血と聖水V「母親とマリアーヌ」







「待って!」
ティエリアが少女に駆け寄る。
「お姉ちゃん・・・・・何もしない?ママを助けてくれる?」
「うん、何もしないよ。ママを助けにやってきたんだ」
「良かった。エルドシア嘘ついたのね。ハンターなんてくるはずないのに。だって、ここにはヴァンパイアなんていないもの」

少女は、ティエリアに懐いてしまった。

「ママに会わせてあげる!」
「うん」

刹那とロックオンが後に続く。

「ママ、お客さんだよ」
寝室の中に入る。
返答はなかった。

「ママ、ママ、起きて」
かび臭い匂いにが鼻につく。ベッドで眠っていた少女の母親は、カサカサに乾いたミイラだった。
「ママ、ママ」
少女は母親が眠っているのだと信じ込んで必死に声をかける。
それでも反応してくれなくて、少女は泣き出した。
「あーん。エルドシアが、いつもはママを起こしてくれるのに。エルドシア、エルドシア」
「エルドシアは・・・・」
「エルドシアはどこ?」

「エルドシアは死んだ」
「嘘」
刹那が、銀の短剣を少女の喉笛につきつける。
「いえ。ヴァンパイアはどこだ。お前の飼い主は」
「知らない!」
少女は怯えてまた泣き出した。
銀に触れても焼けどしない。この少女からはヴァンパイアの匂いはしない。
では、百人も殺したというヴァンパイアは何処に。
ティエリアの腕から、今度はロックオンの後ろに逃げる少女。
ロックオンの嗅覚はヴァンパイアハンターの比ではない。同族かどうかくらい分かる。かすかな血の匂いが、少女からした。
「お前さん・・・・・」

「エルドシアをいじめたのね!嫌い!」
真っ白な、エターナルの証である翼が少女の背中から飛び出した。

「何!?こいつがヴァンパイア!?匂いがしなかったぞ。おまけに銀に触れてもやけどしなかった」
「こいつは・・・・・ヴァンパイアと人間のハーフだな。ハーフは特異体質だ。ヴァンパイアの匂いもしない。なのに、身体能力は普通のヴァンパイアより数段上。銀はききにくい・・・・」
「君は!」
ティエリアが、呆然と少女がヴァンパイアに変わっていくのを見ていた。
「私はマリアーヌ。パパとママの子供」

「マリアーヌ!君はヴァンパイアなのか?」
「そんなはずないわ。私は人間だもの」
マリアーヌは首をふる。
「だったらその翼はなんだ!」
刹那が叫んで、銀の弾丸をうつ。
少女は弾丸を手で弾いた。
「これは、生まれつきあったの。何故かはしらない。私は人間だもの。ハンターであるあなたたちに狩られるのはおかしいわ」

「マリアーヌ!」
ティエリアが叫んだ。
このマリアーヌという少女は、自分がヴァンパイアであるという事実を理解していないのだ。
それほどに、幼い。
普通のヴァンパイアの子供は両親が守る。
母親がミイラだ。人間のミイラ。だとすると、父親がエターナルのヴァンパイア。騒ぎでも出てこないところから察するに、もう死んでいる。

「マリアーヌ、やめるんだ!!」
ティエリアはマリアーヌを抱きしめて、刹那の攻撃から庇った。
銀の弾丸がティエリアの肩を射抜く。
「ぐ・・・・」
血を流しながらも、マリアーヌを庇う。
少女は、瞳を綺麗なすみれ色から真紅にかえて、ティエリアの血を舐めた。

「がああああ」
少女が苦しむ。
ティエリアの血には水銀が混じっている。
「マリアーヌ!」
「こないで!ママを私からとりあげないで!愛されたいだけなの!私、愛されたいだけなのおおお!!」
少女の絶叫が、館中に響いた。


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