「絶望した」 変らず、絶望したと繰り返すティエリア。 また、一から描き直しだ。よい出来であっただけに、また描き直すのはある意味苦痛だ。 まぁ、コマ割りも台詞もストーリーも全て出来上がっていたので、また描き直すのにそれほど時間はかからないだろう。 ボーイズラブの内容ではあるが、ギャグの内容でヤっているシーンはなかったので、全てティエリアが描いた。新刊の同人誌に収録される予定で、ページは110ページ。60ページをミス・スメラギが描いて、残りの30ページをティエリアが描いて、残ったページはイラストのカットや奥付け、残ったページにあわせてティエリアが小説を書き下ろす予定になっていた。 ティエリアが普段読んでいるような、過激な性描写はない。ミス・スメラギがかくエッチシーンはたまに過激なものもあったが、今回は一応18禁ではあるが内容としてはゆるいほうだ。今回は、ストーリーを重視した。同じように、30ページを任されたティエリアは、単発ギャグの漫画であった。 ミス・スメラギもギャグ漫画を描くが、微笑ましいかんじのギャグで、ティエリアが描くギャグは腹がよじれるほどに面白い。 ボーイズラブが嫌いな人でも、ティエリアの描く何ページかのギャグ漫画が読みたいだけに購入していく人も多かった。男女恋愛も入っているので、男性の読者もわりといた。 コミケで売り子となるのはミス・スメラギの仕事であって、ティエリアは一切手をかさない。同じジャンルで知り合った友人を売り子として助っ人にしていた。 通販は一切しない。できあがった同人誌は、全て友人のサークルに委託するか、同人誌を通販でかえるサイトやショップに委託していた。大手サークルなだけに、委託できる数も多いので、数百冊という在庫は新刊として登場して2ヶ月もしないうちに全て完売してしまう。 その売上金で、ミス・スメラギは新しいブランドものを買いあさり、貯蓄しておいた金でトーンなど漫画をかくのに必要なものを購入し、次回の印刷のための資金とする。 ちなみに、かつてのロックオンは18禁のボーイズラブを、ティエリアと同じように2次元と割り切って刹那に読ますために内容を確かめるときに読んだ。 ロクティエの18禁の女性化本は、ティエリアには悪いがおかずになっていた。 ティエリアも薄々気づいていたが、自分ではロックオンの欲求を完全に解消してあげれることができないのを分かっていたので、黙っていた。 ちなみに、ロックオンが好む女性化本は、何故か貧乳のものばかりだ。 トレミーの女性陣のように、巨乳だと萎えるらしい。実際のティエリアがツルペタだけに、ロックオンの好みも元々巨乳から貧乳好きに変っていた。 そして、話は変ってライルであるが。 流石はロックオンの双子の弟というだけあるだろうか。 トレミーの、アレルヤにとっては恐怖にCBの秘密にすぐに慣れた。 刹那と一緒に、18禁のボーイズラブを平気で読む。そこらへんは、ロックオンよりレベルが上なのかもしれない。 アロウズとの戦いばかりで、ろくな娯楽もない環境の中、なぜか必ず通販で刹那が買う同人誌は届いた。 刹那も、いろんなジャンルの同人誌を読むようになった。自分がはまった漫画やアニメの同人誌を買いあさる。 刹那の本棚は同人誌にまみれ、使用していない部屋に本棚を置いて、そこで刹那の部屋の本棚に入りきれなかった同人誌は並べられた。刹那も、読み飽きた同人誌を捨てる。それでも、同人誌の数は一向に減らない。 刹那の同人誌の並べられた本棚には、必ずミス・スメラギとティエリアのサークルの同人誌があった。仲間が描いているということなので、ジャンルも関係なしに買う。 そして読むと、自室のいつでも読める本棚に大切にしまうのであった。 ガンダムマイスターでの同人誌に関する常識人は、もはやアレルヤ一人になっていた。 最初はライルも常識人だと思っていたのに、ティエリアが同人誌を描いているということに興味をもち、新刊がライルの知っていたアニメだったので、ためしに読んだ。 ライルは涙を流しながら、床を叩いて転げまわった。 それ以来、ライルも同人誌の虜である。主にギャグ本ばかり読むが、暇な時は18禁のボーイズラブの本も読んだ。