エンジンをかけ、ロックオンはアクセルを踏む。 うつりゆく窓からの景色を見ながら、ティエリアは時折まどろむ。 砂塵が視界を遮る。砂漠地方といっても、完全な砂漠ではなく乾燥砂漠だ。岩と砂利と砂とそして僅かな植物でできた風景。視界を遮るものはない。どこまでも続く同じ風景。 青空は澄み渡り、熱線の太陽が地上を照りつける。 空調で一定の温度に保った車内だが、それでも暑い。 「ティエリア、ティエリア」 「ん・・・」 「大丈夫か?さっきから寝てばっかりで、具合でも悪いのか?」 ロックオンがハンドルを切りながら、助手席に座ったティエリアに水の入ったペットボトルを差し出す。 「地上は嫌い」 「ああ、重力か?」 「体温上昇を抑えている。僕は体温をコントロールできるから。少し、それでだるいだけ」 「そうか。無理するなよ」 よく冷えたペットボトルを受け取って、水を飲む。 ティエリアは、水を含んだまま、ロックオンに口付ける。 「・・・・・・お前、二人になると大胆だよな」 飲みきれなかった水が、ロックオンの顎から滴る。それをペロリを舐めあげて、ティエリアはまた水を飲む。 「東に向けて。水の匂いがする。オアシスだ」 「え?」 僅かにあけた窓から入ってくる風に、ティエリアがそう断言した。 「いいから、車を東方向に」 「あいあいさー」 人ではないティエリアは、いろんなことに敏感だったりする。空気にまじる僅かな水の匂いを本能で感じ取ったのだろう。まるで獣みたい。でも、こんなに綺麗な獣なんて世界にいるわけない。 そのまま東にハンドルをきって、10分もしないうちに緑が多くなってきた。 「うわ、まじでオアシスだ」 なみなみと水を湛えた泉が見える。綺麗に透き通っている。青空をうつして、ゆったりと時間が流れる。 ロックオンは車をとめた。 ティエリアは、だるそうにしている。 「大丈夫か?」 「んー」 額に手を当てると、少し暑かった。 「熱あるな」 「ちょっと体温調節がうまくいってない。すぐに慣れるから」 「よっこらせっと」 ロックオンは、ふらつくティエリアを抱き上げて、オアシスに向かう。 泉の傍で、シートを広げて軽い食事をとることにした。 ティエリアはあまり食欲もなさそうで、果物類だけを口にしていた。 「なんか、ごめんな。無理やりつきあわせちまって」 「どうして謝るの?」 「だって、なんかだるそうだし」 「宇宙からいきなり地球に降りて、こんな乾燥砂漠地帯に連れられてくれば、仕方ない。暑いのは苦手だから」 「先に言ってくれよ」 「でも、あなたと一緒なら別にいい」 「ん?」 「あなたに連れられていくなら、どこでもいいと言ってる」 ティエリアは、手を伸ばしてロックオンに噛み付くようなキスをした。 「やっぱ大胆だよなぁ」 「誰も見てないし」 食事を終えたロックオンを、ティエリアがひっぱる。 「ん?」 「水も滴るいい男になってきなよ」 ドンと、背中を押された。 そのままザッパーンと波しぶきをたてて、ロックオンは泉に落ちた。 ティエリアは笑っていた。 「お返しだ!」 泉の中から、水をすくってティエリアにかける。 ティエリアも水びたしになった。 ロックオンが、ティエリアの足元を掴む。 ザッパーン。 いい音をたてて、ティエリアも泉の中に落ちた。 「ははははは、ざまぁみろ」 「はははは・・・・びしょぬれ」 ティエリアも笑って、青空を仰いだ。 二人は衣服のまま、泉の中で水のかけあいっこをしてから、少しだけ泳ぐ。 「衣服のままだと泳ぎにくいなぁ」 「当たり前」 パシャンとロックオンに水をかけられて、ティエリアは眼鏡を外して泉からあがる。 「タオルとってくる」 ティエリアは車からタオルと着替えの衣服を持ってきた。二人は着替える。 大分ティエリアの動きがよくなっているのに気づいて、ロックオンはティエリアの額に手を当てる。 「体温、普通に戻ってるな。良かった」 ティエリアは、太陽の光を吸い込まない白い服に着替えていた。 ジャボテンダーさんを抱いたティエリアの手を、ロックオンが繋ぐ。そのまま、ティエリアはオアシスの緑に包まれながら歌いだした。 ティエリアの澄んだ歌声が響く。ロックオンはティエリアの歌が大好きだった。 時間が流れるをしばし忘れ、涼をとってから二人は手を繋いで車まで歩くと、乗り込んでオアシスを後にした。 NEXT |