「マイハニー。ここが今日から君の住処だよ」 「離しやがれ!」 お姫抱きにされたロックオンは、血の刃をイフリエルに向かって放つ。 「さぁ、さっそく初夜の契りを」 「このくそ変態が!」 ベッドの傍で、イフリエルがロックオンに頭を下げた。 「このような真似になってすまなかった、ネイよ」 「お前、またアホな真似でもしてるのか?」 イフリエルもまた、ネイと契約を交わした精霊王の一人。ネイはほぼ全ての精霊王と契約を交わしている。ロックオンとなった今もそれは変わらない。 イフリエルもまた、王として貫禄があった。落ち着いた、大人しい上品そうな精霊王に見えた。 容姿は燃える色の真紅の髪と、両目。肌は褐色。緋色に耀く短めの髪は燃えているように色をかえる。 「そうか。ジルフェルはやはりネイを選んだか」 「どういうことだ?」 「ネイ、あなたを精霊界に連れてきたのはジルフェルだろう」 「そうだが。契約が途絶えたからと、あいつが・・・・・・」 「精霊王との契約は、一度交わせば退位するまで続く。精霊王が死ぬか退位するまで、契約は続行される。その契約は精霊王という存在との契約ではなく、精霊王個人との契約になるからだ。そしてジルフェルは退位など王になってから一度もしていない。その意味が分かるか、ネイよ」 「・・・・・・・・すでに、あいつは死んでいると?」 「似たようなものだろう。違う存在となってしまった。精霊が違う存在になったとき、それは精霊としての死を意味する。そして、北にいるヴァンパイアと呼ばれるのはジルフェルの化身」 「だったら、なぜジルフェルは今も精霊王として君臨している?」 「皆、気づかぬからだよ。精霊王としての存在と今の存在はあまり変わってはいない。だが、今の存在を維持するためにジルフェルは北に自分の化身を置いて、他の精霊種族の命をエナジーとして取り込む。そうしなければ、精霊王としての存在を維持できない。この結婚は、ジルフェルの意志だ。もしも精霊界を出ていくことがあったら、結婚式をあげて自分を退位させ、そして殺してくれる相手を連れてくる。ジルフェルが違う存在となったことは、私だけが知っていた。彼が自分で告げたのだ。そして精霊王が精霊王を殺すのは禁忌。だから、お前に救いを求めたのだろう」 ロックオンは、まさかと思った。 彼からは確かに精霊の気配がしていたが、たまに血の匂いに似た香りがしたのを覚えている。甘い花のような香り・・・それが、ロックオンが感じる血の匂い。 だが、この精霊界にはそんな香りのするワインや食べ物がけっこうあるので、気にはしなかった。 「ヴァンパイアに・・・・誰かの血族にされたのか?」 精霊王ともなれば、血を吸われて人間のように知能のないヴァンピールになることはない。 「ジルフェルは、かつて自分の意思で精霊王のままあるヴァンパイアの血族となった。マスターの名はライル」 「・・・・・・!」 ロックオンは言葉もでなかった。 自分をすてた、唯一の血を分けた者。 ロックオンの双子の弟。今はネイがいなくなった血の帝国で、ロックオンのかわりにネイとして君臨しているはずだ。 「ライルとジルフェルの間に何があったかは知らない。だが、マスターである者に血族は従うのがヴァンパイアの絶対の掟だろう。ジルフェルはライルに従い、ネイを精霊界に連れてきた。そしてジルフェルはもう限界だ。ヴァンパイアとなれば、普通は精霊王であれ精霊界を追放される。精霊王として存在するために罪もない同族を殺して生きていくことに限界を感じたのだろう。お前に殺されるつもりだ、ジルフェルは」 「ライルのくそったれ!」 「お前の弟がどういう存在なのかは知らない。だが、同じ血の神としての血筋にいながらライルは血の神ではない。ネイ、お前のように孤独ではなかったはずだ。ライルが何を考えているのか、私には分からない」 「そんなこと、俺も知るかよ!」 ロックオンは声を荒げた。 「ティエリアが!ティエリアがジルフェルと一緒だ!」 「危害を加えることはないだろう。もうすぐジルフェルもくる」 「!?」 「北に放った化身が手の施しようがなく暴走しているのだ。それを殺すために、な」 化身とはいえ、もう一人の自分だ。それを殺せば、精霊王としてのジルフェルも死ぬだろう。 ライル。 本当に、何を考えているんだ。 NEXT |