳が、ロックオンを見つめる。それから、数度瞬いた後、ロックオンの存在を確認して嬉しそうにしている。
「そう。あなたが・・・・王子様。僕だけの王子様」
「ああ、そうだ。お前だけの王子様だ」
石榴色の瞳が、天井を見上げる。次の瞬間には、もうティエリアはさっき自分が口にしていた言葉さえ忘れていた。

「あなた、誰?」

「俺はな、ロックオン・ストラトス。お前の恋人でお前だけの王子様だ」
ロックオンは、何度でも繰り返す。何度でも何度でも。
「お前を愛しているんだ」

愛が、永遠なら。
どうか、愛をこの子に分からせてあげたい。
愛していると、もう一度この子に言ってほしい。

嗚呼。

硝子細工の小鳥。魔女の呪いでずっと孤独で一人で生きてきた。王子様が現れて、一緒にいてくれると誓った。魔女の呪いは解け、お姫様は硝子細工の小鳥になった。
それでも王子様はお姫様の傍にいて、お姫様を愛し続けた。
やがて、王子様もお姫様と同じ硝子細工の小鳥となった。お姫様と対の小鳥に。

ああ。

「愛してるから」
「愛ってなぁに?」
腕の中で、ティエリアは笑っていた。さっきまで泣いていたのに。
「愛っていうのはな・・・」
ロックオンはティエリアを腕の中で抱いたまま、語り聞かせる。
「そう、そんなに素晴らしいの。僕も誰かに愛されたい」
「俺がいるよ」
「本当に?」
「ああ」
「・・・・・ねぇ、僕、さっきなんて言ってたんだっけ?」
不思議そうに、ティエリアは首を傾げる。
「絵本、読もうか」
ロックオンは、さっき読んでいたばかりの絵本を読み出す。その絵本を読めば、ティエリアは多少なりともロックオンという存在を認識してくれる。



NEXT