世界でたった一つの楽園3







エンジンをかけ、ロックオンはアクセルを踏む。
うつりゆく窓からの景色を見ながら、ティエリアは時折まどろむ。
砂塵が視界を遮る。砂漠地方といっても、完全な砂漠ではなく乾燥砂漠だ。岩と砂利と砂とそして僅かな植物でできた風景。視界を遮るものはない。どこまでも続く同じ風景。
青空は澄み渡り、熱線の太陽が地上を照りつける。
空調で一定の温度に保った車内だが、それでも暑い。
「ティエリア、ティエリア」
「ん・・・」
「大丈夫か?さっきから寝てばっかりで、具合でも悪いのか?」
ロックオンがハンドルを切りながら、助手席に座ったティエリアに水の入ったペットボトルを差し出す。
「地上は嫌い」
「ああ、重力か?」
「体温上昇を抑えている。僕は体温をコントロールできるから。少し、それでだるいだけ」
「そうか。無理するなよ」
よく冷えたペットボトルを受け取って、水を飲む。
ティエリアは、水を含んだまま、ロックオンに口付ける。
「・・・・・・お前、二人になると大胆だよな」
飲みきれなかった水が、ロックオンの顎から滴る。それをペロリを舐めあげて、ティエリアはまた水を飲む。

「東に向けて。水の匂いがする。オアシスだ」
「え?」
僅かにあけた窓から入ってくる風に、ティエリアがそう断言した。
「いいから、車を東方向に」
「あいあいさー」
人ではないティエリアは、いろんなことに敏感だったりする。空気にまじる僅かな水の匂いを本能で感じ取ったのだろう。まるで獣みたい。でも、こんなに綺麗な獣なんて世界にいるわけない。
そのまま東にハンドルをきって、10分もしないうちに緑が多くなってきた。
「うわ、まじでオアシスだ」
なみなみと水を湛えた泉が見える。綺麗に透き通っている。青空をうつして、ゆったりと時間が流れる。
ロックオンは車をとめた。
ティエリアは、だるそうにしている。
「大丈夫か?」
「んー」
額に手を当てると、少し暑かった。
「熱あるな」
「ちょっと体温調節がうまくいってない。すぐに慣れるから」
「よっこらせっと」
ロックオンは、ふらつくティエリアを抱き上げて、オアシスに向かう。
泉の傍で、シートを広げて軽い食事をとることにした。
ティエリアはあまり食欲もなさそうで、果物類だけを口にしていた。
「なんか、ごめんな。無理やりつきあわせちまって」
「どうして謝るの?」
「だって、なんかだるそうだし」
「宇宙からいきなり地球に降りて、こんな乾燥砂漠地帯に連れられてくれば、仕方ない。暑いのは苦手だから」
「先に言ってくれよ」
「でも、あなたと一緒なら別にいい」
「ん?」
「あなたに連れられていくなら、どこでもいいと言ってる」
ティエリアは、手を伸ばしてロックオンに噛み付くようなキスをした。
「やっぱ大胆だよなぁ」
「誰も見てないし」
食事を終えたロックオンを、ティエリアがひっぱる。
「ん?」
「水も滴るいい男になってきなよ」
ドンと、背中を押された。
そのままザッパーンと波しぶきをたてて、ロックオンは泉に落ちた。

ティエリアは笑っていた。

「お返しだ!」
泉の中から、水をすくってティエリアにかける。
ティエリアも水びたしになった。
ロックオンが、ティエリアの足元を掴む。
ザッパーン。
いい音をたてて、ティエリアも泉の中に落ちた。
「ははははは、ざまぁみろ」
「はははは・・・・びしょぬれ」
ティエリアも笑って、青空を仰いだ。
二人は衣服のまま、泉の中で水のかけあいっこをしてから、少しだけ泳ぐ。
「衣服のままだと泳ぎにくいなぁ」
「当たり前」
パシャンとロックオンに水をかけられて、ティエリアは眼鏡を外して泉からあがる。
「タオルとってくる」
ティエリアは車からタオルと着替えの衣服を持ってきた。二人は着替える。

大分ティエリアの動きがよくなっているのに気づいて、ロックオンはティエリアの額に手を当てる。
「体温、普通に戻ってるな。良かった」
ティエリアは、太陽の光を吸い込まない白い服に着替えていた。
ジャボテンダーさんを抱いたティエリアの手を、ロックオンが繋ぐ。そのまま、ティエリアはオアシスの緑に包まれながら歌いだした。
ティエリアの澄んだ歌声が響く。ロックオンはティエリアの歌が大好きだった。
時間が流れるをしばし忘れ、涼をとってから二人は手を繋いで車まで歩くと、乗り込んでオアシスを後にした。


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