血と聖水V「刹那の思考」







「遅い」
真紅の鷹を肩に止まらせた刹那は怒っていた。
「ごめん、刹那」
「ごめん」

「・・・・・・・交尾していたのか」
ブハッ!
ティエリアが吹き出した。
「あっはっはっは、お前の表現面白いな」
ロックオンが、楽しそうに笑う。
「刹那、な、何をいいだすんだ」
「隠さなくても分かる。交尾したんだろう?」
「こ、交尾とか!犬や猫じゃないんだから!」
「人間でもないだろうが。交尾していたことは否定しないんだな。墓穴か」
「うわああああああ!!!」
ティエリアは真っ赤になって、フェンリルで顔を隠してしまった。
「いやぁ、昨日は凄かった。おいしかった。ティエリア最高に色っぽかった。喘ぎまくりで・・・」
「うわああああ!!!」
ティエリアはフェンリルを投げた。
ゴイーン。
フェンリルはロックオンの頭にぶつかって地面に着地する。
ついでとばかりに、ロックオンの足に噛み付いた。
「交尾するのはいいが、時間を考えろ」
「あー、まじでごめん。今度からホームで交尾するわ」
「ロックオン!」
交尾という表現を気に入ったロックオン。
ヴァンパイアは人間と違って子孫を残すための行為は限られた時期にしか行わない。ヴァンパイアの男女は互いに発情期を迎えた後、交わって子供を残す。
それを考えれば、刹那の交尾という言葉もあながち間違ってはいないが。

ちなみに、ロックオンは万年発情期らしい。よく分からないが、コントロールできるのだ。ハイクラスになるほど、そういったことをコントロールするようになる。

「ロックオンが万年発情期なのは知っている。ティエリアが生贄で助かる」
「刹那ああああ!!」
「失礼な。俺だって、好みのタイプと嫌いなタイプがあるぞ。男は嫌いだ」
「無性は男のようなものだろう。お前の物好きにも呆れる」
「ティエリアは女の子だぞ。胸だって貧乳だけど」
「誰がまな板だ、誰が!!!」
ティエリアはロックオンの首を締め上げていた。泡をふくロックオンを地面に捨てて、ティエリアはフェンリルを抱き上げた。
「刹那、早く行こう」
「ロックオンは?気を失っているが」
「こんなゴミは放っておくべきだ」
「そうか。ならいくぞ」

刹那は肩に止まっていた真紅の鷹を巨大化し、それにひらりと乗る。
ティエリアは、風の精霊シルフを体にまとませ、空を飛ぶ。

一人捨てられ残されたロックオン。

二人は完全無視で先へと先へと進む。

「せい!」
パカラパカラ。
空中で、非常識な馬の走る音がする。
「はいやー!」
刹那とティエリアは振り返る。そこには、黒の馬を乗りこなす巨大な魔騎士と、その後ろに真っ白なエターナルの翼を開いて馬の後ろのほうにちょこんと乗ったロックオンがいた。
「主、目標に到着した。我に他に命令はないか」
「あーないない。このまま進んでくれ」
「了解した」
「ブラックパラディン・・・・・」
刹那が驚いているのも無理はない。巨大な魔騎士は魔界の住人。人では召還できない。刹那の力量をもってしても、召還できない召還獣の一つ。
「ち、腐っても水銀か」
刹那がロックオンから視線を外した。

「マイハニー、おいで」
ロックオンが、馬にちょこんと乗って、腕を広げる。
「誰がマイハニーだ!」
ティエリアは、シルフで突風をつくりロックオンを巻き込む。
ロックオンはくるくる旋回して馬から落ちた。

「おー。見える見える。今日の下着は緑のちょうちょか」
ひゅるるるーと落下しながら、ロックオンはティエリアの下着をのぞき見ていた。ティエリアの着ている服は聖職者のよくきる長衣で、両方腰までスリットが入っており、膝の位置まで布と布の間を黒のリボンが編みこまれている。
「ロックオンのエッチ!」
ロックオンは、真っ白な巨大な翼で空を飛ぶ。
ヴァンパイアであれば誰もが羨む、エターナルの証であり、巨大な翼をもつ者ほど血統的に高位の者。夜の皇帝ネイであるロックオンの翼は、巨大すぎる。
巨大なブラックパラディンが、片方の翼の大きさよりも小さいほどだ。

ロックオンは、翼を収縮させてブラックパラディンの馬にまたのると。その腕の中にはティエリアがいた。
「シルフで飛び続けるのは疲れるだろ?力は温存しとけ」
マスターであるロックオンの命令によって、ティエリアは自分の意思とは正反対にロックオンに抱きついていたのだ。こんなところだけ、強制的なのだから。しかも優しい。

「性質が、悪い」

ティエリアは自分の意思でロックオンに抱きついたまま、ロックオンの肩に額を押し付けた。



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