「ネイ!!!」 ロックオンの本名は、ニール。でも、他にも名前があった。 それが、ネイ。 夜を現すその言葉をロックオンから教えられたとき、それが重要な意味を持っているかどうかも分からなかった。 ただ、ネイという響きがとても、ニールと同じように綺麗だったことを覚えている。ニールという名は、ネイという文字のつづりをもじってつけられたそうだ。 夜の皇帝ネイ。 かつて帝国に君臨していた、もう一人の皇帝。表の皇帝の代々の摂政であるジブリエルの夫。 千年以上も君臨し続けた、ブラッド帝国の真の支配者。それが、夜のネイ。 「ニール!いやだ、戻って!!戻って!!」 ティエリアは泣き叫ぶ。 思い出した。 僕は、死んだのだ。 今から何百年も前に、ブラッド帝国で夜の皇帝ネイに看取られながら。 「あなたを愛しています。また、私はあなたと出会うためにこの世界に生まれたい」 ネイとジブリエルの間には子供がいた。その子供は皇族して育ち、その血筋はいずれ立派な皇帝を輩出するであろう。現実に、今のブラッド帝国の皇帝はジブリエルとネイの間に生まれた子の子孫。ジブリエルとネイの曾孫であった。 涙を流すネイは、エメラルドの瞳に茶色の髪をしていた。 「ジブリエル・・・・そなたを失いたくない」 「私はあなたと出会えて幸せでした。ネイ。ネイ・・・・ニール」 いくつも涙を流すジブリエル。 「ジブリエル・・・・ティエリエル」 ネイは、ジブリエルの本当の名を口にして、ジブリエルに口付ける。 「約束しよう。我がそなたを、この世界にもう一度生まれさせる。我はそなたともう一度出会い、恋をして生きるのだ」 「ニール」 「ティエリエル」 「ニール、あなたは真の皇帝。この帝国を支える者。その役目を忘れてはいけない」 「皇帝がなんだというのだ。愛しいそなた一人救えない」 「私はもう二千年も生きました。寿命なのです」 「ティエリエル・・・・いつか、そなたをもう一度、この世界に生み出す。その時は・・・・そう、ティエリエルの名から名を名づけよう。ティエリア。ティエリアがいい。今度この世界に生を受けたときは、ティエリアと名乗るがよい」 「ニール・・・・命を生み出しても、そこに私はいません」 「我がいる。我が全ての道理を捻じ曲げて、神も悪魔さえも屈服させて、汝の魂を受け継がせよう」 「魂は、ゴホ・・・・ニール、魂の転生は禁忌。いけません」 「我はこの帝国の、血の一族の皇帝ぞ!始祖たる我はこの一族の神」 「それをしては・・・ニール、あなたはただのヴァンパイアになってしまう。ただの、力なきヴァンパイアに。人の血を啜るだけのヴァンパイアに。記憶も何もかも、名さえも忘れて血を求めるだけの飢えた獣に」 「構わぬ。我はそうなっても構わぬよティエリエル」 「禁断だといっているのに」 「構わぬよ、ティエリエル。この世界にまた生まれたら、そなたが我を解放してくれ。ただのヴァンパイアとなった我を、従属してくれ」 「そんな、ことをまたいう」 ニールはティエリエルの手をとって、頬にあてる。 「ティエリエル。汝だけを我は愛していた。我は汝だけがいればそれで良かった・・・ティエリエル、ティエリエル」 「ニール・・・・もしも、本当にこの世界でもう一度命をうけ、魂を継承していれば、私はティエリアと名乗りましょう。そして、ネイ・・・ニール・・・・あなたを救う。あなたを従属させるのではなく、あなたを解放して、あなたをニールに戻す。記憶も名前も力も・・・・破棄するのであれば、叶いましょう。あなたをニールに」 「ティエリエル!!」 そこで、僕の意識は途絶えた。 「ニール!!」 ティエリアは絶叫する。 ニールは、アズラエルと対峙する。 「・・・・・・ネイ!!」 「ほう、アズリエルか。懐かしい。なんとも懐かしいことよの。何百年ぶりだろうな。ジブリエルの恋人を気取っていたそなたは、我が憎かったであろうな。ジブリエルが愛したのは、我一人だけだったからなぁ」 NEXT |