血と聖水V「幻惑の精霊イルジオン」







「お嬢様の、ために、死んで、下さいませ」
同じことを繰り返すエルドシア。
「魔法、だな。ヴァンパイアに見せる魔法。幻覚系か」
ロックオンが、精霊を召還する。空間が捻じ曲がった。

召還された精霊は、幻惑の精霊イルジオン。
主に、身代わりの影を作り出したり、誘惑をする時に使役する精霊だ。
イルジオンの姿は、とても美しい青年だ。だが、美しさならティエリアのほうが数段上。
「イルジオン。この空間にかかった魔法を元に戻せ」
「了解した。イルジオンだけに、そこにイル、ジョン?(ジオン)・・・・ぷふー、ぷっはははははは!!」
シーン。
刹那は後ずさる。
「柿を打った、カッキーン!蜘蛛を食べたらスッパイダー!隣に塀ができたってね、へぇ〜!ぷふ!!」
ゲラゲラと下品に笑う、美しい青年。
この性格さえなければ、召還精霊の中でも5本の指に入る美しい容姿を持つことで有名なのだが。
「帰れ、イルジオン」
「あは、またすべったー!やっべ、俺やべぇ!!主、俺を召還したのすげぇ後悔してる!主、見捨てないで〜〜
!!」
「いいから帰れ!!」
ロックオンに泣きながら取りすがる幻惑の精霊イルジオン。
「良かった・・・俺、あんなのと契約しなくて良かった」
刹那は心からそう思った。

「あひ!運動場へ行っていい?うん、どうじょ!ベランダに植えたラベンダー!馬はうま〜い!靴下を発掘した!シャレを言うのはやめなしゃれ!殺気がする、なにいつから?さっきから!あひひひひひ!!」
ティエリアは硬直した。
「ティエちゃーん、元気ぃ?俺めっさ元気ぃ!結婚しようよー」
イルジオンは、美しい見かけに騙されやすいがすごい寒いジョークが好きなアホな精霊で、しかも軽い。
ティエリアを口説きだしたイルジオンの頭を殴ったロックオン。
「主、これは愛!?主と禁断の愛!!あああ、萌える!!」
「かってに萌えてろおおおおお!!」
ロックオンが空間のゆがみをがしっと掴んで、そこに精霊イルジオンを放り投げて、空間を閉じた。
「教会にいくのは今日か〜〜〜いい?????」
寒いジョークを残して、幻惑の精霊イルジオンは強制退場させられた。
嵐が過ぎ去ったとは、こんなかんじを言うのだろうか。

エルドシアまで固まっていた。

「ティエリア、しっかりしろ。傷は浅いぞ」
「僕はもうだめです、ロックオン・・・ってアホかー!」
ティエリアはロックオンを投げ飛ばした。
「イルジオンに求愛されること508回目」
「お、俺のが上だな。1206回だ」
「イルジオン、節操ないな」
刹那が、額をぬぐう。
いかにも強敵を倒した、というかんじだ。実際は寒いギャグを連発する精霊が去っただけなのだが。

「幻覚がはがれた。もう、お前はただの戦闘人形だ」
エルドシアは、メイド姿で佇んでいた。
「お嬢様を、守る、ために、戦う!」
「何!?」
エルドシアは、それでも襲い掛かってくる。
幻覚がはがれ、近くに主はいないのに。
「お嬢様を、守る」

刹那が銀の弾丸を放つ。
ティエリアが腰にさげていた銀の長剣を抜き放ち、エルドシアをきりつけた。
エルドシアは天井にはりついている。
「この身体能力、ヴァンパイアなみか。厄介な!」

「お嬢様の、ために、死んで死んで死んで」

「ヘルブレス!」
地獄の業火がエルドシアを燃やし尽くした。
ロックオンが、炎のブレスを吐いたのだ。黒ずみになりながらも、エルドシアは動く。
「守る、ために、守る、死を」
「土に還れ」
ティエリアが、長剣でオートマティックバトルドールたちの核である額を貫いた。
エルドシアは、それきり動かなくなった。

「エルドシアはヴァンパイアではなかった!他にいる、子供のあとを追うぞ!」
刹那が駆け出す。その後を、ティエリアとロックオンも追った。


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