血と聖水U「鷹とアズリエル」







「ぐ・・・・かはっ」
大きく喀血するティエリアの傍に、すぐにロックオンが近寄る。
「大丈夫か!?」
広がっていく血の染みは、ティエリアの体に吸われていった。
人工ヴァンパイアであるティエリアは、傷の治癒が早い。流れた血は、すぐに元に戻るが、傷まですぐに癒えるというわけではない。力の強いヴァンパイアにつけられた傷は、圧倒的な治癒スピードを持っても治りにくい場合がある。
ロックオンは、舌打ちして、指を噛み切ると、風穴の開いたティエリアの大きな傷口に血を滴らせる。
すると、大きな傷口は衣服の穴を残して見る見る間に癒えていった。

「この!」
リジェネが、アズリエルに切りかかる。
アズリエルは笑った。
上から、5匹のヴァンパイアが降ってきた。どれもロードヴァンパイア。
「くそ!」
リジェネはビームサーベルで、ロードヴァンパイアの心臓を貫く。
倒れても、また次が遅いかかってくる。そして、次の相手を切り結んでいるうちに、トドメをさせなかったさっき心臓を貫いたロードが復活する。
「きりないぞ、これ!」

その時、炎の精霊フェニックスが、リジェネを背後から襲おうとしていたヴァンパイアを丸のみし、黒焦げにした。黒こげになったヴァンパイアは灰となっていく。

「刹那!」
「刹那・・・・・・くるの、遅い」
ティエリアは苦しげにうめきながら、同じくアズリエル退治依頼を受けてやってきた刹那を見る。
「鷹の・・・・・・エターナル?」
アズリエルが、刹那の姿を見て動きを止める。他のヴァンパイアたちも動かない。
「何故だ!鷹の!お前ほどの者が、なぜヴァンパイアハンターをしている!」
「なんのことだかさっぱり分からないが」
刹那は、銀の銃でアズリエルの頭を撃った。
その傷はすぐに再生された。流石は皇族のエターナル。
「バカな!俺を忘れたのか!鷹の!」
「知らない」
刹那は、炎の上級精霊イフリートを召還する。
リジェネは、大気の精霊エアリアルを。ティエリアは、なんとか立ち直って、氷の精霊フェンリルを。

「鷹の!」

刹那はイフリートで、次々とロードヴァンパイア、アズリエルの僕たちをのみこんでいく。灰となっていくロードたち。15匹いた僕のヴァンパイアは、8匹にまで減っていた。
リジェネはエアリアルの精霊を操り、真空の刃を幾つも放って、ロードたちを切り刻む。そこにイフリートが鉄をも溶かす業火を容赦なく叩きこむ。
ティエリアは、とどめとばかに、精霊のえじきになっていくロードたちの心臓と頭に、二丁の拳銃で銀の弾丸を撃ちこむ。

「この鷹は、人工ヴァンパイアだ。お前が知っている鷹のロード、ソランはいない」
ロックオンが、闇に紛れながら言葉を出す。
「鷹は!鷹のソランが死ぬなど!!お前のしわざか、ネイ!お前の声、姿・・・ネイだろう、貴様!」
鷹とは、刹那の字(あざな)である。使い魔に多くの鷹を持つことから、鷹のヴァンパイアハンターと呼ばれている。ちなみに、リジェネの字は死の蒼。蒼いビームサーベルでヴァンパイアの死体を積み重ねることからそう呼ばれるようになった。

「ちい!」
アズリエルが跳躍する。
それにあわせて、刹那は金色の鷹を召還し、それに飛び乗ると銀の銃を放つ。
「鷹の!ソラン!!」
アズリエルは、必死で刹那に呼びかける。刹那は反応さえしない。
「敵、駆逐する」
「鷹の!!約束を忘れたか!共にブラッド帝国の皇帝、ネイを滅ぼすと!」
ネイとは、ドイツ語で夜の意味をもつ。

「ネイ・・・・?」
ティエリアが、闇に紛れていなくなったロックオンを探す。
「ロックオン!!!」
ティエリアは叫ぶ。
「ロックオン!!!」

ボト、ボト、ボト。
天井から、首が降ってきた。残った7匹のヴァンピールたちの首が。
血が、ティエリアの頭に降り注ぐ。
肉片が、まとわりつく。

闇から伸びる、白い翼。白い牙。綺麗なエメラルドの瞳と、くせのある長い茶色の髪。
白い翼は、エターナルの証。貴族、王族、皇族・・・・そして皇帝。

「いやああああああああ、ロックオン!!!!」
ティエリアが絶叫する。

「ロックオン・・・ニール・・・ネイ!!」

ロックオンが、夜の皇帝ネイとして覚醒してしまったのだ。
ティエリアの絶叫が、夜を満たす。
薄々気づいていた。ロックオンが、ただのヴァンパイアマスターではないと。多分エターナルだろうと。まさか、かの夜の皇帝ネイだとは。

ロックオンは本名は二つあるといっていた。ニールのほかにネイという名を持っていると。
それが、夜の皇帝ネイだとは、なんたる皮肉か。



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