それが、たとえ禁忌でも「約束の印」







ティエリアは、ケープを風に翻らせて町を歩く。
快晴のせいか、だいぶ気温は暖かかった。おとついまで雪が降り積もっていたのが嘘のようだ。
ロックオンとティエリアは、並んで町を歩いた。

ティエリアは、ロックオンと手を繋いだ。
昔のように、行くあてもないデートに似ていた。
過ぎ去る人々が、ロックオンとティエリアを必ず振り返る。
その眼差しは、すべて羨望であった。
ケープを羽織ったティエリアは、中性的で、一見すると男の子であるのか女の子であるのか分からなかった。
だが、ツインテールにかわいく結われた髪と、白いリボンがふわふわ揺れている。
女の子だろうと、ティエリアを目にした誰もがそう思った。
ティエリアには構わなかった。この際、女に間違われようがどうでもいい。
ただ、隣にロックオンがいることだけが大切なのだ。

ロックオンは、あえてティエリアに昔のように女性向けの衣装を着せなかった。
意味深のように、中性的に見える天使のような服を着させた。
その意図に、ティエリアは気づいていない。

ラララ〜と、唄を口ずさみながら、アイルランドの町を歩く。
誰でもない、愛しいロックオンと。
ロックオンの故郷の町は、雑多に人が溢れることもなく、どこかのんびりとした雰囲気があった。
過ぎ去っていく男性は、必ずティエリアに見ほれる。
だが、それを邪険にするようなことはロックオンはしなかった。
人の視線を集めるように作られた絶世の容姿だ。注目を集めてしまうのは、仕方のないことかもしれない。

「お、まだあの店あったのか。あそこで食事しようぜ」
「はい」
嬉しそうに、昔ロックオンと一緒に入ったことのあるなじみの店に入る。
そこで、軽く食事をして、それから遊園地にいった。
ティエリアは遊園地に行くのははじめてで、柄にでもなくはしゃいでしまった。
絶叫マシーンにのって叫び声を上げると、ロックオンはいかにも絶叫マシーンで恐怖しましたという顔になって
いた。
ティエリアが笑う。
そして、落ちついたロックオンの手をとって、メリーゴーランドに乗った。
ロックオンは、そんなティエリアの様子を愛しそうに見ている。
二人で、いっぱい写真もとった。
その日は、さらに水族館にもいった。泳ぐ熱帯魚を、ティエリアがじっと見つめる。
特に、アマゾンの区域の魚に、ティエリアは目を奪われた。
ネオン色に輝く小さな魚の群れを、必死になって追いかける。
ロックオンは、優しくティエリアの後をついてまわる。
「綺麗ですね」
「ああ、綺麗だな」
アマゾンと区切られた大き目の水槽に泳ぐ熱帯の魚を見た後、水族館を出た。
すでに夜の時間になっており、日は暮れていた。
街路樹が、ネオンのようにイルミネーションを灯している。
それを見て、ティエリアがまた感嘆の声をあげる。
「人は、どうしてこんなにも美しいものを作れるのでしょうか」
「それは、人間が美しいものが好きだからだろうな」
「人間は儚いのに。人が作り上げるものは、後世にまで残ります」
「それは、いいことだと思う」
「そうですね」
二人、手を繋いでまた歩きだす。
そして、ロックオンが待ったの声をかけた。
「どうしたんですか?」
「あの店に寄っていこう」
ロックオンが指差したのは、宝石店だった。
ティエリアは、またアクセサリーでも買って、自分に身につけさせるのかと思っていた。

