血と聖水外伝「ティエリアとロックオンの出会い」1







はぁはぁはぁはぁ。
息が切れる。
肺が酸素を求めて苦しげに喘ぐ。走っても走っても、血の海は追いかけてくる。

ここで、死ぬのかな。
まだ、たくさんやりたいことあったのにな。
こんなところで死ぬのかな。

ティエリアは、走り続けた。
もう、何時間逃げているだろうか。相手は、逃げるティエリアの怯えを明らかに楽しんでいる。

生まれてきたとき、見たものは禁じられた霊子学を究めた科学者たち。
2つの新しい命が、施設の奥で誕生した。
もう一つのカプセルには、すでにあった命を上書きして誕生した同胞がいた。
「ティエリア・アーデ。人工ヴァンパイアイノベイターの誕生。君は、人類の希望だ」
隣では、双子の同じ細胞を使われたリジェネがカプセルの中から羊水を掻き分けて出てきた。
「リジェネ・レジェッタ。それに、鷹の・・・上書きをした刹那・F・セイエイ。汝ら、霊子学の子供たち」
ティエリアは、その手をずっと見ていた。

「忠誠を、誓え」
その手は、冷たかった。

「イエス・マイ・ロード」
「イエス・マイ・ロード」
「イエス・マイ・ロード」
ティエリアは、気づけば他の二人と同じ言葉を口にしていた。
「裏切りは許さない。お前たちは人類の希望。ヴァンパイアを殲滅するために生れてきた、人工ヴァンパイアイノベイター」
女王は、そう言って冷たい手で三人の額に契約の紋章を描く。
人間世界の中で一番偉いその女王は、三人と契約した。
「他のイノベイターのように失敗することがないように。教育を徹底しなさい」
「は」
「は、女王陛下」

「・・・・・・・ママ?」
ティエリアは、女王のドレスの裾を掴んで、首を傾げた。
「・・・・・・・・お前たちに母も父もいない。あるのはヴァンパイアハンターと生きる未来のみ。教育に失敗すれば、処理する」
「ママ?」
ティエリアは泣いていた。
この世界で、確かにこの女王はティエリアの母であるのだ。
そう、ティエリアを生み出した、女王。
細胞も女王のものを用いている。

女王は、冷たく笑った。
「笑止。人工の命など、私の子ではない。お前たちは私の犬だ。そう、奴隷。世界に生まれたことに感謝しなさい。処分されたくなければ、教育をちゃんと受け、立派なヴァンパイアハンターになるのだ」
「イエス・マイロード」
ティエリアは、女王の前で膝をついた後、泣きながら笑った。

女王が崩御したのは、それから間もなくのことだった。
教育カリキュラムを受けるティエリアとリジェネと刹那は、順調にヴァンパイアハンターとして育っていった。
周囲にいるのは霊子学に手を出した科学者だけ。
三人に自由はなかった。
「ティエリア・アーデは能力値が低いな。どうする?処理するか?」
「しかし、女王は崩御された。もう、新しいイノベイターを作るにも、女王の霊子がないと・・・・」
「ふむ。できそこないを教育しても仕方ないだろう。処分しよう」
ティエリアは、処理場に連れていかれ、分解にかけられた。
「ママと、会える?」
「会えるよ、ティエリア。女王の元にいくといい」
処理用のカプセルでは、今まで何人ものできそこないのイノベイターたちが分解されてきた。その中にいれられて、ティエリアは首を傾げていた。

「待て!!」
研究員の一人が、分解ボタンを押そうとした仲間を止める。
「だめだ、処理するな。リジェネ・レジェッタがティエリア・アーデを殺すなら自分も死ぬと暴れて、研究員を二人殺した。このままでは、刹那も精神連鎖して精神崩壊をおこすぞ」
「厄介なことになったな。もう女王の霊子はない。リジェネ・レジェッタと刹那・F・セイエイは完全なイノベイターだ。仕方ない、ティエリア・アーデの処分は中止だ」
分解用の処理カプセルから出されたティエリアは、金色に目を輝かせて、暴れて拘束されていたリジェネに近寄るよ、拘束を解いて抱きしめる。
「ママ、もういないの。リジェネ、君は僕が守るから」
「精神連鎖が深いな。ツインにしないほうがよかったな、これは」
リジェネは泣きじゃくって、ティエリアに縋りつく。
「ティエリア、ティエリア、ティエリア」
背後では、刹那が二人を守るように控えている。

「我らの主は死んだ。主との契約はそれでも続く。主はティエリアの処分を命じたわけではない。勝手に処理するのは契約に反する。ティエリアを処理するでのあれば、俺もリジェネも一緒に処分しろ」
金色に光るイノベイターの目で、怯える双子を刹那は匿う。
「女王の霊子はもうこの世界にはない。女王は崩御した・・・・霊子学に手を出した科学者たち。お前たちは主ではない」
バサリと刹那の背に広がる六枚の金色の翼に、科学者たちは声をのむ。
「鷹を上書きしたのは成功だ!もう覚醒した!」
「見ろ、リジェネも覚醒しているぞ」
イノベイターが金色の六枚の翼をもったときは、それは覚醒と呼ばれる。
存在として、成功したのだ。
「だが・・・ティエリアに覚醒は無理だな。仕方ない、このままプログラムを続行しよう。覚醒者二人をなくすのは惜しい。ゴミも、教育すればそれなりに使えるようになるだろう」
科学者たちは、ティエリアをゴミと読んで蔑んだ。



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