硝子細工の小鳥「かなえてあげる願いはささやかに」







「ティエ、ロックのこと愛してるの」
「そうか。俺もティエリアのこと愛してるぜ」
「絵本読んで!絵本!」
ティエリアは積み木のおもちゃを放り出して、食べかけのケーキを食べながらロックオンにねだる。
ロックオンはどこまでティエリアに甘く、優しい。
叱ることなど絶対にしない。
たとえティエリアが何かを壊しても、叱ったりしない。
「ティエね。夢見たの。ロックと硝子細工の小鳥になってお空を飛ぶ夢」
「そうか。俺も一緒に飛んでたんだな」
「うん。ロック、僕の傍で一生懸命飛んでた」
ティエリアは石榴の瞳で天井を見上げる。
ああ、またその時がきた。
「あなたは誰?」
記憶をしっかりしていても、忘れてしまうティエリア。
「俺はな、お前だけの王子様。お前の夫でロックオンっていうんだ。お前を愛してる男だ」
「僕はだぁれ?」
「お前はティエリア」
「綺麗な名前だね」
「そうだな。お前の名前は天使みたいに綺麗だ。お前の存在も天使みたいに綺麗だ。絵本、読もうか?」
「ああ・・・うん。ティエだ、僕」
思い出してくれたようで、ロックオンはほっとした。
「僕がロックに読んであげる!」
ティエリアはロックオンの手から絵本を奪って、中身を読み出す。
全部ひらがなでかかれており、ティエリアにだって読める。何より、もう何千回もこの15年以上の間聞いてきたせいで中身を覚えている。
「ロックは・・・・ロックは、ティエが硝子細工の小鳥になったら、一緒に硝子細工の小鳥になってくれる?」
「ああ、なるよ。ティエリアが死んだら、一緒にいくよ。一人にしないよ」
「ティエ、お薬飲む量増えたね。ティエ、もうすぐ終わりなんだね」
「大丈夫、怖くないよ」
「うん。ロックが傍にいるから、怖くない!」
長い闘病生活から解放されることに、ティエリアは喜んでいた。
死というものが何であるのかは、きっと認識していないだろう。楽になって、違う世界でロックオンと一緒に傍にいれると思っているのだ。
「ロック、泣かなくなったね」
「泣いてばかりだとな。俺は男なんだし。ティエリアを守る王子様だから」
「ロック、綺麗」
ティエリアは手を伸ばして、ロックオンのエメラルドの瞳を見つめる。
「ティエリアのほうがおれの何千倍も綺麗だよ」
「この指輪、ロックと同じ目の色してる」
「うん。ペアリングっていうんだ。一緒にな、昔選んで買ったんだ」
「ティエ、覚えてない」
暗くなるティエリアを抱き上げて、ロックオンは何度も口付けた。
「ロック・・・暖かい」
ロックオンに抱き上げられながら、ティエリアは目を瞑る。
「今度、二人だけで結婚式をあげようか」
「うん、する!」

二人は、その翌日には誰もいない教会に出かけて、ブーケだけを買った。
「もう、俺はお前の夫だけど・・・改めて、お前を愛し続けることを誓う」
「ティエは〜ロックの傍にずーっといるの」

アレルヤハレルヤ。
神に栄光あれ。
二人に祝福を。

二人は、深く唇を重ねる。
ティエリアはもう、一人では長く歩くことはできなくなってしまった。車椅子に乗っていた。
「さぁ、結婚式はこんなのでいいかな?」
「うん。ティエこれで満足」
神父のいる教会で正式に結婚式をすればよかったのだろうが、ティエリアは人見知りをする。とてもじゃないが純白のウェディングドレスをきせるなんてことは、ロックオンが傍にいないのだからできないだろう。
着付けの相手から逃げだすだろう。
ティエリアの服は白いウェディングドレスではないが、白いケープを着てきた。
それに、ティエリアはこんな簡素な結婚式でも喜んでくれる。
台詞だって、もう適当だ。
本当に、ちゃんとした結婚式をあげてやりたかった。ごめんな、ティエリア。

「ティエはーロックと一緒。いつでも一緒」
もうティエリアは、ガンとつげられてから4年になろうとしている。
もう限界だろう。
死期はすぐそこまで迫っている。
せめて、ティエリアの傍にずっといて深く愛し、ティエリアが望むことならできるだけかなえてやろう。

「ほら、ティエリア、ブーケ投げて」
「投げるのー」
投げるというよりは、ぽいっと捨てた。
「さぁ、帰ろうか」
「うん、帰る」
車椅子をおして、ロックオンは教会を後にする。

リーンゴーンと、教会の鐘が鳴り響く。
二人の確かなる愛を祝福するように。

死が迫る中、二人は静かに寄り添いあう。
いつか、硝子細工の小鳥になるのは、この二人は。

愛とは。
愛とはかく永遠で無限で・・・・そして純粋。
二人の愛は純粋すぎてあまりにも透明で。

まるで湧き上がる泉のように澄んでいる。

それが、ティエリアとロックオンの愛の軌跡。
二人が真っ白なキャンバスにこの17年間描いてきた愛の音色。
とても綺麗な、綺麗すぎる愛。



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