「待ってくれ!意味が分からない!」 叫ぶティエリアを置いて、フェンリルは天に光となって消えていく。精霊界に戻っていくのだ。 ちらちらと、雪が降ってきた。 急に寒くなってきた。 天からかすかに声が聞こえた。 「我が名は、フェンリルの王ゼクノシア。さらばだ」 「フェンリルの・・・・王?」 精霊界では、その精霊種族の王が存在する。同じ精霊たちを束ねる王だ。王には女も男も関係ない。 精霊王よりもさらに上の存在を精霊神といい、神格をもつ神の一種となる。 たとえば、シルフにはシルフの精霊王がいて、ウンディーネにはウンディーネの精霊王がいる。世界に満ちる精霊たちは、全て精霊王の下にあり、精霊たちは個別に個体名を持っていた。 もっとも、人間たちは召還の時に数多くの精霊を使役するので、気に入った精霊以外に、精霊の個体名など呼ばない。精霊の個体名、それは存在しながら精霊たちにとっても希薄な存在である。その精霊としての名を呼ばれたほうが精霊は喜ぶものだ。個体名は、その精霊を束縛する呪詛のようなものだ。 まず、精霊はたとえ契約した相手にも個体名を明かすことはない。 よほど信頼関係がないかぎり、それはおこりえない。 「にゃああ・・・・僕ゼイクシオン。お父様とケンカして精霊界飛び出したフェンリルにゃ!」 「フェンリ・・・ル?」 腕の中のかわいい生き物が、人の言葉を話した。 「主を、我が主と認めるにゃ!」 ティエリアの額に浮かんでいた、契約の紋章が消えた。 フェンリルの子供の額にも契約の紋章は浮かび、そして消えたいった。 「今日から、主がご主人様にゃ!名前、名前教えてにゃ?」 「・・・・・・・・・かわいいっ!!」 ティエリアはにゃあにゃあしゃべるフェンリルの子供がかわいすぎて、抱きしめていた。 「にゃ!ゼイクシオンは、主の中だけにしまってくれにゃ。他に知られたくないにゃ」 「精霊なのに、個体名を僕に?」 「主が好きなのにゃ!一目ぼれしたのにゃ!」 「かーわーいーいー!!」 ティエリアはフェンリルの子供を抱きあげる。宙でぶらぶらと足をたらりながら、かりかりと前足で顔をかくのは子猫そのもの。 いや、見た目からして子猫だ。狼がフェンリルの外見なのだが、狼に見えない。子猫にしか見えない。 「かわいいー」 「ありがとうにゃー」 フェンリルはそういって、ティエリアを迎えに闇から現れたロックオンに氷のブレスを吐いた。 「主、敵にゃあ!」 「つめてぇぇぇ!!」 「ロックオン!」 「なんだ、その腕の中の子猫。氷のブレス吐いたぞ」 「飼っていいですか!」 ティエリアの目はキラキラと輝いていた。 「まぁ、子猫の一匹や二匹構わないけどな」 フェンリルはティエリアの手からロックオンに飛び移って、ロックオンの頭をがじがじと噛んだ。 「主になんて失礼なやつだにゃ!あやまれにゃ!」 血をたらーっとたらしながら(でもすぐに再生する)、傷口が氷づけになった。 「なんでこの子猫、氷の属性なんだ?」 「フェンリルの子供だそうです。僕と契約してくれました」 ロックオンが、吸っていた煙草を落とした。 「ティエリアに精霊?名前のある精霊との契約?しかも氷の上位精霊フェンリル?俺でさえ、契約できなかったんだぞ?」 「でも、この子が自分はフェンリルだって」 「そうだにゃ。僕はフェンリルにゃ」 えっへんと、フェンリルは自慢した。 それをぶらーんと摘み上げるロックオン。 「どう見ても子猫にしか見えねぇ・・・・」 「にゃにゃにゃにゃ!!」 「いえええええ!!」 ロックオンは、フェンリルの爪で顔をバリバリとひっかかれた。 「ヘルブレス!」 ロックオンが、氷のブレスを吐く。 それにフェンリルが驚く。 「にゃにゃ・・・大人より凄いブレスにゃ・・・・」 「これくらい氷のブレスの威力なきゃ、フェンリルじゃねーよ」 「これでもくらえにゃ!」 ごー! フェンリルは炎のブレスを吐いた。 ロックオンの頭は焦げてアフロになった。 「な、やっぱこいつフェンリルじゃねぇ!炎のブレスはく氷の精霊が何処にいる!」 「僕は母上がハイサラマンドラだったにゃ!その血を受け継いでいるから炎のブレスも吐けるにゃ!」 「まー・・・・ティエリアと契約しちまったみたいだし。ティエリア、ちゃんと世話しろよー。エサはキャットフードでいいか」 ロックオンはフェンリルをからかったつもりだったか、フェンリルは喜んだ。 「ありがたいにゃ。キャットフードはシーフード味がいいにゃ!」 こうして、ロックオンのホームにはロックオンとティエリアの他にフェンリルという精霊が増えた。 NEXT |