夕食のシーフードパスタを、ティエリアはおいしそうに食べている。 「うまいか?」 「うん、おいしい」 「食べ終わったら、散歩に出かけて、それから買い物して、戻ったら一緒に風呂に入って、それから・・・・」 「絵本読んで!」 「ああ、読んでやるよ」 「嬉しい」 ティエリアは本当に嬉しそうだった。 ロックオンの生家には、子供用の絵本がたくさん増えた。全部、ロックオンが買ったものだ。今のティリアは、3〜5歳時くらいの知能だそうだ。 かつてはIQ180をほこったティエリア。それを失わせたのは、誰でもないロックオンかもしれない。敵襲の時、ロックオンがいて守ってやれば、こんなことにはならなかったのかもしれない。悔やんでも悔やみきれない。 「散歩いこ、散歩!」 ティエリアは、夕食の後片付けをしているロックオンの服をひっぱった。 「ああ、ちょっとまってくれな。もう少しで後片付け終わるから」 「うん、待ってる」 ロックオンは、洗濯物を干しにベランダに出た。 その間に、ティエリアは一人で外に出てしまった。もう何度目になるかも分からない。警察が、いつも保護してくれた。もしくはご近所の人が見つけて保護してくれた。CBの監視下にあるためだ、発見は早かった。寝ている時でも、気づけばティエリアは外に出てしまっていたので、対処しきれないときがロックオンにもあるのだ。こんなに傍にいつのに、気づけばティエリアはふらりといなくなる。 ここ最近、敵勢力が強くなって、世界は変わっていった。アロウズなる独立武装組織が存在し、そしてCBは苦戦を強いられ、監視もなくなった。 「あれ、ティエリア?」 リビングに戻ってきたロックオンは、ティエリアを探し回ったが、家にはティエリアはいなかった。積み木の玩具が出されたままだ。TVだってつけっぱなしだ。 食べかけのお菓子だってそのままだ。 「ティエリア!ティエリア!!!」 パスワード式に変えたドアの開閉。けれど、こんなことだけティエリアはきちんと覚えている。 愛しているロックオンの名前も一日で忘れてしまうのに。 「ティエリア!!」 ロックオンは、すぐに上着と財布をもって家を出た。 近所の人がはみんな年末ということで旅行に出かけていた。 「くそ!頼むぞ、ハワード!」 少し離れた民家の犬を借りる。かつて警察犬をしていて、後ろ足を一本失って引退した。そのジャーマンシェパードをかりて、ティエリアの服のにおいをかがせて、後をおわせる。 とてもじゃないが、一人では探しきれない。 行方が分からなくなると、いつもその犬を頼った。 「情けない・・・・愛する人間一人守れないのかよ、俺は!」 嫌な予感がした。 ついた場所は、少し離れた人気のない公園。 子供のすすり泣きのような声が聞こえる。 よく耳を澄ませれば、それはティエリアの泣き声だった。 「いやぁ、いやぁあああ」 「しー、静かにしろって」 「やだあああ!」 「この気狂いのくせに!こっちはこの機会窺ってたんだからな」 「おい、早くしろって」 「いやあああああああ!」 ロックオンは、ポーチから拳銃を取り出し、威嚇射撃を行う前に、その人間たちを射殺した。 「俺は、守れないのかよ・・・・」 天を仰ぐ。 引き裂かれた衣服。泥にまみれた手足。長くのびて、綺麗に編んでいた髪は地面に流れている。 「ひっく、ひっく、ひっく。いじめないで、いじめないで・・・・・」 ティエリアは三人の男に乱暴されかけていた。 射殺した相手を蹴り飛ばして、ティエリアに近寄る。 「いや、いやあああ」 ティエリアは、石をつかんでは、それをロックオンに投げつけた。 「いや、いや!!いじめるからいや!」 「いじめないから」 「嘘つき!!」 「愛してるから、守るから」 「嘘つき!!!」 その言葉は、ロックオンを絶望の底に叩き込んだ。 返り血にまみれたティエリアを、抱き上げる。 「ひっく、ひっく。助けて。誰か助けて」 血にまみれて動かなくなった死体に向けて、必死に手を伸ばすティエリア。 また乱暴されると思っているのだ。 未遂であったことは、ティエリアが下着を着ていたことから推測できたが、それでもロックオンはもう何もかもが壊れていく気がした。 せっかく二年かけて気づきあげてきた、俺とティエリアの関係が壊れていく。 音を立てて。 それからというもの、ティエリアはロックオンを威嚇してろくに言葉も交わさなくなった。 「絵本を読んで」という拙い片言さえも言わなくなった。 嗚呼、神さま。 あなたを、俺は憎む。 愛とは永遠なり。 ・・・・・なにが永遠だ。何が無限だ。 それでも。 それでも。 俺は、ティエリアを愛している。 守れなくてごめんな。守ってやれずにごめんな。 俺を憎むだけ憎んでくれ。でもな、俺にはお前が必要なんだ。 ティエリア。 愛しているから。 だから、傍にいさせて。 NEXT |