パラレル注意。2期終了後のお話です。 それが、たとえ禁忌でも。 人は、禁忌であることを平気でおかす。 禁じられていることをすることに、人は快楽を得る。 なんて罪深い生き物だろうか、人間という生き物は。 神様が、エデンからアダムとイヴを追放したのでだって、仕方のないことだ。 禁忌である、木の実を食べてしまったアダムとイヴ。 そこから、人の罪ははじまった。 人の罪の歴史は消えない。 人間は、生きている限りなんらかの罪を犯す。 それは、あるいはただ簡単な嘘だったり、あるいは法律に触れるような犯罪だったり。種類は様々ある。だが、人は罪なくして生きてはいけない。 この地球上で、もっとも優れた知能をもつ人は、罪を犯して生きている。 最も大きな罪は、戦争。 軽い罪(嘘などの)しか犯していない人間を、殺戮する。 人は、人同士で殺しあう。 他の生物にも、同じ同種の生物を殺す傾向はあった。だが、それはどれも子孫を残すためだ。 新しいプライドに入ったライオンが、前のボスであったライオンの子供を殺すのは、その子供が自分の血を引いていないからだ。子供を殺すことで、メスたちはまた発情し、新しく子供を残せる状態になる。そして、プライドをのっとったライオンは、自分の血をひく子供を産ませ、子孫を残す。 時折、他の生物で育児放棄により、子供の死という現象もあったが、人間のように自分の子供を虐待して殺すことはない。 ただ、育児を放棄する。それにより、子供は衰弱して死んでしまう。 人間は、自分の子供を躾と称して傷つけ、時には死に至らしめる。その現象は、他の生物に比べて極端に多い。 本当に、人間は罪深い生き物だ。 人が人同士で殺しあうのも、ある意味仕方のないことなのかもしれない。 彼(彼女)はそんな人間になってしまった。 犯した罪の数は数え切れない。殺した人間の数は何百人になるだろうか。 それでも、未来のため、明日のためと。 そんな時代も終わった。 戦争は根絶され、小さな争いはそれでも耐えなかったが、CBは思い描いていた理想の世界を構築した。 自由になったガンダムマイスターたち。 人が愛しあい、笑える時代がやってきた。 神は、今でも人を愛している。 アダムとイヴを追放してしまったが、それでもまだ神は人を愛していた。 その無限の可能性と、深い愛を信じて。 トレミーが、地球に降りる。 もう、宇宙で戦う必要はないのだ。 たくさんの仲間を失った。長い戦いだった。 もう、仲間を失うことはないのだ。 CBは、それでも解散の形はとらない。 強い信頼の元にある仲間たちは、決して二度と仲間と連絡をとらないというような方法はとらなかった。 それぞれ、世界に散らばりながらも、定期的に仲間とコンタクトをとる。 アレルヤとマリーは、結婚した。 煌びやかな結婚式だった。 出席したCBのメンバーたちは、二人の新たなる出発を祝った。 マリーのお腹の中には、もうアレルヤの子供が小さな生命として宿っていた。 「おめでとう、二人とも」 祝いの言葉が、惜しむことなく注がれる。 純白のウェディングドレスをきたマリーは、とても美しかった。 正装したアレルヤも、とてもかっこよかった。 二人は、誰の目から見てもお似合いのカップルだった。 「おめでとう」 刹那が、微笑して二人の結婚を祝った。 刹那は、よく笑うようになっていた。 無表情であった頃が、懐かしいくらいに。 「おめでとさん」 ライルが、エメラルドの瞳でウィンクする。 マリーとアレリヤは、二人揃って「ありがとう」と微笑んだ。 二人は、スイスに暮らすことが決まっていた。 アレルヤの仕事はまだ決まっていなかったが、コンピューター関連の仕事につくつもりだった。 マリーは、子育てにおわれることになるだろう。 「おめでとう、本当に」 ティエリアが、アレルヤとマリーを握手を交わしながら、二人を祝う。 これは、別れではない。 会おうと思えば、二人にはいつだって会えるのだ。 マリーが投げたブーケは、なぜかティエリアの元にやってきた。 仕方なくそれを手にしたまま、ティエリアは困った表情を浮かべていた。 女性ならば喜んだであろう。だが、ティエリアは無性の中性体である。女性化が進んでしまったとはいえ、無性であることに変わりはなかった。 マリーは、どうしてティエリアにブーケを投げたのだろうか。 マリーは、ティエリアに幸せになって欲しいと思っていた。だから、あえてトレミーの女性陣には投げずに、ティエリアに投げたのだ。 「みんな、本当にありがとう」 金と銀のオッドアイで、アレルヤが祝福に包まれながらウェディングドレスのマリーと並ぶ。 マリーは、とても幸せそうだった。これ以上の幸せはないような顔をしている。 花が、二人を祝うために降り注ぐ。 白い花びらが、教会を出た二人に降り注いだ。 白い、雨。 その綺麗な光景に、酔いしれながらも、ティエリアは手に持ったブーケをトレミーの女性陣に向けて放り投げた。 それを手にしたのはフェルトだった。 