世界でたった一つの楽園10







砂漠地方をセラヴィは飛ぶ。
いくつもの砂漠をこえて。いくつものオアシスをこえて。

広がる砂漠に一度降り立つ。

「西だ」

僅かな水の匂いをかぎつけた。甘い花の香りもする。確かにそこにある。あの神の庭が。
同じ場所ではないけれど。

砂漠に咲くその花畑は、ある程度まとまった雨が降ると一斉に花が開花する。数年に一度の時もある。咲かない時もある。
いつどこでその神の庭ができるのか、知る者は少ない。
予想はある程度できても、外れることも多い。
だから、小さな楽園と呼ばれる。
2週間たらずで消えてしまう、花畑。その奇跡をとりに、カメラマンは旅をし、シャッターをきる。

ティエリアは、新しい神の庭にいた。
昔ロックオンと訪れた花畑並みに大きい。砂漠地方でも奥のほうにあり、周囲に町もないため訪れた者はティエリアが最初だろう。そして、最後。
「最初に神の庭に訪れた者は、願いが叶う。僕の願いはただ一つ。ロックオン、あなたに会いたい」
花畑に、制服姿のままティエリアは佇む。
空を見上げる。
流れる涙をそのままに、ティエリアは透明な歌を何度も歌った。
「ばかだな僕は。あなたはいないのに」
花畑に倒れた。
空と風と花のロンド。
ティエリアは、いつの間にか眠りについてしまった。休憩もあまりせず、睡眠時間も削って仲間を守っていたため、疲労がピークに達していた。そのまま、ティエリアは眠り姫のように三日間起きなかった。

ヴィイイイイイイイイ。

鼓膜をつんざく、機械音にティエリアは目覚めた。
花畑の上を、地方軍らしき機体が旋廻している。しまったと思った。
セラヴィに戻ろうとしたが、その古びた機体はすぐにこちらに向かって降りてきた。
ティエリアは、拳銃を構える。
自分の命は、自分で守らなければ。
ハッチが開く。
降りてきた人物に向かって、ティエリアは発砲した。

弾丸は、空を射た。

舞い散る花びら。
空と風の軌跡。


NEXT