世界でたった一つの楽園4







「オアシスはじめてだった」
「え、そうなのか?もっといとけばよかったなぁ」
「帰りによればいい」
「そうだな。帰りにもっかい遊ぼうぜ」
そのまま、二人が乗った車は進む。
「ちょっと道からずれちまった。今日は車の中で一晩泊まることになりそうだ」
「そう」
「オアシスで泊まったほうが良かったか?」
「ううん」
ティエリアは、サボテンを見ては、ジャボテンダーに「あなたの仲間です」とか説明している。その行動がかわいくて、ロックオンは目を細める。

砂漠は昼は暑く灼熱の温度になるが、夜は氷点下にまで下がる。
厳しい気候をしていることで有名だ。砂漠の民は、そんな環境に適応して生きている。凄いと思う。人は砂漠でも井戸を掘って、畑を耕し、家畜を放牧して生きている。本当に逞しいと思う。

夜に、町から町へ旅をしているキャラバンの一行と出あった。
神の庭の情報を聞いて、お礼に水の入ったペットボトルをあげた。一行はとても喜んでくれた。砂漠で何より貴重なのは、金でもなんでもなく、水と食料だ。
特に水が重要だ。
オアシスの位置をティエリアはキャラバンのリーダーに話す。
そのオアシスを知らなかった一行は、ティエリアを崇めだした。少し遠回りになるが、何も飲んでいないラクダたちに水を飲ませるためにキャラバンはルートを迂回することになった。
その夜は、キャラバンと一緒に夜を明かすことになった。
夕暮れ時に、ティエリアはラクダに乗せてもらって少しだけ本当の旅という気分を味わった。
ロックオンはうまくラクダに乗れずに落下した。ティエリアは笑っていた。自然な笑顔を本当によく浮かべるようになったと思う。

「ティエリア?車に戻ったほうがいいぞ」
キャラバンの人たちと焚き火で暖をとっていたティエリアを、ロックオンが毛布にくるんであげた。
「ありがとう。でも、このままでいいよ。こんな人たちと会話をできる機会なんてないから」
「そうか。じゃあ俺もここで野宿するかな」
毛布をもってきて、ロックオンは自分もそれにくるまる。
砂漠の夜は冷える。
吐く息が白くなる。服も厚着している。

ティエリアは、ずっと夜空を見上げていた。
「綺麗でしょう」
「そうだな」
らくだに寄りかかりながら、ティエリアは星の瞬きを、あの星の名前はどうだとか、熱心に語ってくれた。
「あれは」
「知ってる。北斗七星」
「正解」
「都会の空気は淀んでいるから。砂漠は空を遮るものが何もないし、空気はとても綺麗に澄んでいる。星を見るにはとてもいい環境だ」
「寒くない?」
「平気」
ロックオンは、ティエリアを毛布ごと引っ張って、自分の腕の中に包んでしまった。
「早朝が一番気温がいいから。はやめに出発するから、もう寝ろ」
ティエリアは、暖かさを感じながら、素直に目を閉じた。
ロックオンは、ティエリアが寝た後もキャラバンの人たちと会話を続けていたが、彼らが寝だすと、ロックオンも就寝した。

「お姉さん、おはよう」
「おはよう」
キャラバンには7歳くらいの男の子の子供が混じっていた。
昨日のうちに打ち解けてしまった。男の子は、頬を紅くしてティエリアに一つの麦の穂を差し出した。
「これは?」
「僕のお嫁さんになって。僕たちの部族は、プロボーズするときに、相手に麦の穂を渡すんだ。豊作の願いと同じように、暖かな家庭をもてるようにって」
「ありがとう。でも、僕にはもう決まった人がいるから」
男の子は、しゅんと沈んでしまった。
「じゃあ、その人に渡して」
麦の穂を受け取って、ティエリアは困ったように男の子の頭を撫でた。
「こら、お前!またナンパして!隣町のアリアちゃんにも、近所のデリイーちゃんにも同じことして!ごめんなさいね、うちの子が迷惑かけて」
「いえ」
母親が、いたずらっ子の男の子を抱きあげて、戻っていった。

ふあああと、大きな欠伸をしているロックオンの腕の中で、ティエリアは麦の穂をいじっていた。
「ロックオン、これ」
「ん?麦の穂か?どうした」
「この人たちの部族では、プロポーズに相手に麦の穂を渡すだって。だから、あなたに僕は渡す」
ロックオンは、毛布の中に顔を埋めてから、思い切りティエリアに抱きついた。
「ああもう、ほんとかわいいことすんな、お前さん」
「そうかな?」

キャラバンとはその場で別れた。
再び車に乗り込む。僅かな出会いはよい思い出となった。
朝食をとって、キャラバンの人たちと別れて、神の庭に向かう。


NEXT