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天宮に続く天使回廊を、今日もティエリアは一人で歩く。
たった一人の家族であった、双子の男性よりの中性の兄であったリジェネは天王に召されて、翼の黒い堕天使のなりやすい黒色ガンにかかり、そのまま衰弱死してしまった。
本来は人形として召されるしか運命のないティエリアとリジェネ。
天王は女性よりの中性である妹のティエリアを所望したのだが、リジェネが自分を庇って天王の元に行ってしまったのだ。
この天界において、奴隷の翼の色は黒である。堕天使とも呼ばれる。
ティエリアとリジェネは、西の王族出身であった。
しかし、生まれつき翼が黒いために階級は奴隷に落とされ、奴隷王子と王女として蔑まれながら育った。
奴隷として階級は落とされたといっても、西の王の子として、教育もちゃんと受けていたし、王が迫害から双子を守ってくれた。
その北の王が亡くなって・・・・・双子を守る者は誰もいなくなった。王の后であり、双子の母は、双子を産んだ時にその背中の翼が黒いことで狂って死んでしまった。
奴隷階級の天使の翼は黒。古来からそう決められていた。
それは遺伝でもあったり、突然変異でもあった。
ティエリアとリジェネの場合は、完全なる突然変異。
本来なら「ミカエル」となれる12枚の翼をもちながらも、翼の色は黒。
それが双子の未来を閉ざした。翼の色が純白なら、「ミカエル」として、神殿で育てられていただろう。
不吉なことに、双子の翼の色は、奴隷階級の黒、そして堕天使の証でもある黒。
12枚の黒い翼を持った天使としては「ルシフェル」が有名であった。
かつて、この天界で大戦争を引き起こした堕天使であった。それは、奴隷階級の黒い翼をもつ者に自由と人権を与えるための解放戦争であった。結局は、天王の下についた東西南北の四人の王が、「ルシフェル」を殺したとされている。奴隷たちの目の前で、「ルシフェル」は殺され、その魂と遺体は天の河に流されたという。
ルシフェルは戦闘奴隷として有名で、何人もの悪魔を殺してきた奴隷にありながら将軍の地位にまで自力で登りつめた有能な天使であった。その翼が白ければ、戦闘奴隷になどされず、天王の右腕として、確固たる地位が生まれながらに備わっていただろうに。
ひそひそひそ。
また、天使回廊を歩く傍から、内緒話が聞こえてくる。
「見て、「ルシフェル」よ。天王が奴隷から解放し、西の王族に迎えたのですって」
「天王も気まぐれなお方だな。以前の「ルシフェル」も奴隷から解放したが、すぐに黒色ガンで死んだことで、まだ心を痛めていらっしゃる。あんな奴隷なんか、死んで当たり前なのに」
「ああ、朝から気味の悪いものを見てしまったな」
「本当に。姿形だけは「ミカエル」のように美しいのに。背の12枚の翼が黒だと、人生おしまいだな」
「戦闘人形にされて当たり前な奴隷がこの美しい天使回廊を歩くだなんて」
同じ時間に、天使回廊を歩いていた東の王、刹那が足を止めた。刹那の翼は六枚。通常、王族の翼は六枚、天王も六枚。「ミカエル」「ラファエル」「ウリエル」「ジブリール」の地位につく者は白い12枚の翼、そして「ルシフェル」と呼ばれるものは12枚の黒い翼をもつ。
刹那が足をとめたのに気づいて、ティエリアも足を止める。
「ティエリア、天宮に向かうなら言ってくれればいいのに」
「ありがとう。でも、僕と一緒だと不都合ばかり起きるだろう?」
「そんなことはない」
「先代「ルシフェル」は、どうやって天王にとりいったんだろうな?」
「顔と体じゃないのか?」
「あっはっは、そりゃいえてる。あいつらは見た目だけはいいからなぁ」
その言葉に、ティエリアは笑っていた男の天使の翼を素手で引き千切った。
「うぎゃああああ!!」
「リジェネのことを、愚弄する者は誰であろうと容赦しないぞ。僕のツインは立派な天使だった!お前たちのような腐った権力に群がるハエとは大違いだった!!」
「よせ、ティエリア!」
刹那が止めたことで、ティエリアは我に返った。血に染まった手を見つめる。
「覚えておけ!お前たちが笑う戦闘奴隷は、能力がけた違いであると!そしていま、「ルシフェル」の称号を与えられた僕は奴隷ではなく西の王だ!翼が黒くとも王、お前たちよりも階級は遙かに上だ!殺されても、お前、仕方ないことを言ったのだから。天王に訴えようが他の王たちに訴えようが、僕は西の王だ。平民が王を侮辱することは、立派な死罪にあたる。覚えておけ!!」
声を荒げて、ティエリアは隣にいた男を殴りつけて、天使回廊を進んでいく。
「落ち着け、ティエリア」
刹那が背後からティエリアを抱き寄せる。
「刹那。僕は悔しい。なぜ、僕の翼は黒なんだ。黒でなければ、リジェネも死ななかった」
「お前の翼の色が黒だろうが白だろうが俺は気にしない」
「刹那、刹那・・・・東の王。僕は、刹那、君のためになら戦闘奴隷にだってなんにだってなる」
「バカをいうな!奴隷から解放されたというのに!」
「いつか、僕は本物の「ルシフェル」になる。奴隷たちを解放する」
「ティエリア。頼むから、死に急ぐような真似だけはするなよ」
逃げていく見物人たちが、東の王の刹那に睨まれてさらに散り散りになる。
東の王が、西の黒い翼の奴隷王を愛しているのは有名は話であった。
二人は、そのまま天使回廊を進み、天宮へと昇る。
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