それが、たとえ禁忌でも「さよなら」







ティエリアに、口付ける。
ティエリアの細い肢体を抱きしめる。
ティエリアからは、甘い花の香りがした。

狂ったように振り続ける白い花の雨は、地上に触れると消えてなくなった。
まるで、雪のようだ。

「ティエリア、愛してるよ。永遠に、愛を誓う。俺は、ティエリアと出会えてよかった」
ロックオンが、哀しそうに自分の墓を見下ろした。
その墓にロックオンの遺体はなかったが、ロックオンが眠る場所であることに変わりはない。
「嫌です!行かないで下さい!僕を一人にしないで下さい!」
「ごめんな。約束なんだ。俺も、お前の傍にずっといてやりたい。でも、できないんだ。俺の力じゃ、無理なんだ」
抱きしめてくるロックオンの体は、温かい。
ティエリアは泣き叫んだ。
また、この愛しい存在を無くすのか。
自分の前から、永遠にいなくなってしまうのか。

愛とは、なんて無慈悲に残酷なのだろうか。
消えてしまうのなら、最初から出会わなければ良かった。
だが、その考えをティエリアは払拭した。
ロックオンと出会えたことが、ティエリアには最大の幸福であったのだ。
一緒に過ごしたかけがえのない時間は、色褪せることがない。

ティエリアの綺麗に結ばれたリボンが弾きとんだ。
三つ編にされた綺麗な髪が、サラサラと音をたてて流れていく。
ティエリアは絶叫した。
「いやだああああああ!居なくならないで!一人にしないで!ロックオン、ロックオン!!別れるなんていやだああああぁぁぁぁーーー!!」

ぎゅっと、ロックオンを離すまいと、抱きつく。
少女のか細い声が聞こえた。
「あなたの夢はかなえたわ。三日間だけ。そう、最初にいっておいたでしょう。三日たったら、全ておしまい。元に戻るだけ」
ティエリアは、泣きながら少女の言葉に首を振った。
「こんな結末を用意しているのなら、どうして最初から僕を助けたりしたんだ!僕は、あのまま死んでしまいたかったのに!」

「本当に?」
少女の瞳が、虹色に光った。
「嘘なんていってなんになるんだ」
「あなたは、望んでいたはずよ。もう一度、愛しい人に会えることを。あなたの望みをかなえようと、私は決意した。あなたの望みは、かなった。なぜなら、あなたが強く望んでいたから。強く強く、誰よりも愛していた人に再び出会えることを、心から」
「こんな結末、僕は望んではいなかった。嫌だよ、ロックオン。消えたりしないで。僕を一人にしないで」
ロックオンは、泣いていた。
エメラルドの瞳で、ティエリアを見つめたあと、強く抱きしめると、再び口付けを交わした。
「俺の分まで、どうか幸せになってくれ」
「あなたがいない世界で生きることに、幸せなんかない!」
「そんなことはないはずだ。絶対に、いつか幸せになれる。今が哀しくとも、ティエリアにも幸せが用意されている」
「だったら、どうして!どうして、僕の前に現れたりしたんですか!あなたは無慈悲に残酷だ!あなたに会って、再び別れがくるとしたら、どうなるかくらい想像がついていたでしょう!」
ティエリアは、ポーチから拳銃を取り出した。

ティエリアは微笑んだ。そして、覚悟したように目を瞑る。
「さようなら。たくさんの思い出をありがとう」
拳銃を、こめかみに向けてうつ。
パァンという銃声が、響いた。
「どうして!!」
確かに引き金を引いた。実弾だって入っている。セイフティーロックも解除した。
それなのに、銃はティエリアの命を絶つことはなかった。

ロックオンが、ティエリアから銃を取り上げる。
銃は、光の雫となって掻き消えた。
「あなたの元にいくことも許されないのですか!!」
ティエリアは、泣き崩れた。
「ごめんな。こんな思いさせちまって。愛してるよ、ティエリア」
暖かい体温。
それは、現実のものだ。
「うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーー!!」
ティエリアは、ロックオンにしがみついて泣き続けた。
その背を、ロックオンが撫でる。
長くなった髪を梳いて、ティエリアにまた口付けした。

「ごめんなさい。エデンへの扉が閉まってしまった今、もう私だけの力では・・・・」
少女が、苦しそうに喘いだ。
「こっちこそ、ありがとな。ティエリアとまた会えるなんて、思ってもみなかった」
少女の頭を撫でる。
「私は、私の意志であなたたちの望みを叶えた。正確には、あなたの望みをかなえたことになるけれど」
少女が、ロックオンと同じエメラルドの瞳で、ロックオンのエメラルドの瞳を見上げた。
少女の顔は、どこかティエリアに似ていた。もしも、ティエリアとロックオンの間に女の子が産まれたら、こんな子に育つだろう。
「あなたは、もうエデンに還らなければ。このままでは、あなたの魂が消滅してしまう」
ロックオンは、寂しそうに笑った。



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