死ぬ覚悟だってっちゃんとある。 罪を背負う覚悟だってちゃんとある。 世界を変えるために僕はガンダムマイスターになったのだから。 世界は確かに変わったのかもしれない。 けれど。 僕は。 あなたに。 あなたには生きていて欲しかった。 あなたが生きてこの世界を見ていてくれればどんなにいいだろうか。 そんな叶わぬ願いを考える。 ただ。 あなたに生きていて欲しかった。 それが私のたった一つの願い。 手配した制服に着替える。 僕の制服は紫をイメージしたものだ。制服を着ようとして、途中でやめてベッドに放り投げる。 「あなたがいない」 どんなに探しても、この世界にはあなたはいない。 僕の前からいなくなってしまった。 世界から消えてしまった。 刹那とアレルヤは絶対に生きていると信じている。それは確信。 けれど、あなたはもういない。 自分から死にたいと思ったのは、あの時が最初できっと最後。 トレミーの皆を守るために、CBを再建するために僕は生きなければならない。どんなことがあっても、生きて生きて生きぬいて。 あの時僕は、彼の元にやっといけるのだと安堵した。 重症を負い、血にまみれながらも涙を零したのは彼の元にいけるのだというその安堵感からだ。決して痛みから涙を流したわけではない。 皆、多くのものを失った。 仲間の命。 大切なもの。 未来。 世界。 明日。 それでも時間は過ぎていく。指の間から零れ落ちる砂のように、消えていく光たち。 傷ついて、傷ついてボロボロになっているのはみんなおんなじ。 弱音を吐いて、ぼんやりしている場合じゃないって分かってるのに、気づくと彼の姿を探している自分がいる。もうこのトレミーにも地球にも、世界の何処にもいないって知ってるくせに。 逃げてるんだ。現実から。 ベッドに放り投げた制服に手を通す。サイズはピッタリだ。 「似合ってるよ」 ふいに声が聞こえた気がして、僕は部屋を見回す。 バカみたいだ。 彼はもういないのに。 「似合ってるよ。おかえり、ティエリア」 目の前に、ふいに現れたロックオンの体は半分透明に透けていた。 僕は夢を見ているのだと思った。 「ロックオン・・・・」 手を伸ばす。 その手は震えていた。 ロックオンは、僕の手を掴んでくれた。透き通っていて、触れているのかどうかも分からないけれど。 「すごい似合ってる。流石俺のティエリア」 隻眼のロックオンは笑顔で微笑んだ。 僕は、眼鏡をベッドの上に置いて、涙を零した。 「僕はあなたに生きていて欲しかった」 いくつもの涙が零れ落ちる。 もう何度泣くなと自分で決めただろうか。サラサラと音をたてていく砂時計のように、僕の瞳から涙が零れ落ちる。 「瞳が・・・・綺麗だ。オッドアイになってる。真紅と金色」 イノベイターとしての金色に耀く瞳が、途中で真紅と交じり合って、オッドアイのようになっていた。それもじきにおさまって、もとの石榴色の瞳に戻る。 そう。 死ぬ覚悟も、罪を背負う覚悟もちゃんとある。 だけど、あなたに生きていて欲しかった。 たった一つのことなのに。 叶わなかった。 運命は残酷だと思った。 僕は、ただ泣き続けた。 NEXT |