「いらっしゃいませ」
「すまないが、ペアリングは売ってるかな?」
「ペアリングでございますか?当店は、ブランドものが多くて、少々値段がはりますが、構わないでしょうか?」
「ああ、構わない」
「ロックオン?」
ペアリングという言葉に、ティエリアが顔をあげた。
「これなんていかかでしょうか。プラチナでできており、あしらっている石は最高級のダイヤモンドでございます」
店員が進める指輪は、ペアリングにするには度派手なものだった。
ロックオンは、首を振った。
「もう少し、地味なものがいい。あと、ペアリングの他にも指輪を二つかいたい」
「はい、ありがとうございます」
店員が、乗客を捕まえたように顔を輝かせた。
ロックオンの取り出したカードは、会員制のもので、上流階級の人間が好んで使うカードだ。
使える額も半端ではない。
「こちらはどうでしょうか。プラチナでできておりますが、あしらっている石はエメラルドでございます」
花をデザインしたその指輪に、ティエリアの目が輝いた。
ロックオンと同じ色の瞳の宝石だ。デザインもしゃれており、かわいらしい。
「ロックオン、これが気に入りました」
店員が進めたプラチナの指輪を指差す。
それに、店員がにんまりと笑った。
「ありがとうございます。お嬢様がされるのですね。少し、手を拝見させていただきます」
ティエリアの白く綺麗な手の細い指に、プラチナでできたエメラルドをはめ込んだ指輪はすんなりと入った。
「おや、なんということでしょう。サイズがピッタリですね」
またしても、にんまりと店員が笑った。
「お嬢様の細い指に、とても似合っていますよ。とても可愛らしいです。対になっている指輪ですが」
そこで、ロックオンが言葉を出す。
「このデザインで、ガーネットのついたやつはないか?」
「は、ガーネットですか。対でしたら、同じエメラルドのほうが良いかと思うのですが」
「あるのかないのかはっきりしてくれ」
「ございます。このデザインは一番人気でして、はめこまれた石もいろいろ豊富でして、サイズもいろいろございます。少々お待ちください」
店員は奥に引っ込んだかと思うと、同じデザインでガーネットのはめこまれた指輪をいくつか持ってきた。
「それでは、失礼ですがお客様、お手をお貸しください」
ロックオンが、手を差し出す。
「ああ、このサイズでは細すぎますね。これではぶかぶかですし。これも少しきついようですね。お、これはちょうどサイズがピッタリですね」
店員によってサイズごとに指輪がかえられ、ついにロックオンにピッタリの指輪が見つかった。
「お客様の、目の色同士の指輪でございますか。ロマンチックですねぇ」
ちらりと、店員がティエリアを見る。
その絶世の美貌に最初は度肝を抜かれたが、慣れてしまったのか、微笑ましい二人のカップルを見ていた。
「では、この二つの指輪はお買い上げということでよろしいですね」
「ああ」
「それから、もう二つ指輪をお買い求めだそうですが・・・」
そこで、ロックオンがティエリアにこう言った。
「ティエリア、少し店の外に出ていてくれないか」
「どうしてですか。一緒にいてはだめなのですか」
縋りついてくる視線に、ロックオンはウィンクした。
「贈り物の特別な指輪を買うんだ。後で、渡して見せたい」
その言葉に、シュンと肩を落としていたティエリアが輝いた。
「はい、店の前で待ってますね」
「かわいい彼女ですね」
店員の言葉に、思わず顔がにやける。
「そうだろう。俺には勿体無いくらいだ」
「それで、お求めになる指輪はいったいどのような」
「結婚指輪を二つ。あの子と、結婚するんだ」
「それは本当におめでとうございます。当店一押しの結婚指輪はこちらでございます」
また、ごてごてしたデザインの指輪を薦められた。
それを断って、ロックオンはアレキサンドライトをあしらった指輪に目をとめた。
人工の光と自然の太陽光で光のかわるアレキサンドライトはとても貴重であり、値段も高い。
「その、アレキサンドライトの指輪、見せてもらえるかな」
してやったりという表情で、店員は大切にしまわせている、店でも自慢のアレキサンドライトの指輪を取り出した。
「サイズは記憶しております。少々お待ちくださいませ」
店員は、奥にまた引っ込んだ。そして、金庫をあけて、そこからティエリアとロックオンの指のサイズにあったアレキサンドライトの指輪を2対取り出して、並べた。
指のサイズは、すでにあらかじめ図っておいた。
「これを2対、お買い上げということでよろしいでしょうか?」
「ああ」
「支払いは、カードで」
「ありがとうございます」
綺麗に梱包された指輪が4つ。
ロックオンは、小さな手提げの紙袋にいれたそれを手に、店を出た。
ティエリアが、大人しく外で待っていた。
「遅いです」
ティエリアが頬を膨らませた。
本当に、少女のような反応だ。いや、今時の少女でもここまでかわいらしい反応はしないか。

「指、出してくれ」
「はい」
さしだされた指に、花のデザインのプラチナで、エメラルドをあしらった指輪をはめる。
そして、ロックオンは自分の指に、同じデザインのガーネットをあしらった指輪をはめた。
「ペアリングだ!」
嬉しそうに、指にはまった指輪をきらめかせる。
「ロックオンとペアリングだなんて、夢のようです」
ティエリアを抱き寄せ、キスをした。
店の中の店員はそのシーンを目撃してしまい、ニヤニヤとにやけていた。
この二人が、いつか結婚するのか。
それはそれは、絵になるカップルになるだろう。
夜も大分更けてきた。今日はここまでだろう。
「それはな、約束の印だ」
「約束の印ですか?」
「そうだ。俺が、いつまでもお前を愛しているっている証だ」
「じゃあ、僕のこの指輪も、僕がロックオンをずっと愛しているという証ですね」
ティエリアは、とても嬉しそうだった。
二人、手を繋いで家に戻った。そして、静かに二人でベッドに入り、眠った。

ロックオンは、エデンの扉が閉まっていく音を聞いていた。
約束の刻限まで、あと一日。



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