金色の眠り「ツイン」







ヴェーダの中で眠るティエリア。
ふと目を覚ます。

隣で眠っていたツインがいなくて、ティエリアは真っ白な翼を広げて金色の海に向かった。
「リジェネ、リジェネ?」
いつも傍にいる、同じイノベイターであり、イノベイドであるリジェネ。
ティエリアのツイン。
シンメトリーを描く二人は同じ容姿をしている。塩基配列パターンが同じなのだ。

遺伝子レベルまで同じ二人は、肉体をなくして意識体となってヴェーダと一体化して、そしてきたるべき世界の時に向けて眠りについた。
眠りといっても、懇々と眠り続けるのはでなく、時折目覚めては意識体でトレミーの仲間と連絡をとったりもするし、ふと地球に降りて人々の生活を見るときもある。
地球に降りる時は、透けている体を完全に透明にして、人々から見えないようにしていた。

「リジェネ?」

ザァン、ザァン。
おしてはひいて返す波は、どこまでも悠久に。

リジェネは、海岸の浜辺で座っていた。
かつて月で暮らしていた天使が纏うような衣装そのままに、ただ静かに金色の海を見つめている。

「どうしたの、リジェネ?」
「いないんだ」
「誰が?」
「みんな」
「僕はここにいるよ?」
髪と同じ紫色の制服姿で、ティエリアが首を傾げた。
「うん。ティエリアはいる。でも、みんないないんだ」
リジェネは膝を抱えて、沈黙した。
「イノベイターの、魂たち?」
「・・・・・・・・」
ザァンザァン。
金色の海は、どこまでも穏かに透明に煌いている。

母なる海。
世界の命の源。
そこに漂う二人は、いつも一緒だった。
世界を導くために、イノベイターとして、いやイノベイドとして生まれた二人。
そう作ったのは、イオリア。

リジェネは、泣いていた。
「泣かないで」
ティエリアが、リジェネを抱きしめる。
「ヒリング、リヴァイヴ・・・・・・リボンズ」
最後の戦いで命を失った彼らの魂は、どこにあるのだろうか。
「いなくなっちゃった。僕をおいて」
仲は悪かったけれど、同じイノベイターであった。

「いつか、出会えるかなぁ?」
「出会えるよ。この世界で。いつか、きっと」
ティエリアも、リジェネの横に座って膝を抱える。
「人工の命でも・・・きっと、輪廻の輪にいると思う。神に召されたんだ」
ティエリアは神など信じていない。
でも、いつかこの世界でニールとまた生きて愛し合うのだと信じている。そう約束したのだ。
「・・・・・・・・・僕らは、どうなるのかな」
「このまま、時を刻み続けて・・・いつか、スペアの肉体に戻るのかもね」
リジェネは、寂しそうに微笑んだ。

「来た。ティエリアの愛しい人」
エメラルドの世界から、やってくる彼。
ティエリアの愛しい人、ニール。ヴェーダの中に残されていた記憶のニール。
「ティエリア。僕を一人にしないで。愛してる」
リジェネは、ティエリアにキスをして、ニールを見上げた。
ニールはいつもティエリアの傍にいた。
リジェネもティエリアの傍にいる。もう、そこしかリジェネの居場所はないのだ。

ティエリアを愛している。ツイン。リジェネは悪魔、ティエリアは天使。イオリアはそう作り上げた。ティエリアのうなじにはNO8の紋章が、リジェネのうなじにはNO0、ゼロの紋章がある。
ゼロ。どの肉体もゼロ。ティエリアの場合、肉体によって刻まれているNOは違う。
だけど、リジェネはいつもゼロだった。
何も生み出さない存在、それがゼロ。
皮肉だった。イオリアの後継者に選ばれたのはリジェネだった。神のように、イオリアの後継者としてイノベイターたちを作り上げ、きたるべき時にまた目覚めて世界を生きた。
リボンズたちイノベイターの中に混ざりこんで、イオリアの計画の遂行を見守っていた。
ティエリアは、計画の中ではガンダムマイスターとなるだけで、イノベイドとして世界の未来を担う役割は、リジェネの知っている中ではなかった。
イオリアが上書きした、天使のティエリア。

計画は、結局は人類の統合を促して一旦終了した。
刹那・F・セイエイの存在が全てを変えた。
リボンズの下で人類は統合されて、そして一つになるはずだった。ティエリアは計画に反旗を翻すように自由に、人間として生きた。イノベイターとして生きる道を用意されていたのに、それを歩むことはティエリアはしなかった。刹那と一緒に歩みながら、人間として世界をイノベイターの手から開放したティエリア。
誰よりも愛しい、僕のツイン。
僕とは正反対の存在。
人間のティエリア。愛されるティエリア。天使のティエリア。

 



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