血と聖水U「ブラドとネイ」







「叶ったのか?我の願いは、叶ったのか?」
血の海に二人で沈みながら。
ロックオンは、目を細める。
「・・・・・・・・我は願った。ジブリエルともう一度出会い、恋をして・・・・」
「恋をして、共に傍にいると!」
ティエリアが言葉のあとを続ける。
ティエリアの金色の瞳からたくさんの涙が零れ落ちて、ロックオンの頬を伝う。
「あなたの願いは叶いました。僕は、生まれた。この世界に。名前は他にあったんだ。でも、なぜかティエリアと自分から名乗るようになった。そう、あなたと約束したとおり、ティエリアと名を自分につけた」
「ティエリア・・・・」
ロックオンの手が伸びて、ティエリアの輪郭を確かめるようになぞる。

ドシュ。

時が凍った。

アズリエルの放った血の剣が、ティエリアの心臓を突き刺した。
「か・・・はっ」
「ティエリア!?」
「何がジブリエルだ!こんなヴァンパイアハンターの何処がジブリエルだというのだ!」
アズリエルは、返り血を舐めとった。
ジブリエルと今のティエリアの見た目は全く違った。
アズリエルには分からない。

「ニール・・・愛しています・・・愛して・・・・・」

「我は狂って・・・そなたがまた我に・・・・・・俺に、愛をくれた!」

真っ白なエターナルの証である、翼が再生される。
「俺は皇帝ネイ、そしてニール。そして・・・・」
「そう・・・・・そして、僕のロックオ・・・」
心臓を傷つけられたティエリアの服が真っ赤になった。
広がっていく血のしみは、ティエリアの体に吸収されることなく、真っ赤な真紅の海となって広がっていく。
「ニー・・・・あなたと、また会えて、愛し、て・・・・・」
ティエリアの呼吸が止まる。
そのまま瞳孔が開いていく。

ロックオンは叫ばない。
「フェンリル。ティエリアを凍らせろ」
「オオオーン」
絶大な魔力を受けて、子猫サイズだったフェンリルが3メートルはある巨大な白銀の狼となる。そして、新たなる主の命令に従い、ティエリアを氷づけにした。

「アズリエル・・・来い。皇帝ネイである、ロックオンが相手だ!」

ロックオンとアズリエルは何度も血の刃で切り結んだ。
何度も魔法を使ってお互いを傷つけあう。
何度も血を流しては、傷を再生させる。

永遠のような時間の中、ティエリアとリジェネと刹那は氷付けにされ、まるで二人だけが世界に取り残されたかのようだ。
「ネイ、最後だ!」
「そう・・・俺は、ネイだった。今もネイだ。でも、ニールという名がある。今の名はロックオンだ」
ロックオンが放った真空の刃が、アズリエルの首と胴を切り離す。
そのまま、炎の精霊フェニックスを呼び出して、アズリエルを灰にした。

よろよろと、ロックオンは立ち上がる。
絶対存在であったネイは、過去の存在だ。今でもネイであることに変わりはないけれど、昔のような魔力も力もない。
エターナルであれど。
「ティエリア。思い出したよ」
氷付けになったティエリアの氷を溶かして、自分の血を与える。
ティエリアの傷は、それでも治らない。すでに生命活動を停止している。
「ブラド、おいで」
「・・・・・・・・ネイ様」
ブラドは、帝国でかつてネイであったロックオンの遊び友達であった。孤独であったネイに、僅かの暖かさをくれた家臣。
ネイに使えて百年もしないうちに、崩御してしまった。
離れていたのに。それでも、ブラドはネイが寝ているときに傍にいたり、影から見守り傍にいたせいで死んでしまった。今の白梟のブラドは、死んだブラドの魂が白梟に宿った仮の姿。
「ネイ様、お迎えに参りました。今のネイ様なら、民の寿命を削ることなどないはず。どうか、帝国にご帰還を」
「それは、無理だな」
「ネイ様・・・・」
「俺は、ロックオンっていうんだ。ロックオン・ストラトス。それが今の俺の名前だ。皇帝ネイは死んだと思ってくれ」
「・・・・・・・・ネイ様。今帝国に君臨しているネイ様ははライル様です。あなたの跡を継いで」
「不思議だな、ブラド。ライルは俺を捨てたはずなのに」
「いいえ。ライルさまはあなたを愛しておられました。いずれきたる時のために、影武者となるべく運命を向かえ、今も帝国でネイとして君臨しておられます。けれど、真実のネイ様はあなた唯一人」

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