聖棺の中で眠れ「セブンス、目覚めないで」







目覚める。
「今日は何処にいこうか?」
「んー。ずっとこうしていたい」
ティエリアは、ロックオンの腕の中でまどろむ。

忘れな草の鉢植えに水をやって、二人で着替えてあてもなく町を彷徨い歩く。

「ロックオン。ペアリング買って?」
「ん?ああ、いいよ」
見かけた宝石店に入り込んで、ペアリングを注文すると、いろんなデザインのものを店員が勧める。
その中から、ガーネットとエメラルドの対となるペアリングを選んで、互いの指にはめた。
「ロックオンは僕の瞳の色のガーネット、僕はロックオンの瞳の色のエメラルド」
梱包することもなく、指にはめたまま町にまた繰り出す。

「ねぇ。もしも、このペアリングだけが残ったら、一度あの宝石店に戻して。そして、もう一度僕と買いなおしにいって」
「何言ってるんだ?そんなことないだろう」
「そうだね」
ティエリアは微笑む。

聖棺の中で眠れと、ヴェーダが囁く。
ああ、もうすぐ「僕」という存在の終わり。
ただの中継であるフィフスにしては上出来だったと思う。あとは全てをセブンスに委ねるだけ。
セブンスがどんな選択をとるかはセブンスの自由。

「聖棺の中で眠れ」
「ティエリア?」
ティエリアの背中に、六枚の金の翼が見えた気がした。

ティエリアが先へ先へと歩いていく。
そのまま消えてしまいそうな気がして、ロックオンはティエリアの手を掴んで、手を握って歩きだす。
ついたのは教会。
「僕には信じる神がいない」
「奇遇だな。俺も、信じていた神を捨てた」

カストラートのような歌声がティエリアの喉から鳴り響く。
女性のソプラノの領域を遙かにうあわまる音域に、圧倒される。
両手を広げて、翼のない天使は歌う。
信じていない神への賛美歌を、ただずっと。捧げるように。それは或いは祈りに似ている。
歌い終わったあと、ロックオンは自分が涙を流しているのに気づいた。
それほどに感動的だった。

「あなたの守護天使になれますように」
聖母マリア像の前で、手を組んで祈るティエリア。
それは、本当に慈悲の天使ジブリールのようで。
ティエリアが、この世界から消えてしまう気がした。何故かは分からない。
「ロックオン?」
「守護天使には俺がなる。お前の守護天使に、俺が」
オルガノの音が響き渡る。
ハトが驚いて羽ばたいていく。
ゆっくりと落ちていく羽毛の中で、ティエリアはロックオンを唇を重ね、互いに涙を流していた。

「セブンスが目覚める・・・・・」
「セブンス?」
「僕の跡を継ぐもの。本来ならシックススが目覚めてから目覚めるはずだったのに、僕はあなたに守られ思いのほか生きてしまった。セブンスは、ガンダムヴァーチェのパイロットにして、真なるイオリアの申し子。計画の第一段階として生まれてくる、ヴェーダとのアクセスを有するバイオノイドの頂点に立つもの」
「セブンスが目覚めると、お前はどうなるんだ」
「ティエリア・アーデを破棄しなければならない」
「そんなばかなことがあるかよ!」
「だって、セブンスが正式なるティエリア・アーデとなる。ティエリアは二人もいない。古いNOが眠りにつく」
「だったら!」
「だったら?」
「俺がセブンスを、また眠りにつかせる」
「あなたは・・・・・」
ティエリアは、蹲って泣き出した。

「愛してるんだ、ティエリア!」


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