天使の鎖「ルシフェルはかくも儚く」







刹那が危篤状態から脱したのは、それからすぐのことだった。
天界全土で猛威を振るう病は、その全貌を露にした。

「ティエリア、おいで」
刹那の手を握り締めて、ティエリアは刹那に口付ける。
「やっぱり、やっぱり・・・・・感染したんだ。僕の黒色ガンに」
天界全土では、今黒色ガンが猛威を振るっていた。
それは、黒い翼の民ではなく白い翼の民に感染し、翼を黒くした。
刹那の翼のつけねが黒くなっているのを見て、ティエリアは、涙を零した。そのまま泣き止まない。
「違う・・・・・お前の黒色ガンは、進行が止まっているし、感染はしないと治癒術士は言っていた。この黒色ガンは・・・ウィルス性だ」
「刹那、いやだ。僕を置いて死ぬのか!」
刹那の家臣たちは躍起になってその治し方を探している。それは刹那の耳にも届いていた。
「死んだりしない!今、天界全土でこの黒色ガンを治す方法を探している!!」
聞けば、天王ライルもこの黒色ガンにかかって臥せっているという。

月日は無常に過ぎていく。
刹那の翼は、ついに真っ黒に、ティエリアの翼のようになってしまった。

そして、ついに特効薬が発明された。
それは、黒色ガンの進行を防いでいるティエリアの血液であった。
「そんな、ことが許されると思っているのか!!ティエリアを、モルモットのようにするなど、俺が許さない!!」
刹那は王としてティエリアを庇った。
ロックオンもアレルヤも庇ったが、天王ライルの命令であった。
「ライル!なんで!!」
「兄上・・・・許せ。・・・・・・・・俺はどうなってもいい。だが、天界の民はこのままでは黒色ガンで死に絶えてしまう。それを防ぐのは、天界の民を守るのが俺の指名だ」

天王ライルの命令により、ティエリアは隔離施設に連れ去られた。モルモットのように扱われ、そして全身の血液を抜かれて。

特効薬はついに完成した。
天界全土で黒色ガンに苦しんでいた者は救われた。
すでに、天界の人口の5分の1は黒色ガンにより死んでいた。

ルシフェルが、黒色ガンから白い翼の民を救うために犠牲になったとして、天界各地で黒い翼の民による暴動が起きた。
それを、王たちが鎮圧する。
武力で。
黒い翼になってしまった黒色ガンにかかった者は、特効薬で翼が白に戻り、王たちの鎮圧に手を貸した。

ティエリアの願いは。この世界から黒い翼の民が奴隷であることをなくすこと。
それは叶った。
いずれ、黒色ガンもなくしたいと願っていた。
それも叶った。
黒い翼の民の黒色ガンも、特効薬により完治した。

哀れなメシア、我らの救世主。
その身を犠牲に、天界全土を救った西の王、その名はティエリア。

やがて、黒色ガンが天界から消えかけた頃、その隔離施設は潰された。
西の王、ティエリアは死んだとされていた。
だが、実際には生きていた。
それを知ったロックオンが、ティエリアを密かに助け出したのだ。そして、絶望した。
美しかった西の姫王は見る影もないほどに衰弱して、精神が完全に破壊されていた。
刹那にこの姿を見せたくはなかった。

「ティエリア」
「うう・・・・がううう」
悪魔のように牙をたてるティエリアに、もう天使の鎖はなかった。
ロックオンは、南の国でひっそりと二人で生活をはじめた。ロックオンは、王位を王太子に譲り、小さな館でティエリアと生活を続ける。
「愛しているよ」
「がうう・・・うう・・・」
腕にかみつくティエリアを抱きしめて、唇にキスをする。
少しだけ、ティエリアは大人しくなった。
「俺の名前はロックオン。いってごらん?」
「がうう・・・ロック・・・オン」
「そうだ。よくいえたね」
腕の中のティエリアは、いつも泣いていた。
儚い俺だけのルシフェル。最初から、こうしていればよかった。王位継承権も国も捨てて、ティエリアと二人だけで暮らせばよかったのだ。
 



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