ミレイナがきゃあきゃあと騒いで、ミス・スメラギが受け取り損ねたと悔しそうだった。 マリーの気持ちはありがたかったが、ティエリアが結婚することなんて一生ないのだ。 この幸せな空間にいられるだけでありがたかった。 ティエリアには結婚を誓った伴侶はもういない。 もう何年も前に、戦いで命を落としてしまった。 「おめでとう」 ティエリアは、それを隠すかのように、二人に向かって微笑んだ。 それは、女神の微笑みのようだった。あるいは、天使の微笑み。 「二人はスイスに住むのか。俺は、今のところまだ日本の東京に住むつもりだ。中東再建に手を貸したいが、CBメンバーであると知られるのはまずいからな」 刹那が、二人を眩しそうに見ていた。 中東にいるマリナを迎えにいくのは、まだ先になりそうだ。 いつか、刹那もマリナとこんな結婚式を挙げるのだろう。 ティエリアは哀しい思いと共に、刹那を見ていた。 二人は、擬似恋愛関係にあった。お互いのことが好きだった。だが、そこに愛をもちこむのは禁止だった。 刹那はマリナを愛していたし、ティエリアはロックオンのことをずっと愛していた。 奇妙な共存関係も、これで終わりか。 ティエリアは、よく晴れた青空を見上げた。 ライルの告白を一度は受け入れたものの、結局は破局した。 あの人と同じ姿、顔、声をもつライルを受け入れながらも、そこに確かにロックオンを重ねていたのだ。 重ねるのは最大の冒涜である。 ティエリアは、自ら進んで一人になった。 今は、ライルにも彼女がいる。結婚も誓い合ったそうで、すでに婚約指輪をはめていた。 ティエリアは、白い花の雨を全身で浴びる。 なんてことはない、ただ昔に戻っただけだ。 連絡はできるし、完全に一人ではない。孤独ではない。 ライルが、ティエリアの様子を気にしているようだった。一方的に別れを切り出したティエリアに、まだ負い目があるようだった。 できることならやり直したい。だが、強く拒絶され、ずっと無視されて、トレミーのある女性と付き合いだした。 それを、ティエリアは本当に嬉しそうに祝った。 「どうか、僕の分まで幸せになってくれ」 その言葉が、とても痛かった。 ティエリアを嫌いになったわけではない。今でも愛している。ただ、別れを告げられ、強く拒絶され、絶望に陥ったときに今の彼女から告白され、それを受け入れた。 ティエリアと付き合っていた頃のライルは、それなりに幸せだった。 ティエリアは、告白を受け入れてくれ、ライルを好きでいてくれたが、愛してはくれなかった。 もう、誰も愛さない。 その言葉をずっと守り続けるように。いけないと分かっていても、ティエリアが自分に兄のニールを重ねているのは気づいていた。 重ねるのは最大の冒涜だ。 ティエリアはそう言っていた。 なのに、重ねてしまう。 ティエリアは、ライルと付き合いだして、昔のようにニールを失ったことへの恐慌状態に陥ることはなく、精神的に安定はしたが、だかいつも哀しそうな目をしていた。 ライルは、自分にニールを重ねてくれても構わないといった。 だが、ティエリアは重ねたくないのだ。それは二人を冒涜する罪であると。 それなのに、自然とライルの中にニールを求めてしまう。 ティエリアは傷ついた。幸せにしてあげようと思っても、その傷ついた心の傷口を塞いだだけで、ティエリアはライルと穏やかな時間を過ごすだけで、肉体関係もなかった。 結局ライルは、ティエリアを救えなかった。どんなに愛を囁いても、ティエリアは哀しく微笑するだけで、愛しているとは言ってくれなかった。好きだとはいってくれた。だが、愛しているとは決していわなかった。 「破滅しか生み出さない。不幸な結果にしか終わらない」 ライルが、ティエリアを振り向かせようと愛を囁いていたときにいった言葉である。 まさに、現実にその通りになってしまった。 告白を受け入れられ、兄のニールから無性の天使を奪ったのだと思っていた。 だが、結局奪い返せなかった。 不幸な結果しか生み出さなかった。破局は、すなわち破滅だ。 ライルは、白い花の雨を浴びるティエリアをずっと見つめていた。今でも愛していた。多分、これからもずっと。 ティエリアは、ライルの視線に気づくこともなく、白い花の雨を両手で広げて全身で浴びる。 このまま、僕を、俺を、私を、あの人の元まで連れて行って。 そんな儚い願いを胸にしながら。 「おめでとう」 「おめでとうですぅ」 「おめでとさん」 「おめでと」 トレミーに乗っていたCBメンバーのいろんな祝福の声があがる。 ティエリアは、精一杯、綺麗に微笑んだ。 二人の幸せを見ていると、こちらまで嬉しくなる。 どうか、僕の分までこの二人が幸せになってくれるように。 「おめでとう、アレルヤ、マリー」 ティエリアは唄を歌った。 二人の門出を祝福するためだ。 綺麗な女性ソプラノで、愛の唄を歌う。 CBのメンバー全員が、その歌声に酔いしれた。 白い花の雨を受けながら、無性の天使は歌い続けた。 どうか、この唄よ、あの人の元まで届いてくれ。 NEXT |