「待って!」 ティエリアが少女に駆け寄る。 「お姉ちゃん・・・・・何もしない?ママを助けてくれる?」 「うん、何もしないよ。ママを助けにやってきたんだ」 「良かった。エルドシア嘘ついたのね。ハンターなんてくるはずないのに。だって、ここにはヴァンパイアなんていないもの」 少女は、ティエリアに懐いてしまった。 「ママに会わせてあげる!」 「うん」 刹那とロックオンが後に続く。 「ママ、お客さんだよ」 寝室の中に入る。 返答はなかった。 「ママ、ママ、起きて」 かび臭い匂いにが鼻につく。ベッドで眠っていた少女の母親は、カサカサに乾いたミイラだった。 「ママ、ママ」 少女は母親が眠っているのだと信じ込んで必死に声をかける。 それでも反応してくれなくて、少女は泣き出した。 「あーん。エルドシアが、いつもはママを起こしてくれるのに。エルドシア、エルドシア」 「エルドシアは・・・・」 「エルドシアはどこ?」 「エルドシアは死んだ」 「嘘」 刹那が、銀の短剣を少女の喉笛につきつける。 「いえ。ヴァンパイアはどこだ。お前の飼い主は」 「知らない!」 少女は怯えてまた泣き出した。 銀に触れても焼けどしない。この少女からはヴァンパイアの匂いはしない。 では、百人も殺したというヴァンパイアは何処に。 ティエリアの腕から、今度はロックオンの後ろに逃げる少女。 ロックオンの嗅覚はヴァンパイアハンターの比ではない。同族かどうかくらい分かる。かすかな血の匂いが、少女からした。 「お前さん・・・・・」 「エルドシアをいじめたのね!嫌い!」 真っ白な、エターナルの証である翼が少女の背中から飛び出した。 「何!?こいつがヴァンパイア!?匂いがしなかったぞ。おまけに銀に触れてもやけどしなかった」 「こいつは・・・・・ヴァンパイアと人間のハーフだな。ハーフは特異体質だ。ヴァンパイアの匂いもしない。なのに、身体能力は普通のヴァンパイアより数段上。銀はききにくい・・・・」 「君は!」 ティエリアが、呆然と少女がヴァンパイアに変わっていくのを見ていた。 「私はマリアーヌ。パパとママの子供」 「マリアーヌ!君はヴァンパイアなのか?」 「そんなはずないわ。私は人間だもの」 マリアーヌは首をふる。 「だったらその翼はなんだ!」 刹那が叫んで、銀の弾丸をうつ。 少女は弾丸を手で弾いた。 「これは、生まれつきあったの。何故かはしらない。私は人間だもの。ハンターであるあなたたちに狩られるのはおかしいわ」 「マリアーヌ!」 ティエリアが叫んだ。 このマリアーヌという少女は、自分がヴァンパイアであるという事実を理解していないのだ。 それほどに、幼い。 普通のヴァンパイアの子供は両親が守る。 母親がミイラだ。人間のミイラ。だとすると、父親がエターナルのヴァンパイア。騒ぎでも出てこないところから察するに、もう死んでいる。 「マリアーヌ、やめるんだ!!」 ティエリアはマリアーヌを抱きしめて、刹那の攻撃から庇った。 銀の弾丸がティエリアの肩を射抜く。 「ぐ・・・・」 血を流しながらも、マリアーヌを庇う。 少女は、瞳を綺麗なすみれ色から真紅にかえて、ティエリアの血を舐めた。 「がああああ」 少女が苦しむ。 ティエリアの血には水銀が混じっている。 「マリアーヌ!」 「こないで!ママを私からとりあげないで!愛されたいだけなの!私、愛されたいだけなのおおお!!」 少女の絶叫が、館中に響いた。 NEXT |