祈りの数だけ「至高天」







ニールは最下位天使から出発し、今では7位ある階級の中の5位に位置している。
まず、最下位天使は階級のなかにさえ含まれない天使だ。その存在は奴隷。他の上級天使たちに使役され、意思ももたずに服従するだけの存在。
そんな天使が階級を持つことは珍しい。

「知ってるか、ニール。お前は転生する前もニールって名前だったらしいぞ」
「知ってる。主が生まれたときにこの名には深い愛があると祝福してくださった」
ニールはそれから何年も至高天で修行し、勉強し、人間の魂をとりにいったり、祈りを叶える小さな奇跡を行ったりして、少しづつ階級をあげていく。やがて、天使は特別な人間を見つけその守護天使になれる。それは1位の天使の特権。
同じ7位から出発した天使たちはせいぜい4位どまりなのに、ニールはついに2位の天使まで出世した。
何千年もかかった。その何千年を、ニールは地上の世界では何百年という時間にかえた。地上と至高天では流れる時間が違う。至高天のほうが時間が過ぎるの長かったり短かったり。それは天使個人が決める時間の流れ方。

今日も、世界から地上の天使の歌声、祈りの歌が聞こえてくる。
それは、ニールにとって人生の支えになっていた。
地上の天使の歌を聞くのが好きだった。いつか、地上の天使の祈りを叶えてやるのだ。
気づくと、ニールは地上の天使に恋をしていた。
長いこと至高天から見下ろすだけの小さな存在なのに。
至高天では地上の天使を特別扱いし、すでに1位の階級をもっていた。
地上で、人間として生きながら1位の階級をもつ天使であるなんて、特例もはなただしい。
もっとも、世界には人間でありながらその魂に神格をもつ者もいるので、天使たちの反応は様々だった。

「2位の天使、ニールよ。汝に最後の試験を言い渡す。地上の天使の魂を、至高天に導きたまえ」
1位の天使の長が言い渡した言葉に、ニールはショックを受けた。
いずれ、1位となって、地上の天使の守護天使、特別存在になろうとしていたニール。守護天使であれば、人間と会話だってできる。
たくさんの守護天使が存在する世界。
聖母マリアの守護天使は四大実力者のジブリールであったことは有名だ。

「な、いけません、ここはあなた様のこられるような場所では」
「いい。どきさない。その2位の天使にようがあるのです」
「ですが、聖なる方よ。あなたは公爵であられる。この者は2位とはいえ元は最下層、奴隷です。身分なき者。あなたさまと口がきける存在ではありませぬ」
「マリアを選んだときも、お前たちはそうやって私を止めた。私を止める権利があるのはミカエルかラファエルかウリエル、そして今はもう堕ちたルシフェルのみ。主より独立を許されし私を止めることができるのは、私と同格の者のみ」
ジブリールはとても美しい貴婦人であった。
優雅で、美しい。
聖母マリアもこの美しさに絶句したという。

「ジブリール様」
ニールはその足元で膝をおり、絶対服従の態度をとる。
「2位の天使、ニールよ。地上の天使は私が守護天使となろうとしていたのだが。魂が至高天に召されるなど、歴史には書かれていない。主に聞けば、召される時だといわれた。地上の天使の魂が召されるのは遙かなる悠久の彼方であったはず。歴史書にはない何かが起ころうとしている。そして、魂が召されるかどうかあなたの目で確かめなさい」
「それは・・・・・」
「守護天使となることを、ジブリールの名において許します」
守護天使となっても、相手とコンタクトをとりその魂を守護する天使であり、それは1位の天使の仕事である。
やがて魂が召される時、至高天へと導きそしてその魂はエーテルの海にひたり、新しい卵となって天使となる。守護天使に守護される者は、次の天使、しかも高位天使となるべき存在のみ。

それが至高天の掟であった。

「ニールの名にかけて、誓います」

「ニールよ。どんなに願おうとも、天使は人にはなれません。そのことをよく承知しておきなさい」

「・・・・・・・・・・・・・」


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