案内されたロックオンのホームは、こじんまりとしていた。森の中の開けた場所に建てられた一軒家。 何やら怪しげな薬品などがたくさんおかれている。 「ここは?魔女の館?」 「へー。分かるの?」 ロックオンは、嬉しそうにしていた。 「俺の恋人がさ、魔女だったんだ。95歳のおばあさんだったけどなぁ」 「ええ!ロードって普通、若くて美しい男女しか恋人にしないんじゃ」 びっくりするティエリアに、ロックオンは手をぶらぶらして照れる。 「あー、マイハニーかわいかったよ?しわくちゃだったけどー。おれはハニーの孫として一緒に住んでたんだ」 「へぇ・・・」 世の中には変わったヴァンパイアもいるものだなぁとティエリアは思った。 「ピザでいい?何も食べてないんだろう?」 ぐーきゅるるるうと、またティエリアのおなかがなった。 ティエリアは赤面しつつ、運んでこられた食事を全て食べてしまった。 「いーねー元気あって。名前は?」 「ティエリア・アーデ」 「俺は、ロックオン・ストラトス。泊まるとこもないんだろ?泊まってけよ。最近なんかさぁ、寂しいんだよなぁ。ハニー死んでから。恋人とはみんな手を切ったし。しゃべりにきてくれる精霊も少ないしなぁ」 「すみません・・・・ご飯から宿まで」 ティエリアは、素直にロックオンの言葉に甘えた。 今まで、何度かティエリアも変わったロードと会ったことがある。ここまで人間臭いロードヴァンパイアはいなかったが、みんな人間と共存を決めたロードヴァンパイアで、人間を血族に迎えていた。 荷物を整理していると、ロックオンが興味深そうにそれを見ていた。 「ああ、これ聖水。俺の大嫌いなやつ。そっちは俺の大嫌いな銀の銃に銀の短剣。あんた、ほんとにヴァンパイアハンターなんだなぁ」 「何に見えてたんですか?」 「むっさい男のヴァンパイアに襲われてた貴族の美しいご令嬢」 その言葉に、ティエリアは吹き出した。 「貴族とか。そんなのないよ。僕は」 ティエリアは綺麗に微笑んでいた。 この笑顔、どこかで見たことがある気がする。 そう、遠い昔、遙かなる悠久の時の向こう側で。 どうして、こんなに懐かしいのだろうか。 ティエリアは、そのままロックオンのホームに泊めてもらうことになった。 お風呂に入り、衣服をかりる。 とてもぶかぶかな衣服は、お日様の匂いがした。 「どうしてだろう・・・・胸が苦しい」 ティエリアは、ベッドの中で自分の体を抱きしめた。 デジャヴ。 ロックオンと、以前どこかで出会っていた気がする。 そう、遠い昔。遙かなる悠久の時の彼方で、約束を交わした気がする。 もう一度出会い、そして愛し合うという約束を。 「変なの」 ティエリアは、もぞもぞと寝返りをうつ。 客室の寝室の扉を見つめたまま、ロックオンは動けないでいた。 「ばあさん・・・・」 95歳の人間であり、そしてロックオンの恋人であった魔女が立っていた。 「ほれ、わしが予言したとおりじゃろ。お前は、全てをかけて、命をかけて愛する存在に出会う。そう、わしが昔予言したように、ロックオン、お前は永遠の愛の血族に迎える子と出会った」 魔女の姿は、すぐに消えてしまった。 ロックオンは、涙をこぼしていた。 「愛している。ジブリエル、ティエリエル、ティエリア。この世界にもう一度生れてきてくれてありがとう。俺は、お前と出会うためだけに千年間、ずっと生き続けてきたんだ。そう、俺はネイ。ティエリア・・・・我が最愛の者よ」 ロックオンの背中に、六枚の白い翼が現れた。 いつもは2枚。 ネイとして覚醒はまだしていない。 覚醒の序章が、ここからはじまる。 遙かなる時を経て、出会ったティエリアとロックオン。 かつて、ブラッド帝国で千年以上も前に死別したネイとジブリエル。ネイの妻であったジブリエル。ネイと一緒に過ごしたことで命が蝕まれ、そのまま崩御した。 ロックオンは、かつてネイとして神の血の力全てと引き換えに、この世界にもう一度愛したジブリエル、ティエリアの転生と魂の継承を命の精霊神ライフエルに頼んだ。 それは、実現された。 愛をもう一度、この世界で。 もう一度、この世界で出会い、そして愛し合い、共に過ごすのだと約束した。 それは、遠い日の記憶。 「あれ?おれ、何してたんだ」 ロックオンは、自分が泣いているのに気づいて、戸惑っていた。 魔女の幻影を見たことまでは覚えている。 自分が何を言っていたのかまでは覚えていなかった。 ネイとしての覚醒は、まだ序章。 NEXT |