血と聖水Y「ネイの血族」








「オホホホ。御機嫌よう」
女装したリジェネは、同じく女装したティエリアと一緒に豪華客船の客になりすましていた。
ちなみに、刹那は二人の執事ということになっている。
宛がわれた客室はスイートルーム。

そこに一緒に乗っているのは、アレルヤ・ハプティズムという、帝国生まれではないヴァンパイアでありながらヴァンパイアハンターを生業とする、同族殺しで有名な穏かな青年だった。
「ごめんね。みんなの分の切符用意できなくて」
「いいよ。こうして船に密航が、客室で普通にできるだけで助かる」
「恩にきる、アレルヤ」
「ありがとね、アレルヤ」
「それにしても血の帝国に紛れ込もうだなんて、大胆だね」

「どうしても、行かなければならない事情がある」
ティエリアは、決意を決めた強い瞳で語る。

「主の傍に、僕あり、だにゃ」
着飾った上流階級のペットらしく、子猫の姿のフェンリルは貴金属や宝石のアクセサリーをしている。
ティエリアとリジェネの女性の服も、刹那の執事の服も全てアレルヤが手配してくれた。

アレルヤは、帝国生まれではないが、代々夜の皇帝に使えて、人間世界に野放しになったヴァンパイアの勢力情報などを教える、密使であった。うまくヴァンパイアと人間が共存しているかどうかが、彼に与えられた任務であった。そして、共存地区を荒らすヴァンパイアを狩るのが彼の主な仕事である。共存をやめる人間は、放っておけばいい。逃げ出す人間のかわりに、新しく協会が共存地区に開拓民を住まわせる。
共存は、ネイが思案したことであった。ここ2千年で、大分人間世界でもヴァンパイアとの共存世界が生まれた。血の帝国がなくなっても民が生きていられるようにとのロックオンの配慮が始まりであった。
エターナルでは得られない裏の情報を仕入れたり、貴族のエターナルがしたがらない仕事をこなす、アサシンでもある。表の協会所属だが、存在は帝国生れのヴァンパイアと似たようなものだろう。
今はライルに忠実を誓う、人間世界生まれのヴァンパイア。
ヴァンパイアハンターをし、そして同時に神父でもあった。
今回は、ただのヴァンパイアの貴族としての渡航である。

貴族のアレルヤの妹と姉のティエリアとリジェネ、そして一家の執事を務める刹那。
フェンリルはティエリアのペット。
そういう筋書きであった。

怪しまれそうになったことは何度かあったが、特に刹那の不振な動きとか・・・。
神父はブラッド帝国にも存在し、尊い存在なので、船に乗っている他のエターナルや人間はアレルヤに洗礼をこう。
ブラッド帝国はエターナルヴァンパイアの地。だが、人間も民として生きている。共存が果たされた世界。
だからこそ、ブラッド帝国は、人類の最大の敵であるヴァンパイアを民としながら、他の人間国家とも共存をはかって7千年以上も栄えているのである。

「ごめん、洗礼の時間だ。ちょっといってくるね」
「うん」
ブラッド帝国は遠い。
船で一ヶ月はかかる。あともう少しでつく。
ティエリアは、銃の手入れをしている。リジェネはその血に飼っているブラッディイーターを呼び出して、自分の血を与えていた。刹那は・・・・・見張り役のはずなのに、眠りこけていた。
目にまじっくでにせの目玉をかいているが、うつらうつらしているのですぐ分かる。
一番緊張感がないのは、多分刹那かもしれない。

「困ります!」
「どいてください。通報により、この部屋に皇帝の命を狙う暗殺者がいるとの情報が入りました」
「そんなことはありません!僕の家族なんです!」
廊下でもめあう声がする。

刹那が目覚め、ビームサーベルを手にする。
「正体がばれたのか?」
「いや、それより酷いことになってるみたいだよ。皇帝暗殺の疑いかけられてるみたい」

「あ!」
アレルヤをふりきって、船の警備員が中に入る。
「大人しくしろ!!」
どかどかと入り込んでくる、エターナルの警備員たちをどうするか、刹那とリジェネは考えている。
そこに、ティエリアがフェンリルを抱いてドレスの裾を翻して、ドサリとソファーに腰掛けた。

「私は、ティエリア・アーデ。代々ネイを受け継ぐ者の、五代目ネイの血族。ネイの恋人だ」
足を組んで、大人たちを冷ややかな視線で見つめる。
「ネイ様の!?証拠がどこにある、小娘!」

額に、特殊な紋章が浮かび上がった。
ティエリアは、瞳を真紅に輝かせる。

「おお・・・・これは、まぎれもなくネイ様の紋章。これは・・・・・失礼いたしました。皆の者、膝を折れ!この方はネイ様の血族であらせられる!!」
「は!」

「ティエリア?」
刹那もリジェネもアレルヤでさえも呆然としていた。



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