謁見の間に通される。 天王を中心に、北の王、西の王、東の王、南の王の玉座があった。 刹那は東の王の玉座に座るが、ティエリアは座らない。人から与えられた地位など、ティエリアには意味のないことなのだ。 「ティエリア、おいで」 刹那の玉座の隣には、椅子が置いてあった。いつも、ティエリアはそこに座る。 すでに北の王と南の王は玉座についていた。 北の王の名はロックオン。南の王の名はアレルヤ。 そして、中心の玉座に座っているのが天王ライル。 北の王の双子の弟であるが、天界では双子は幸をもたらす神秘的な存在である。双子の弟か妹が東西南北の王の血筋に生まれると、自動的に天王となる仕組みになっていた。 「ティエリア。リジェネのことは、本当に悪かった」 「あなたに謝れても、何もならない。リジェネは死んだ。この天宮は黒い翼をもつ者にとっていごこちがよくない。空気が澄んでいない。リジェネは生まれつき体が弱かった。リジェネを殺したのはライル、あなただ」 きっぱりと断言するティエリアに、天王ライルはすまなさそうに頭を下げる。 「許してくれ・・・・まさか、死ぬなんて思ってなかったんだ。リジェネを愛していた。愛していたから手放せなかった」 「リジェネは、死に間際、ライルを愛しているといっていた。あなたの愛が本物であったことだけは認めよう。だが、リジェネの死はあなたに責任がある。僕はあなたを許さない」 背の12枚の黒い翼がばさりと広がる。 「天王もこれだけ謝罪しているんだから、形だけでも許してもらえないかな?」 大人しい南の王アレルヤが二人の間に割って入る。 だが、ティエリアはそっぽを向いたままライルと顔をあわせなくなった。 「僕は「ルシフェル」になるんだ。奴隷たちを解放する」 「その話はまた今度だ。天王だけでなく、東西南北四人の王の意思が揃えば、戦争など起きなくとも奴隷は解放される。だいだいなぁ、今時奴隷なんて時代錯誤なんだよ!戦闘奴隷とか!天使をまるでゴミみたいに!戦闘人形が開発された今、戦闘奴隷はいずれ必要なくなる」 北の王ロックオンの言葉に、けれどアレルヤは首を振る。 「僕らの意思がそろうのは簡単だよ。一枚の署名にサインをすれば、それが天界全土に命令として伝わる。でも、今まで虐げられてきた奴隷の人たちが、いきなり解放されても生きていけない。生きる術をもっていないんだ、奴隷の人たちは。主人がいて、その人に衣食住全てを恵んでもらう・・・このシステムをなくして、完全に奴隷を解放し、自分の力で生きていけるようにしなけばならない。開拓民にでもなるか・・・開拓民も奴隷構成だったね・・・難しいね。世界の歴史を変えたい気持ちはみんな一緒、でも実現は厳しい。平民や貴族たちが奴隷解放に反発するのは目に見えてるしね」 「それでも、僕は「ルシフェル」になる。反発する貴族や平民がいるなら、そいつらを戦闘奴隷として悪魔退治の戦争に放りこんでしまえ。奴隷がいかに惨めであるか思い知らせて・・・・」 「ティエリア、いってることめちゃくちゃだよ」 アレルヤが、止める前に、刹那がティエリアの口を封じた。 「ティエリア、西の王だろう。民を迫害するような言葉は慎め」 東の王は西の王に次いで若いが、思考はとても大人だ。 この中で唯一成人していないのが西の王ティエリア。 はじめは皆、刹那以外西の王を王として認めなかった。 なぜなら、その翼が黒く奴隷階級の証拠であるからだ。堕天使ルシフェルの再来のような12枚の黒い翼をもつ天使は、物静かで何を言われても無視をするが、リジェネのことを言われると手の施しようがない。 あと、ばかな貴族の御曹司がティエリアを奴隷として輪姦しようとした時、ティエリアは顔色一つ変えずに、その犯行に加わった10名の貴族を皆殺しにした。 天界で天王のもとに裁判が開かれたが、結果はティエリアの無罪。天界で、まだ奴隷階級とはいえ、西の王として召還されたのだから、当たり前といえば当たり前。 だが、奴隷の身分である者に息子を殺された貴族たちは黙っていなかった。ティエリアを殺そうとして・・・・結果は、関わった貴族の皆殺し。全て、ティエリアが一人で殺したのだ。顔色一つ変えず。そう、かのルシフェルのようにかつてティエリアは戦闘奴隷をしていた。身体能力がずばぬけている。いずれ将軍になれる、というところで西の王に後継者がもういなくて、血縁者もいないせいで、奴隷王の誕生となったのだ。 奴隷王のままでは不都合が多いので、悩んだすえに天王ライルは王族の血を引いているのだしと、ティエリアを奴隷階級から解放した。 これもまた、奴隷階級に苦しむ者が救世主メシア、「ルシフェル」が再臨したと騒ぐことに火をつけた。 西の王ティエリアは、奴隷階級に絶大な支持を得ている。戦闘奴隷も然り。ティエリアが実際に反旗を翻せば、数百年前のように天界で大戦争が再び引き起こされるだろう。平民の信頼もわりと厚い。平民も、貴族に虐げられているからだ。暮らしも奴隷とかわりない貧民もおおい。奴隷と手をとりあっていきている平民は、実に天界の65%にのぼる。 そこまで、貧富の差が広がっているのだ。 この圧倒的な貧富の差をなんとかしない限り、ティエリアでなくてもルシフェルは誕生するだろう。 「刹那。眠い。寝ていい?」 「ああ、いいぞ」 刹那の肩に首を寄せて、ティエリアはうつらうつらしはじめる。 戦闘奴隷にされていた頃に薬で肉体強化を強制的に図られたティエリアは、眠ることが多かった。 ティエリアを抱きあげて、刹那は他の王を見る。 「ティエリアを俺の部屋に運ぶ。もう用はないな、他の王たち」 「ああ・・・・まぁ、会議はいつでもできるしな」 ロックオンは、刹那の腕の中のティエリアを見る。 初恋だった。 始めてあったのは、もう何十年も前。 まだリジェネも西の王も健在で、先代の北の王と領地に遊びにいき、奴隷王子と王女の存在を知った。 ロックオンは、天王になれなかった。 リジェネであっても、ロックオンなら空気のいい浮島を用意して、そこに住まわせただろう。そうであれば、リジェネも黒色ガンで死ぬこともなかっただろう。 「好きって思ってて、やっと対等の王になれたと思ったら、肝心の姫王は東の王刹那に夢中、か。どうにもならんねぇ」 ロックオンは、テーブルの上にあったブドウを食べる。 「奪うか、それとも見守るか・・・・どうするかねぇ」 NEXT |