血と聖水V「刹那のホームにて」







「リジェネには、指令はいってないのか?」
「リジェネはアレルヤと組んで、帝国指名手配のヴァンパイア退治に出ている」
「指名手配なら、裏のエターナルの仕事じゃ?」
「裏のエターナルは数が少ないからな。表から回ってきた仕事まで請け負っているし。皆出払っている。アレルヤとリジェネに指令が回った」
「ふうん」

ティエリアは倒したヴァンパイアロードの灰をカプセルにつめる。
そのまま、一度刹那のホームまで移動する。

刹那は巨大な金の鷹に乗り、ティエリアとロックオンは、ロックオンが召還したナイトメアという巨大な馬にまたがる。

「お邪魔します」
なんの変哲もない一軒家だった、刹那のホームは。
中に入ると、これまた何もない。
必要最低限のものだけがあるといったかんじで、人が生活している匂いがしない。
でも、ガンダムのガンプラだけは棚にずらーっと並んでいるあたり、刹那だなぁとティエリアは思った。
「ロックオン、何勝手に人のベッドに座っている」
刹那がロックオンを睨む。
「だって、ソファーも椅子もないじゃないか」
「床に座ればいいだろう」
ロックオンは抗議する。
「お前、命の恩人に向かってそれはないだろ」

前回、アズリエルというエターナルとの戦闘で刹那、リジェネ、ティエリアは深手をおい、ティエリアに到っては一度死んだ。それを命の精霊神の召還で、傷の治癒も新たなる再生も施した。

「まぁいい。出発は明朝だ。食事は適当にしておけ」
「えー、食事の用意もないのかよ!」
人の暮らしに深くなじんでしまったロックオンは、調理することも食べることも大好きだった。
「必要ないだろう。人工血液製剤を飲めばすむだけだ」
「面白くねーの。ティエリア、町に出て何か食べにいこうぜ」
「あ、はい」
出て行くロックオンの後を、ティエリアが追う。
そのまま、ナイトメアで近くの町にまで移動すると、小さな居酒屋に入った。
時間的には夕飯になる食事とワインを頼む。
店のメイドが、忙しく食事を運んでいる。

「ティエリア」
「はい?」
ワインを飲みながら、隣のロックオンを見上げる。
「いいか、敵がどんなものであっても容赦はするな」
「当たり前です」
ティエリアとてヴァンパイアハンター。ヴァンパイアに情けなどいらない。かければこっちが死ぬのだ。

居酒屋は賑わっていた。
殲滅対象であるヴァンパイアの話題も混じっていた。
情報収集しようかと思ったが、ヴァンパイアハンターを人は恐れるので止めておいた。
ヴァンパイアの居場所は匂いで分かる。協会側が殲滅対象のヴァンパイアの匂いのついた何かをハンターに渡す。ハンターは匂いを辿りに、遠くからでもヴァンパイアの居場所を突き止める。

そう、濃厚な血の匂い。
それがヴァンパイアの匂い。

隣にいる、パートナーでありマスターであるロックオンからは、お日様の匂いがした。
それにティエリアは安堵する。
ロックオンが、ティエリアのパートナーで使役魔である限り、協会からの殲滅対象にはならない。かつて、ティエリアと出会う前のロックオンは駆除対象であった。
千年もの長い間、一人で生きてきたロックオン。
ヴァンパイアハンターも返り討ちにしてきた。
それは帝国で皇帝ネイとして君臨していた時代の千年も孤独であった。
だが、今は隣に愛するティエリアがいる。ロックオンは孤独ではない。
ロックオンは、ワインで少し酔ってしまったティエリアを抱き上げて、刹那のホームに帰ることなく、そのまま宿をとった。

 



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