祈りの数だけ、救いはある。 祈りの数だけ、願いは見届けられる。 祈りの数だけ、きっとあなたは幸せになる。 祈りの数だけなら、誰にも負けない。 きっと、きっと。 祈るだけなら誰にもできる。 祈るだけなら誰にだってできる。 ただ祈るだけ、その行為は子供にだってアンドロイドにだってただのAIにだってできる。 けれど、真なる祈りはただ一つ。 一人一人の人間の中で一つだけ。 祈りは願いの力の結晶。 願いはやがて祈りに変わる。 祈りの数だけ人々は願いを持つ。 今日もティエリアは祈る。 神にでもなく世界のためでもなく、ただ一人愛した人の冥福を。 その祈りは、彼にも届いている。 祈りの数だけ、人は願いをもつ。 でも、ティエリアの祈りの願いは、約束されないだろう。 なぜなら、それは。 願いを形に表したものが祈り。 聖なる密やかな祈りは今日も天に届く。 「地上の天使の祈りが聞こえる」 天に住む天使たちは、地上の天使の祈りに今日も耳を傾ける。 それは歌となって天使たちを癒すのだ。 「今日も世界に祈りを」 天使たちは祈る。 世界の平和を。 世界にいきるものたちを見守るために。 彼は、ずっと地上の天使を見つめていた。 「ニール?地上の天使が気に入ったのかい」 同胞の第1206回生の天使の友人に声をかけられて、ニールは微笑んだ。 「綺麗な声で歌う人間だなぁって思って」 「地上の天使は人間ではないよ。僕らの同胞に近い。だから、地上の天使と呼ばれるんだ」 「そっか。どこかで・・・あったような、気がするんだけど」 「そういえば、ニールは元人間だったね。その頃ひょっとしたら、地上の天使と会っていたのかもね」 「人間が天使に転生するのも珍しくないからなぁ。まぁ、でももしもそうだとしたら、きっと覚えてるはずなのに」 「それはないよ。元人間であった者は記憶が全て抹消されて、魂のみの存在がエーテルの海に包まれ、そして新しく天使として卵から生まれる。エーテルの海にいた者には、前の記憶などないさ」 「まぁそうだわなぁ」 ニールは笑って、友人の天使の背中をばんばんと叩いた。 背中にある翼は透けており、衣服を着るときもなんの支障もない。 「広場に移動しよう。上級天使になるための試験、ニールも受けるんだろ?」 「ああ、受けるよ」 「最上級天使・・・セラフの方がいろいろと体験談を語って下さるよ」 「へぇ。試験のヒントになるかも。いこうぜ」 ニールは、地上の天使を至高天からちらりと見下ろして、踵を返した。 NEXT |