ティエリアの壊れた精神が元に戻ったのは、半年後のことだった。 ロックオンは、憔悴していた東の王刹那を呼び寄せる。 「お前は!ティエリアが生きているなら、何故俺に最初に知らせなかった!!」 何度もロックオンを殴りつける刹那を、ティエリアが止めた。 「止めてくれ、刹那。僕は精神が破壊され、狂っていたんだ。僕は何度もエーテルイーターでロックオンのエーテルを生命力を吸い取って・・・・。刹那、ロックオンは、自分から犠牲になって、僕を正気に戻してくれたんだ」 「本当なのか、ロックオン!何故言わない!」 「はは・・・・俺は、汚れ役がお似合いだからさぁ。良かったな、刹那。愛しい正妃が帰ってきて」 ティエリアを抱きしめたあと、刹那は涙を流してロックオンを抱きしめた。 「あんたはバカだ!ティエリアを愛していながら俺から奪うこともできたのに、こうやって知らせて!あんたはボロボロじゃないか・・・・」 「いいんだよ。もう、この世界に未練はないしな。お前もぼろぼろだ。黒色ガンで命を削られたな。お互い、生命力つきかけてるな」 ティエリアは涙を零す。 「刹那もロックオンも、僕をこの世界に置いていくというのか。そんなのいやだ!エーテルイーター始動!」 「おい、やめろティエリア!」 「ティエリア、やめろ!!」 12枚の剣となる黒い翼は、生命力が欠片しかないロックオンと刹那を優しく包み込む。 二人に全てのエーテル力と生命力を分け与えたティエリアは、美しく微笑んでいた。 そして、黒い翼は金色に変わっていった。 ジャラリ・・・。 失ったはずの、金銀細工の天使の鎖が、ティエリアの右足に復活した。 (ルシフェル、ルシフェル) 「はい」 天から、声が届いてきた。 (ルシフェル、きなさい。神の子、私の愛しい子よ。さぁ、還るのです。私の元へ) 「僕は・・・・刹那の正妃であれて幸せだったよ。ロックオンを愛せて幸せだったよ。ロックオン、僕を正気に戻してくれてありがとう。僕のことを刹那の正妃として、一度も体の関係を結ぶことはしなかったね。北の王だよ、あなたは。愛を、奪えながらもあなたが刹那から僕を奪わなかった。愛しているよ、刹那、ロックオン。二人も愛しているだなんて、僕も傲慢だね。でも、愛してるんだ・・・・・天使の鎖がある、本当の意味、知ってる?」 「だめだ、いくな、神の元にいくな、ティエリア!!」 「ティエリア!!刹那とやり直すんだろう!俺のエーテルと生命力を奪え!そして二人で幸せに生きろ!!」 「僕はね・・・・ロックオン。刹那も君もいない世界なんて、生きていたくないんだ。二人とも愛してるから。ごめんね、刹那。君の正妃なのに、僕は北の王のロックオンも愛していた」 「そのままでいいから!!ティエリア、俺の傍にいろ!ずっといると約束しただろう!!」 刹那が涙を流す。 ティエリアを抱きしめようとしても、その体は透けて抱きしめることができない。 (ルシフェル、おかえりなさい。さぁ、帰っておいで) 神の声。 それは、王たちだけが聞くことのできるもの。 紛れもない神の声だ、これは。 「今、戻ります、母上。そう・・・僕は、ルシフェル。天の河に流されたルシフェルの魂をもつ者。天使の鎖は、神の子である証と同時に、神の御許にいける証。金の翼は、神の場所まで羽ばたける翼。12枚の金の翼をもつ明星の天使、それがルシフェルでありティエリアであり僕である」 「いくなーーー!!」 「いくな!!」 刹那もロックオンも、二人でエーテル存在となったティエリアを必死で抱きしめようとする。 二人は涙をボロボロ流して、ティエリアを世界に繋ぎとめようとする。 「幸せでした。ルシフェルは、この世界に生まれて、あなたたちに愛されて幸せでした。この世界を救えてよかった。もう、黒い翼の民は奴隷ではなくなった。理想の世界だ。黒色ガンに蝕まれることもなくなった。原因のウィルスをばら撒いた悪魔たちは、神が断罪した。さぁ、僕は羽ばたく。新しい世界に向かって」 「ティエリア!!」 「ティエリア!俺の正妃!!俺を置いていくな!!」 「また、この世界で、天界で会いましょう。天使の鎖をもつ、僕を見つけて。僕をまた愛して。愛しているよ、刹那、ロックオン」 ティエリアは、金色の光となって神に召された。 二人は呆然と、残された天使の金銀細工の鎖を見つめていた。 NEXT |