天使の鎖「正妃へ」







刹那の手によって、西の館に戻されたティエリアは、それから毎日刹那と過ごした。
刹那は、天王に正式にティエリアを正妃とすることを告げた。
だが、それは認められなかった。
西に他に王族がいないのだ。
結局、天王の合意を得られぬまま、ティエリアは刹那の正妃となった。

「僕は・・・・神に感謝をしている。君に出会えたことに、感謝を」
「俺もだ。お前に出会えたことに、感謝を」

「お前は、もう俺のものだ。俺の正妃。妻だ」
「僕でよかったのか?他にもいっぱい・・・・」
刹那は、ティエリアの唇を唇で塞ぐ。
「俺にはお前だけだ、ティエリア」
「僕にも、君だけだ」

ロックオンは、結局ティエリアを刹那から奪うことはしなかった。
ティエリアに、愛しているとも告げなかった。

ただ、誰よりも二人の婚姻を喜んでいた。
ロックオンは、ティエリアが幸せならそれでよかったのだ。元から、ロックオンにティエリアを刹那から奪うという意思はなかったのかもしれない。
ロックオンは、貴族から正妃を娶り、そのまま第5妃まで娶った。
だが、子供はなかなか生まれなかった。
正妃が、そのうち卵を産んだ。
天使は卵で生れてくる。
だが、その卵は孵化しなかった。
死んでいるのか生きているのかも分からない卵に、ロックオンはティエリアと名づけた。
生れてくれば、黒い翼であろうということだけはわかっていた。女の子であるということも。
でも、その卵は全く孵化の兆しを見せず、ついには正妃も諦めた。ロックオンの寵愛を受けることは、どの妃も叶わなかった。
一度だけ夜を共にした正妃はなんとか卵を産んだが、だか子供は卵から孵化しない。
そのうちに、正妃は家臣と姦通して、新しい卵を産む。
それが孵化し、王子が生まれた。
ロックオンは、愛人を持った正妃をせめることはせず、王子を自分の跡取りとして認め、王太子にした。

「あなたは、いつも西の王のティエリア様ばかりを見ているのですね。私は西の王のティエリア様にはなれません。いつ生まれるかも分からぬ卵ではこの国が滅びます。王太子はあなたの子ということにしてくださいませ。あなたは私を正妃にした責任がある」
「すまない、正妃よ。王太子は俺の子だ。お前の地位も、他の妃たちの地位も今まで通りにする」
「本当に欲しいのなら、奪えばよかったのに、王よ」
「奪うだけは、愛されないのだよ」
ロックオンは、遠い空をずっと眺めていた。

ティエリアは、完全に女性として分化したが、刹那との間に子はできなかった。
刹那もそれを気にしたことはなかった。
王太子には、弟を選び、正妃のティエリア以外に刹那は妻をもつことはなかった。

「刹那、僕はなぜ子が産めないのだろう。やはり、分化した中性だからだろうか」
「気にすることはない。王太子には弟をたてた」
「だが、僕が子をうまなければ、西の国は王族が他にいない。国が滅びてしまう」
「だったら、養子をとればいい」
「だめだ。王が養子を子として認めることは禁止されている」
「ふむ・・・・では、今日も子作りに励むか」
笑う刹那に抱き上げられるティエリアは、真っ赤になって刹那の頭を殴った。
平和で、幸せであった。

 



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