血と聖水U「ホーム」







ティエリアは、ハンター協会に自分が退治したDクラスのヴァパイアの殲滅を報告し、灰を提出した。リジェネもBクラスのヴァンパイアの灰を提出する。二人とも、自動で口座に報酬が振り込まれた。
リジェネへ、次のヴァンパイア退治の依頼がきた。
ティエリアもイノベイターであるので、話を聞くことができた。
「次は、退治といっても普通のヴァンパイアではない」
「何。ロード?それともマスター?」
ティエリアは慣れているので、事務的な口調で聞くが、ハンター協会側の人間は息を重くして呟いた。
「てこずるかもしれん」
「何いってんの。この僕が?吸血王リボンズとかじゃないんでしょ。ただのロードやらマスターなら時間かかるだけで別に」
吸血王リボンズとは、魔王としても名高いヴァンパイアマスター。かつてブラッド帝国に君臨した、皇帝の末子にあたる。長い休眠を経て、この時代に蘇った、人国家にいるヴァンパイアたちの王だ。
ロードであろうが、マスターであろうが、ヴァンパイアたちにも寿命がある。不老不死といわれるが、実際にはそうでなく、寿命というものが存在する。通常は200〜500年。血を吸い続けることで更に寿命は延び、最高2千年とまでいわれている。血の帝国の皇族たちの寿命は1500年。貴族で1000年。最高2千年まで休眠せずに活動し続けたエターナルヴァンパイアは、由緒正し貴族の家柄の女性で、現皇帝は彼女の曾孫にあたる。
彼女は長い間摂政として代々の皇帝を支えてきた。皇帝は500年に一度、病も何もなく健康であっても入れ替わる。民たちから投票で選ばれた皇族の者が新しい皇帝として君臨する。
だが、例外もある。独裁政治を行った皇帝は必ず排除され、皇帝絶対主義といっても、そういった皇帝は皇族ごと処刑される。そして、新しく選挙を行い、選ばれた者が新しい皇帝として君臨し、その血族が新しい皇族となる。掟を破った古い皇帝の血族は皇族として残さない。それが彼らの掟である。

「帝国で、400年ほど前に皇帝の暗殺を企み、唯一処刑されなかった先代皇帝血族の皇子の末裔。帝国側から、人間国家に入ったという情報がきた。名はアズリエル」
「は・・・・皇族?マジかよ」
リジェネが顔色を変える。
ティエリアが、梟を肩に止めたまま、聞き返す。
「皇族だって?裏のハンター協会のしごとじゃないのか?」
「裏から回ってきた依頼だ。裏のエターナルたちは、自分より階級が上の者には手を出さない主義をしている。どんな上級貴族であれ、皇族や王族には手を出さない。皇帝もそれを分かっているので命令しない」
「くそ、いわゆる帝国側の尻拭いをさせられってわけか。舐められたものだね」
「リジェネ!」
ティエリアがたしなめるが、リジェネは綺麗な顔を歪めて笑う。
「ははは、相手はエターナルか。面白いじゃないか。エターナルとやりあったことはない。帝国を出た時点で、貴族、王族、皇族以外の者はだたのヴァンパイアになる。かつての皇族の血族ならば、生粋のエターナルだ。マスタークラスは間違いないだろうな。マスタークラスのエターナル・・・・ぞくぞくしてきた」
リジェネは、唇の端を吊り上げた。
リジェネとティエリアは双子だ。容姿も同じ。でも、その力の差は圧倒的。
ロードもマスターも数多く葬ってきた。裏のエターナルヴァンパイアハンターたちからも一目置かれる存在。反対に、ティエリアは他のイノベイターたちからも「足手まとい」といわれるような中途半端なヴァンパイアハンター。人工ヴァンパイアイノベイターとして生まれたからには、七つ星は当たり前とされている世界の中で、覚醒してなお、三つ星のヴァンパイアハンター。
他のヴァンパイアハンターからバカにされることだって多い。
リジェネはティエリアが大好きなので、ティエリアが三つ星だからと見下すようなことはしない。同じく刹那もだが。三人は、育成された時期が同じなため、家族のようなものだ。

「その依頼は、刹那にも?」
「勿論だ。ティエリア、お前にも正式に依頼がくるだろう」
「僕にも?」
「千年を生き1000人の処女の血を吸ってロードになり、更にマスターとなり、その血族となった、人工ヴァンパイアでありながらヴァンパイアマスターの血族でもあるお前は、未知の可能性がある。何より、使役魔に自分のマスターである、ヴァンパイアマスター、トリプルAクラスの「水銀のヴァンパイアマスター」を従えるお前は、七つ星並みの戦力がある」
「だったら、なんで僕は三つ星なの?」
「それはお前が未熟だからだ。使役魔は力の一部である。「水銀のヴァンパイアマスター」との契約も、使役するのも、すべては「水銀のヴァンパイアマスター」の意思であり気まぐれだ。お前の力ではない。お前の力は、三つ星。それを忘れるな」
「はい」
しゅんとうなだれたティエリア。
一緒に、梟もうなだれる。
「某もよく三つ星だ、未熟者だといわれる。元気だせ、ティエリア殿」
「ありがとう」
「そうそう、元気だしなって。ハンター協会の人間は頭が固いから。トリプルAクラスを使役できるのは実力のうちでもあるんだから。まぁ、確かにティエリアの場合食べられたりで、情夫のあいつは」
「情夫っていうなああああ!」
ティエリアは真っ赤になって叫ぶ。
「はいはい」
みんな、ティエリアのマスターを「ティエリアの情夫」と呼ぶ。リジェネはからかってだけど、他のハンターや関係者は色で操っていると陰口を叩く者もいるくらいだ。
情夫といわれて、ティエリアのマスターはそれを否定しないのが所以でもある。

「とえりあえず、ティエリアのホームにいこっか。ティエリアの情夫は、確か帝国生まれだったね。何か情報が聞けるかも。僕らはあまりに帝国に対しての情報が少なすぎる」
「情夫っていうな!」
「はいはい」
リジェネがけらけら笑う。
白い梟がリジェネの肩に止まった。
「自己紹介がまだだった。リジェネ殿、ティエリア殿。某は、白梟のブラドなり」
「ブラド?立派な名前だな」
「某、これでも30年前まで、帝国のミスター・白梟NO2であった。白梟たちの憧れの的で・・・・・」
「はいはい」
ティエリアとリジェネは、適当に愛想笑いをしてティエリアのホームへと向かった。
 



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