刹那の買う本はどれもよく、ボーイズラブであっても切ないものが多かった。 ライルは、エッチシーンを読み飛ばす。男性同士のエッチシーンなど興味はない。適当に読み飛ばして、肝心のストーリーだけを読んだ。 刹那の買う同人誌はボーイズラブが多いが、ちゃんとした男女恋愛の18禁もある。 ライルはその場合はエッチシーンまでちゃんと読んだ。男なのだから興味は無論ある。興奮することはなかったが、それでも読んで、面白かったという感想を残した。 刹那の買う同人誌はジャンルはばらばらであったが、ガンダムOOが多かった。しかも、なぜかロクティエがおおい。最近はライティエにはまっているらしい。男女恋愛ものでは、刹マリとアレマリを買った。 刹マリのギャグ本は笑ってよむ。だが、恋愛もののシリアスになると、マリナはこんなんじゃないとかいいながら、それでも読んだ。 18禁本を読んでも、刹那はライルと同じで興奮しなかった。本物でないとだめらしい。 「一体何に絶望しているんだ、ティエリア・アーデ」 刹那が、元気のないティエリアの原因を聞きだす。 すると、ティエリアはこう言った。 「ミス・スメラギから依頼されガンダムOOのロクアレの原稿にオロナミンCをこぼした。せっかく上手くかけたのに、描き直しだ」 「それは気の毒だったな」 普通に会話をする二人であったが、場所は食堂である。 皆が寛いでいる。クルーたちは興味ないとばかりに、同人誌については触らない。触らぬ神に祟りなし。うかつに触れて、もしもガンダムOOのジャンルで普通に登場人物として出てくるのであってはいいが、ボーイズラブのジャンルで受、攻にされてしまっては、CBのなかで生きていけない。 マリーと楽しく会話をして、お茶を飲んでいたアレルヤは、お茶をふきだし、目の前にいるマリーに浴びせてしまった。 「ご、ごめんマリー」 「いいのよ、アレルヤ」 マリーは、もっていたはんかちで顔を拭う。 アレルヤを愛しているからこそ、アレルヤの良いところも悪いところもマリーは素直に受け入れた。 「ティエリアさん」 「何か」 マリーがティエリアに声をかけた。 「その、ロクアレという同人誌の原稿、出来上がったら見せてくれないかしら。興味があるわ」 「うわあああぁぁぁぁ!!」 アレルヤが叫んだ。 「見ても面白くもなんともないよ、マリー!」 マリーも、愛しいアレルヤが傍にいるが、CBに保護される形をなって娯楽に飢えていた。 「完成したら、一番に見せよう」 「ええ、ありがとう」 嬉しそうに、マリーは微笑んだ。 あああああぁぁぁぁぁ。 僕のマリーが、僕のマリーが腐女子になってしまううう。 なんとかとめたいアレルヤであったが、愛しいマリーの願いを無下にすることはできない。 泣きながら、アレルヤは肩を落とした。 「僕からもお願いするよ。出来上がったら、マリーに見せてほしい」 「アレルヤ、大人ね。流石だわ。自分を題材にされて、普通なら怒るのに、流石アレルヤだわ」 怒るとかそういう問題ではないのだ。 ミス・スメラギとティエリアを止めることがアレルヤには不可能だった。 ライルがいつの間にかティエリアの隣に座っていた。 刹那から、ティエリアの使っていたカップを受け取り、それに緑茶を注ぐ。 わりと渋い趣味だ。 カップはいくつでもあるだろうに、ライルと刹那はよくティエリアが使ったカップやコップを使用した。 それに、ティエリアはなんの文句も言わない。 もう慣れてしまった。 「うーん、緑茶なのにほのかにホワイトメロンソーダの味がする。不思議な味だな」 緑茶を飲み終わって、ライルがティエリアの隣にいる刹那の前にカップを置いた。 「ライル、新しいガンダムOOのギャグを中心にした同人誌が届いた。お前も読むか?」 「お、まじで?ちょうど暇だったんだよ、読むぜ」 「僕は、原稿の描き直し作業があるので遠慮しておく」 いつもは、ティエリアも混じって三人で読むのだが、流石に締め切りが近いので早めに描き直したい。 「ガンダムOOの同人誌ですか!私も読みたいです!!」 マリーが顔を輝かせた。 アレルヤが、見る見る青ざめていく。 僕のマリーが、いけない道にはまっていく。 あああああ。 アレルヤの心境を色に例えるとしたら、真っ黒であっただろう。 NEXT |