血と聖水外伝「ティエリアとロックオンの出会い」10







ロックオンは、まどろみながら、ティエリアの深層意識の下にもぐりこんでいた。
ティエリアは、羊水の中を漂う胎児のように丸くなっていたかと思うと、ロックオンの目の前から掻き消えた。
「ティエリア?何処だ?」
ロックオンは、ティエリアの記憶の中をさまよい歩く。

モノクロの世界。
そこは、ティエリアが生まれた禁じられた霊子学研究施設だった。
「おい、もっと足開けよ」
「いやああああ」
泣き叫んでいる幼子は、ティエリア。
ティエリアを犯しているのは、研究員。
「ほら、もっと奥にくわえこめよ」
「はははは。また泣いちまったぜ」
「ううう、うああああ、助けて、助けて!!」
男が、抵抗するティエリアを床に押さえつけてそのまま後ろを引き裂く。
前は違う男に犯されている。
複数の男に犯されて、ティエリアは壊れた。
「あーあ。またやっちまった。女王になんて報告するんだぁ?これで三体目だぞ」
「たまってるんだよ、こっちはこんな施設に監禁されてるんだ。女もいねーんだぞ、ここは。こんなできそこないのセクサロイドの一体や二体・・・・」
ティエリアは、壊れたまま、金色の瞳で涙をこぼしてロックオンを見ていた。
「ららら〜〜〜いつか、僕を守ってくれる、人が・・・・守って・・・・僕を・・・世界から」
「守ってやってるじゃねーか。犯してるけど」
げらげらと研究者たちは笑う。
がくがくと、研究員の男に犯されながら、そのティエリアは粉々になった。
文字通り、世界から消えたのだ。
幼い姿で霊子エナジー体に近かったそのティエリアは、霊子になって世界に溶けてしまった。
「あーあ。やっぱ、中性は弱いな。ある程度年齢ある姿で作らないと、霊子にもどっちまう。壊れるようにできてるから仕方ねーけど。また霊子に戻っちまった。また体つくらねーと。めんどくせー」

ロックオンは、そこにいた研究員全てを殺した。
いや、殺したつもりであったが、これは閉ざされたティエリアの記憶。
その研究者たちは、殺された。
誰にでもない、女王ティエルマリアの魔力によって引き裂かれ、五臓六腑を撒き散らして。
「お前たちが隠れてやっていること、この女王が知らぬとでも思うたか!!ああ、ティエル・ティエリア・・・ティエリア・・・・」
女王は泣いていた。
「今度こそ、完全なお前を作る。この母女王ティエルマリアが。この女王がお前を守るよ。ティエリア、お願いだからもう一度だけ生まれてきておくれ」

「ティエリア!!どこだ、ティエリア!!」
ロックオンは叫ぶ。
研究施設も女王の姿も消えた。
次にロックオンが見たものは、金色の瞳をしたティエリアが、空を見ている姿。
モノクロではなくカラーに戻っていた。
今と変わらない、先ほどの幼子ではなく17歳くらいのティエリアだった。
「ママ。ママは、どうして僕のことティエル・ティエリアってよぶの?僕はティエリア・アーデだよ。そう、ティエリア・アーデって名乗りなさいって、ネイがいってたんだ。ネイと約束したんだ。僕はティエリアって名のるって。
ティエル・ティエリアは僕じゃないよ?」
「ティエリア・・・・では、ティエリア・アーデと名を変えましょう」
「ありがとう、ママ。ねぇ、なんで僕と会っているのは内緒にしなきゃいけないの?」
「お前を守るためです。下種な研究員たちから、純粋無垢なお前を守るため・・・いくら17歳の姿で生まれることに成功したとはいえ、お前は中性。男に汚されれば、精神が崩壊しかねない。管理を徹底しています。お前を汚すものなどいないように。そのそぶりをみせた研究員たちはみな拷問にかけ極刑にしました」
「ママ。僕、どうして生まれてきたの?どうして中性なの?」
ティエリアは、女王の腕の中で泣いていた。
「許して、ティエル・ティエリア。どうしても・・・・お前を・・・愛しい我が子をもう一度抱きたかった」
ティエル・ティエリアとは女王ティエルマリアの王太子で幼くして死んだ女王の愛児。
「ママ・・・ねぇ、ネイはいつか僕を迎えにきてくれるかな?僕を愛してくれるかな?」
「ええ、きますとも。お前は、ネイの妻ジブリエルの魂が転生した命だと予言に出ています。いつか、ネイに会えるでしょう。ネイは、あなたを深く愛してくれるはず」
「僕、ママも愛してるよ!ママ、ママ!!」
ティエリアの記憶は、その17歳のティエリアの中に今まで壊れていったティエリアたちの記憶も含まれていた。完全に封印されているけれど、記憶があるから17歳なのにこんなにティエリアは幼いのだ。


