「それでも・・・・まだ、お前を愛しているんだ。お前だけを」 「僕は、その愛にこたえることはできません」 ぎゅっと抱きしめられたまま、ティエリアは涙を流した。 「あなたが!あの時、僕を連れて行ってくれれば、僕はあなたと一緒にいれた!なのに、あなたは王の怒りを恐れて僕を捨てた!!!」 ドンドンと、ロックオンの胸を叩く。 「そうだ・・・・俺は、先代の王の怒りを恐れて、お前を捨てた。なのにまだ愛している。なんて自分勝手なんだろうな」 「僕も、まだ愛しています、ロックオン」 そっと、ティエリアをあいていたベッドに横たえるが、ティエリアは首を振った。 「忘れないで。僕は刹那の正妃。刹那を愛している。裏切ることはできない」 「お前を・・・連れて、逃げればよかった」 「そう。一緒に、逃げてくれればよかった。だったら、あなたと別れることも、こんな辛い思いをすることもなかったのに」 ティエリアの涙を手で拭いとると、ロックオンはティエリアの額に口付けた。 それから、唇に深く唇を重ねて、ロックオンはティエリアの上からどいた。 「さようなら、僕のもう一人の愛しい人」 「さようなら、俺の最愛の人」 ロックオンは、ティエリアの右足に巻かれていた天使の鎖を手に取ると、口付ける。 「愛していた。今も愛している」 「僕も、今も愛している」 二人は今一度深く唇を重ねると、別れを告げる。 ロックオンは、そのまま西の国を去った。 愛の交差線。 愛し合っていても、結ばれなかった二人。 傷ついたティエリアの心の穴を埋めたのは刹那。そうして二人は惹かれあって、恋人になった。 愛の交差線は、誰にも分からない。 ロックオンは、もしかしたらティエリアが自分を許してくれるのではないかと心のどこかで期待していた。 もう危篤状態にある刹那を看取ったら、自分の下にきてくれるのではないか、そんな淡い幻想を抱いていた。 考えてもみろ。 正妃を先に娶ったのはロックオンだ。ティエリアを忘れるように女遊びにふけったのもロックオン。今では第12妃までいるし、側室も5人いる。子供の数はロックオンの血をちゃんと引いた子供が10人以上。 もう、戻れるわけがないのだ。 北の王は北の王。西の王は西の王。東の王が死んだとしても、決してロックオンの元にくることはないだろう。 多分、東の王が死ねば、ティエリアはそれに殉じるだろう。 もう、誰にも止められない絡み合った鎖。 それは、まるで見えないという天使の鎖のようで。 ティエリアの右足には、今も見えないというエーテルの神の子の証である金銀細工の鎖が巻かれてある。 天使の鎖と名づけたのは、今は亡き「ルシフェル」であった。 「ミカエル」「ラファエル」「ウリエル」「ジブリール」の他に、ただ一人天使の鎖をもっていた、かのルシフェルは右足に所有していた。他の四大天使は、左足に。右足にあるのは、神に最も愛されている証だと伝承にはあった。右足の金銀細工の鎖をルシフェルは所有していた。そして、ティエリアも。 神に愛された証の、天使の鎖。 それは、今ルシフェルと呼ばれるティエリアの右足にしっかりと巻かれている。 NEXT |