血と聖水外伝「フェンリルとティエリア」







「血と聖水の名においてアーメン!」
ティエリアはD級ヴァンパイアを森の中に追い詰めた。
聖水を銀の短剣にふりかけ、カカカッとヴァンパイアに向けてなげる。あたった部分は灰となり、ヴァンパイアは蝙蝠となって逃げようとする。
「血と聖水の名においてアーメン!」
ホルダーからとりだした二丁の拳銃が、空を裂く。
蝙蝠の部分をう何度も撃たれ、ついにヴァンパイアは傷まみれでティエリアに命乞いした。
「後生だ、助けてくれ。命だけは」
ティエリアは、そのヴァンパイアの頭上に聖水の瓶をぶちまけた。
「うぎゃあああああああああ!!」
サラサラと灰となっていくヴァンパイア。

ティエリアは息をついて、その灰をカプセルにこめる。
思ったよりもてこづってしまった。古城からこの森まで逃げこまれてしまった。森へはヴァンパイアも人も入らない。この森は精霊の森と呼ばれて、精霊種族が支配する、精霊界とつながっているために、下手に迷いこむと精霊界に入り込んでそのまま出られなくなって死んでしまう。

「早く戻らないと・・・・」
来た道を戻るが、森は同じ風景を形作って、まるで同じ場所をぐるぐる巡っているようだ。
念のためにと、木にホーリーダガーで印をつけた。
10分後、ティエリアは印をつけた木の下に立っていた。
「飛ぶか・・・・」
ふわりと、ティエリアの背中に金色の6枚の翼、人工ヴァンパイアイノベイターの普段は使わない翼が現れる
。そのまま飛行しようとして、バチっと結界に阻まれた。
「結界・・・・・」
突破しようとしたが、ティエリアの力では無理だった。
ロックオンというロードヴァンパイア(本当はそれよりランクが高いヴァンパイアマスター)の血族として迎えられたティエリアは、人工ヴァンパイアであると同時に、マスターを持つヴァンパイアでもある。
人工ヴァンパイアイノベイターはヴァンパイアマスターとして教育が施され、皆胸に七つ星を持つ。
なのに、ティエリアは3つ星。
七つ星の力量をもたぬ半端者として他のヴァンパイアハンターから笑われる始末。

「厄介なことになったなぁ・・・・ロックオンどうしてるだろう」
ホームで待つ、マスターのことを思い出す。
夕方までには帰るといっておいた。帰ってこなければ、匂いで迎えにきてくれるだろうが。
もう太陽は大分傾きかけている。
ロックオンは上級精霊と契約しているので、精霊の森などなんなく突破できるだろう。

ため息が出る。
ティエリアが持つ精霊は下級のものばかり、それも名さえないような精霊ばかり。
名のある精霊と契約しようと何度も試みたけれど、力不足で失敗してきた。
サラマンダーやシルフの一匹も従えないヴァンパイアハンターなんて、聞いたことがないと笑われるばかりだった。ティエリアだって苦労している。LVをあげようと日々鍛錬しているし、契約魔法の勉強だってしている。
マスターが力の強いヴァンパイアだけに、マスターのもつ精霊もティエリアに従ってくれる。
でも、それはマスターのロックオンが隣にいるときだけ。こうして力をあげるために一人で狩りにいけば、ティエリアに扱える名のある精霊など一匹もいなかった。
「光を」
名前もない元素の光の精霊を召還し、ティエリアは夕暮れの闇に光をつくって、大きな木の下で蹲った。

仕方ない。
ロックオンが迎えにきてくれるのをまとう。
むやみに動きまわって精霊界に入っては大変だ。

気づくと、ティエリアは眠っていた。
戦闘で負傷した傷は再生されていたが、体力まで戻るわけではない。
「にゃあああん」
「ん・・・・」
子猫の鳴き声で、ティエリアは目覚めた。
「猫?」
目の前に、一匹の純白の猫なのか犬なのかよく分からない生き物がいた。
「にゃあああん」
「おなかすいてるの?」
ティエリアはかばんの中から干し肉をとりだして、ちぎってみると、その生き物はティエリアの腕に飛び込んできた。
「ひとなつっこいなぁ。モンスターの一種かな?」
ティエリアの手から、干し肉を食べるかわいい生き物に、ティエリアは魅了されてしまった。
「かわいい。一緒に、僕といかないかい?」
その純白の生き物は、ティエリアに擦り寄って、同意しているように見えた。

その時、ティエリアの額に紋章が浮かんだ。
「え、何!?」
ティエリアの背後から、巨大な3メートルはあろうかという白銀の狼が現れ、ティエリアは飛び退った。
「精霊!?」
コオオオオ。
氷のブレスが、ティエリアのいた空間を凍りつかせた。
「氷の上位精霊・・・・フェンリルか!」
姿かたちに、知識でしか知らないフェンリルの本物を見るのははじめてだった。気難しく、マスターであるロックオンも契約していない精霊だ。

ティエリアは、こちらを睨む精霊に叫ぶ。
「精霊の森を荒らすつもりはなかったんだ!もうすぐ迎えがくるから!」
実体化しているとはいえ、フェンリルのような上位精霊に立ち向かって勝てるわけがない。
白銀の狼は、更に巨大化して森を踏み潰した。

「汝、それを求めるか。ならば、我が答えよう。汝の名はフェンリルの王の子、ゼイクシオン。忘れるな、汝が自ら求め、自ら精霊界を出た。もう王の庇護はこの世界にはない。母であるハイサラマンドラとの混血の異端児よ。汝はもう一人では精霊界には帰れぬ。異端児としてこの世界で生き、いつか立派なフェンリルとなれ。その時精霊界への門は開かれるであろう」



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