「ティエルマリア、ティエルマリア・・・・・どこ、ママ、どこ?」
ティエリアが、熊の縫いぐるみをひきづりながら歩き回っていた。
カプセルの中には、たくさんの幼い姿のティエリア。
「今回も失敗だな。処分しよう」
研究員たちが、幼いティエリアたちを分解処分する。
研究員は、その17歳のティエリアも失敗作としていた。一応は、17歳の姿で生まれることができた唯一の成功例ではあるが、精神が幼すぎて失敗作も同然だった。
女王は、そのティエリアに我が子をうつしながら、更なる完全なるティエル・ティエリアの作成を研究員たちに要請したが、結局成功したのはその17歳のティエリア・アーデただ一人。

「ティエルマリア。僕も処分されるのかな?」
女王の腕の中で、ティエリアは首を傾げていた。
「処分はさせません。愛しい我が子よ。リジェネと刹那に、あなたを守るように霊子レベルの命令をしています。何かあれば、二人が守ってくれるでしょう。私は立場上、あなたを庇護することはできない。私は女王。今までたくさんのできそこないのイノベイターたちを処分させてきた。あなたも、研究員から見れば出来損ない。一人だけ、ティエル・ティエリアの霊子を受け継ぐ我が子だからといって、特別扱いはできません。あなたに冷たく当たる母を許しておくれ」
「平気だよ!!ママは、僕のママだもの!!」

白い花の嵐がふいた。場面は一転する。
そこは、一面の花畑だった。
その中心に、防腐処理を施され美しい女王ティエルマリアが永眠していた。

「ティエリア。帰ろう」
ロックオンがティエリアに手を差し出すと、ティエリアは首を振った。
「僕はティエルマリアと一緒にいるんだ。ママとずっとここに一緒にいる。だって、世界には僕を守ってくれる人はいないんだもの。ママしか、僕を愛してくれない」

死んでいたはずのティエルマリアがティエリアを抱き上げる。
「ティエリア。あなたは自由です。あなたは愛されている、守られている。あなたの意思で、この世界をネイと、彼と一緒に生きていきなさい」
かすんでいくティエルマリアに、ティエリアは泣き叫ぶ。
「いやだよ、ママ、ママ!!僕を置いていかないで!僕、処分されちゃうよ!ゴミだから!ママ、ママーー!!」
ロックオンは、泣きじゃくるティエリアを抱きしめて、キスをする。
「あなたは誰」
「お前を愛し、守る者」
「僕を愛する?ティエルマリアのように?」
「そう。ティエルマリアよりも深く深く愛して、離さない」
ロックオンの茶色のくせ毛を掴みながら、ティエリアは泣いた。
「ロックオン・・・・ロックオン、ロックオン!!僕を愛して!!僕だけを愛して!!ティエルマリアのように、死なないで!!」
ロックオンは、ティエリアの深層意識の中から自分の肉体に戻った。
目をあけると、ティエリアが泣きながらロックオンに抱きついていた。

 



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