血と聖水Z「風の便り」







ティエリアとロックオンのホームで、いつものように朝がはじまる。
ブラッド皇帝メザーリアは、3ヶ月前このホームを後にした。そして、ネイに言われた通り家臣の家来の男性と結婚し、すでに身篭っているという。
「皇帝から手紙きてるー!」
ティエリアは皇帝をとても気に入っていたので、文通を続けていた。
ブラッド帝国にいこうとすれば1ヶ月かかるが、手紙などは短期間で届く。ブラッド帝国と人間世界の出入り、空間転移も許された精霊が運んでくれる。人の出入りは監視は厳しいので船でしか行き来できない。
文通しているのは、もう、ブラッド帝国にいくことはないだろうから。皇帝がこちらの世界にこない限り、会うことはないだろう。

教皇のアルテイジアの死後、教皇庁は、新しい教皇にティエリアを指名し、ネイに帰国を要請したが、ロックオンは蹴った。愛しい血族の恋人を教皇にしてしまえば、いやがおうでも権力争いに巻き込まれるし、暗殺される可能性だって否定できない。
ロックオンは、血の帝国を捨てたわけではないが、実際にロックオンの言葉一つで表の皇帝だってすぐに代替してしまうだろうけれど、距離を置いたままうまくいっているのだ。
血の帝国は、実際にはネイがいなくとも困ることはないのだ。このまま、自分が作った国としてロックオンは見守るつもりであった。

ブラッド帝国は、イノベイターの住む場所ではない。ティエリアには教皇など向かないだろう。
ブラッド帝国に住むヴァンパイアたちは、イノベイターの敵ではないのだし。
ティエルマリアの命令に背かず、霊子LVの支配を未だに受けているティエリアは、ヴァンパイアハンターの稼業を続け、それを誇りしていた。
リジェネや刹那も続けている。
霊子LVでの支配から逃れたイノベイターたちは、母であるティエルマリア、創造者を、神を裏切った。
ロックオンも、流石に霊子LVでティエルマリアにティエリアが支配され続けていることは知らなかった。ネイという血の一族の神にいながらも、神という神格を魂に持つ個体はこの世界にはたくさんいる。
神と一言でいっても、それはその種族を超越した存在なのであって、万能ではないのだ。

「えーなになに、ティエリアちゃん大好き。子供できた・・・・ぶー!!!」
ティエリアは、手紙を声に出して、ティエリアちゃん大好きという部分でとても機嫌よさそうににこにこしていたのだが、子供できたという文字に、飲んでいたメロンジュースを吹き出して、ロックオンの顔にかけた。
「お前なぁ・・・・皇帝の手紙読むときは、もう飲み物飲むな。食べ物食うのも禁止」
何度、ロックオンの顔に食べ物や飲み物を吹き飛ばしたことだろう。
皇帝メザーリアの手紙は、簡潔でいてそれでいて衝撃的な内容が多かった。
以前は、結婚した。でも暇だったので浮気した。男5人できたって手紙だった。それを読んで、ティエリアはロックオンの顔に夕食のピザを吹き飛ばしていた。
「ロックオン、僕のもくらえだにゃ!!」
フェンリルが飲んでいた牛乳をわざとロックオンの顔に吹き出してかけた。
「・・・・・・・・顔洗ってくるわ」
牛乳まみれになったロックオンは、顔と手を洗って戻ってきた。
「皇帝・・・・やっちゃったよ!どうしよう!!!」
「どうしたんだ?」
ティエリアから手紙を受け取って続きを読むと、子供は夫の子ではなく浮気した男の誰かの子・・・と書いてあった。
「あー・・・・やっちゃったな」
「郵便だにゃーん!!」
チリンチリンと、郵便宅配のおっさんのママチャリのベルの音を聞いて、フェンリルが飛び出していく。口にくわえて戻ってきたフェンリルは、手紙を器用にあけると中身を読み出した。
「えー。ティエリアちゃん大好き!前の手紙は冗談。子供は紛れもない夫の子。浮気してた男とは手を切った。慰謝料ふんだくってやった。流石皇帝、と夫も褒めてくれた。だって、夫貧乏だもん。浮気してたやつら貴族の金もち。ふんだくった慰謝料で夫に貴族の地位と爵位と領地をあげた。またねん、あなたの皇帝より・・・・だにゃん」
「皇帝らしい・・・」
美しい女皇帝は、まだ少女でありながらしっかりした性格をしていた。
先代皇帝のイブラヒム三世(その後のネイのクローンは、皇帝として廃位となり、皇帝として数えられていない)よりもしっかりとした、歴代皇帝の中でも素晴らしい皇帝としてすでに名高い。
皇帝に君臨してまだ一年もたっていないが、ここまで民に指示されていれば、500年は君臨し続けれるだろう。

「にゃーん。爪とぎするかにゃーん」
フェンリルは、手紙をティエリアに渡してから、ジャキっと爪を出すとバリバリと床をひっかく。
「こらあああ!爪とぎ用の板あるだろうが!!」
ロックオンが怒る。
「しあげだのにゃん!」
バリバリバリバリ!!
ロックオンの顔をひっかいて、フェンリルはティエリアの頭にのっかった。ちょこんと。

「いってええええええええ!!!」

ロックオンの悲鳴は、夕暮れの時間に響きまくった。




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