血と聖水外伝「ティエリアとロックオンの出会い」7







ティエリアは、一人で薬品と薬品を混ぜていた。
ドカーン!!
研究室で爆発が起きる。
「おい、大丈夫か!!」
ロックオンが血相をかえて扉を開く。
中では、ティエリアが薬品まみれになって焦げていた。焦げていたといっても、外傷はない。
煤で真っ黒になったくらいだ。

「あーあ。イエルドルの葉、これで最後だったのに」
ロックオンが、爆発した薬品の元をみて、貴重な薬草の名を呟く。
「ごめんなさい」
グスっと涙を零すティエリアの頭を撫でて、ロックオンはティエリアを抱きかかえた。
「いいって。お前が無事でよかった」
ティエリアは、ロックオンの首に手を回す。

「好きだ」
「はい・・・・・」
もう、協会からの帰還要請も無視して、2ヶ月もロックオンのホームに滞在していた。
ヴァンパイアハンターにあるまじき行動である。
それでも、ロックオンの傍にいたかった。
ずっと、このままここで一緒に暮らしたかった。

「風呂入ろうか。一緒に」
「うん」
二人は、シャワーを浴びた。
そのまま、バスローブだけを纏った二人は、寝室に上がると、お互いの心臓の位置に手を当てた。
「お前が好きだ」
「あなたが好きです」
「会えたことに、この世界に感謝を」
「あなたと出会えたことに、血と聖水の名においてアーメン・・・・感謝を」
ティエリアの荷物から、銀の十字架を取り出して、ロックオンはネックレスになっているそれを首からぶら下げる。火傷はしない。
ティエリアも十字架のネックレスをぶら下げている。これでお揃いだ。

ヴァンパイアハンターに受け入れられたヴァンパイアは、銀がききにくくなるし、十字架も平気になる。
もともと十字架はヴァンパイアにとっては少し苦手、というレベルであって武器にはならない。だが、銀は、銀の弾丸や短剣は、ヴァンパイアハンターの全てが好んで愛用する。
銀だけは、ヴァンパイアを殺す武器となる。
この世界で、一瞬の朝日だけが普通のヴァンパイアを灰にするように、銀は全てのヴァンパイアにとっては毒だ。
ブラッド帝国での朝日は独特の紫外線を取り除いており、帝国内の領土にいるエターナルたちは朝日を浴びても灰にならない。
もっとも、ロードやヴァンパイアマスターになったヴァンパイアには、朝日もきかなくなるが。

ヴァンパイアとは、モンスターではない。もともと、エターナルヴァンパイア、夜の血族と呼ばれる一つの種族であった。それが、ヴァンパイアと呼ばれる全ての始まりである。
一つの種である彼らに、日光の下で活動すれば灰になるとはいうのは迷信だったし、にんにくがきくというのも、心臓を杭でさせば復活しないというのも全て迷信だ。
十字架を見せれば灰になるというのも。
ロードクラスのヴァンパイアは心臓を杭でさされたくらいでは死なない。心臓を完全に破壊するか、胴と首を切りはなすでもしない限り、不死である。
だが、ヴァンパイアは不老不死ではない。死はいずれやってくる。不老ではあるが、寿命が存在する。
寿命が尽きれば、エターナルであれどロードであれどマスターであれど・・・全てのヴァンパイアは死に、世界の源に還るのだ。

そして、また世界に命をうける。

廻る輪廻の輪。
ヴァンパイアたちも、その中で生きている。

二人は、バルコニーに出た。
ヴァンパイアを灰にする一瞬の朝焼けの時刻。ロックオンは浴びても灰にはならないが、皮膚が赤くなるため決して浴びることはしなかった。
ロードやマスターは浴びても灰にはならないが、ケロイドになる者もいる。
それは力の差と生きている年月を意味する。火傷が軽いものほど、生きている年月が長い。

一瞬の、その朝日がやってくる。
ロックオンは、ティエリアの首筋に伸びた牙をたてて、吸血した。
「ああああ!!!」
SEXよりも凄まじい恍惚感が全身を支配する。
こうして、1000人目の処女は、ティエリアとなった。
だが、分かっていた。処女といっても女ではない。999人の乙女の血をすってきたロックオンの今までの行為はこれで、全て無駄になった。
だが、これでいいのだ。
千年間、狂ったように血を吸ってきたロックオンの生き方が完全に変わる瞬間が、朝日と一緒に訪れた。

「我、ロックオン・ストラトス、ここにティエリア・アーデと契約す。永遠に傍にあらんことを」
「我、ティエリア・アーデ、ここにロックオン・ストラトスと契約す。死さえも乗り越える愛を、共に刻むことを」
互いの額に、契約の証である光の紋章が浮かんで、消えていった。

朝日がのぼる。二人は、部屋の中にもどっていった。
契約の証を、刻みあうために。



NEXT