世界でたった一つの楽園







世界でたった一つの楽園。
地元の人間は、その現象を神の庭だとかそんな風に呼ぶ。
いつ起こるかもわからない、小さな奇跡。
場所は乾燥しきった砂漠地方。ひとたびまとまった雨が降れば、ほんの数日の間で一面に楽園のような花畑が出現する。さまざまな種類の花が咲き乱れ、色とりどりのその姿は見る人間に感動を与える。
まさに、神の庭。
わずか2週間たらずで、その神の庭は消えてしまう。
地元の人間でさえも、いつどこに咲くか分からない神の庭。
それを探して、必死に取材活動をする人間がいる。その花畑を写真におさめようと、単独で活動するカメラマンだっている。
同じ場所で毎年咲くわけではない。
数年に1回の時もある。その場所で咲くのは。咲かない時もある。
雨が降らなければ、はじまらない。
砂漠でふる雨はきまぐれだ。いつ降るかなんて、そうそう分かるものじゃない。

世界でたった一つの楽園をあなたに。
それはただの古い物語。神の庭を最初に見つけた者は、どんな願いでも一つだけ叶う。
実際に叶った者がいるのかどうかは分からない。
だって、神の庭を訪れるのは、カメラマンやドキュメンタリーの取材番組の者や、地元のもの、その現象を長いこと憧れて遠くの地から長い旅の果てにやっと見つける者。





**************************

「ティエリア」
「なんですか?」
いつものように、冷たい声が返ってくる。
見る者全てを魅了するような魔性の美しさ。石榴の瞳は、なんの感情も灯さぬまま、ただロックオンを見つめている。
「用がないのなら、失礼します」
まるで、機械のような人間だ。
トレミーにいる誰もがティエリアのことをそう言っていた。
事務的な口調と、そっけない態度、誰とも打ち明けようとしない。ただ信じるのはヴェーダ一つ。
去っていこうとするティエリアの手首を掴んだ。
「痛い」
「あ、ごめんな」
「なんなのです、あなたは。用がないのなら、構わないでください」
年少組二人はとにかく頑固。
でも、刹那のほうがまだ話ができる。ティエリアはとにかく、協調性がなくて人を寄せ付けない。
まるで、警戒しているみたいに。

「あのさ」

ティエリアの耳元で、ロックオンが囁く。

「神の庭?」
ティエリアが首を傾げる。
「そう。神の庭。世界でたった一つの楽園」
「それが、なんだと?」
「来週の日曜日、空けといてな。神の庭ができそうな予想地点ができた。お前に見せたい」
「そんなもの、ネットで見れば・・・」
「本物がいいんだよ。本物だから、見て感動する」
「なぜ、僕など誘うのですか?」
「お前さんに感動して欲しいから」
「ばかなことを」
「いいから、日曜あけとけよー」

ロックオンの、半ば強制的な誘いによって、ティエリアは日曜組んでいたスケジュールを全てあけた。

世界でたった一つの楽園を、あなたと。
神の庭。
2週間だけの小さな奇跡を君に。

NEXT