「お嬢様の、ために、死んで、下さいませ」 同じことを繰り返すエルドシア。 「魔法、だな。ヴァンパイアに見せる魔法。幻覚系か」 ロックオンが、精霊を召還する。空間が捻じ曲がった。 召還された精霊は、幻惑の精霊イルジオン。 主に、身代わりの影を作り出したり、誘惑をする時に使役する精霊だ。 イルジオンの姿は、とても美しい青年だ。だが、美しさならティエリアのほうが数段上。 「イルジオン。この空間にかかった魔法を元に戻せ」 「了解した。イルジオンだけに、そこにイル、ジョン?(ジオン)・・・・ぷふー、ぷっはははははは!!」 シーン。 刹那は後ずさる。 「柿を打った、カッキーン!蜘蛛を食べたらスッパイダー!隣に塀ができたってね、へぇ〜!ぷふ!!」 ゲラゲラと下品に笑う、美しい青年。 この性格さえなければ、召還精霊の中でも5本の指に入る美しい容姿を持つことで有名なのだが。 「帰れ、イルジオン」 「あは、またすべったー!やっべ、俺やべぇ!!主、俺を召還したのすげぇ後悔してる!主、見捨てないで〜〜 !!」 「いいから帰れ!!」 ロックオンに泣きながら取りすがる幻惑の精霊イルジオン。 「良かった・・・俺、あんなのと契約しなくて良かった」 刹那は心からそう思った。 「あひ!運動場へ行っていい?うん、どうじょ!ベランダに植えたラベンダー!馬はうま〜い!靴下を発掘した!シャレを言うのはやめなしゃれ!殺気がする、なにいつから?さっきから!あひひひひひ!!」 ティエリアは硬直した。 「ティエちゃーん、元気ぃ?俺めっさ元気ぃ!結婚しようよー」 イルジオンは、美しい見かけに騙されやすいがすごい寒いジョークが好きなアホな精霊で、しかも軽い。 ティエリアを口説きだしたイルジオンの頭を殴ったロックオン。 「主、これは愛!?主と禁断の愛!!あああ、萌える!!」 「かってに萌えてろおおおおお!!」 ロックオンが空間のゆがみをがしっと掴んで、そこに精霊イルジオンを放り投げて、空間を閉じた。 「教会にいくのは今日か〜〜〜いい?????」 寒いジョークを残して、幻惑の精霊イルジオンは強制退場させられた。 嵐が過ぎ去ったとは、こんなかんじを言うのだろうか。 エルドシアまで固まっていた。 「ティエリア、しっかりしろ。傷は浅いぞ」 「僕はもうだめです、ロックオン・・・ってアホかー!」 ティエリアはロックオンを投げ飛ばした。 「イルジオンに求愛されること508回目」 「お、俺のが上だな。1206回だ」 「イルジオン、節操ないな」 刹那が、額をぬぐう。 いかにも強敵を倒した、というかんじだ。実際は寒いギャグを連発する精霊が去っただけなのだが。 「幻覚がはがれた。もう、お前はただの戦闘人形だ」 エルドシアは、メイド姿で佇んでいた。 「お嬢様を、守る、ために、戦う!」 「何!?」 エルドシアは、それでも襲い掛かってくる。 幻覚がはがれ、近くに主はいないのに。 「お嬢様を、守る」 刹那が銀の弾丸を放つ。 ティエリアが腰にさげていた銀の長剣を抜き放ち、エルドシアをきりつけた。 エルドシアは天井にはりついている。 「この身体能力、ヴァンパイアなみか。厄介な!」 「お嬢様の、ために、死んで死んで死んで」 「ヘルブレス!」 地獄の業火がエルドシアを燃やし尽くした。 ロックオンが、炎のブレスを吐いたのだ。黒ずみになりながらも、エルドシアは動く。 「守る、ために、守る、死を」 「土に還れ」 ティエリアが、長剣でオートマティックバトルドールたちの核である額を貫いた。 エルドシアは、それきり動かなくなった。 「エルドシアはヴァンパイアではなかった!他にいる、子供のあとを追うぞ!」 刹那が駆け出す。その後を、ティエリアとロックオンも追った。 NEXT |