ライルとアレルヤは、刹那とティエリアの関係に口出しをしない。 二人は、互いを必要としあっている限り、その邪魔をすることはしない。 二人の関係は、マリナという女性の関係で罅が入るかと思われたが、変わることはなかった。 刹那は、何かあるごとにマリナの世話を焼く。 マリナの傍にいて、彼女を守るように存在した。 マリナも、刹那のことを愛しているようで、二人は相思相愛なのだろう。 戦闘訓練か会議以外は、刹那はマリナの傍にいた。 それを、ライルとアレルヤは不思議な気持ちで見ていた。 ティエリアは、一切文句を言わないが、どこか哀しそうな眼をしていた。 ティエリアが、一人でバーチャル装置に入り、仮想世界に降りる。 バーチャルエンジェルは、死を告げる告死天使、アズラエルだ。 破壊の光でアロウズの赤い機体を破壊しつくし、トレミーを守る。 そして、機体が大破したことを想定に、肉弾戦に挑む。 口にサバイバルナイフを咥え、的確な銃の腕で次々と敵の兵士の息の根をとめていく。 建物の影を利用し、サバイバルナイフで首の動脈をかき切り、全身で返り血の鮮血を浴びながら、新しい銃弾を装填し、銃を撃つ。 敵の銃をもつ手を撃ち、次に迷いもなく頭を撃ち抜く。 殺さなければ、殺される。 数人がかりで、敵が襲ってくる。 銃が手から弾き飛び、利き腕を撃たれた。 ティエリアは、懐からナイフを取り出して、敵の手に突き刺していく。 そして、迷いもせずにその両目を自由な左手の、尖った爪で潰す。 足払いをかけ、敵がひるんだすきをついて、サバイバルナイフで心臓を一突き。 ビクビクと、死の間際の痙攣をする死体を蹴り上げて、次々と蹴りで相手の急所を潰していく。あるいは、その首に鋭い手刀を叩きこむ。 生き残っていた、負傷した敵が、ティエリアの心臓を打ち抜いた。 「ひ、ひいいいいい」 バーチャルエンジェルは、もはや死神だ。 心臓の位置には、服の内側から特殊な金属プレートを貼っており、撃たれた衝撃で体は吹き飛び、壁にぶつかって頭を打つ。角にぶつけ、頭から大量に出血し、ティエリアの白い白磁のこめかみを血が伝いおちる。 ポツポツポツ。 滴る血に、怯みもせずに起き上がろうとする。 敵の兵士はもはや錯乱していた。 「死ね死ね死ね!この死神が!」 ふらつきながら起き上がったティエリアの美しい顔を、蹴り飛ばす。 ニヤリ。 吹き飛ばされながら、ティエリアは残酷に微笑んだ。 右ひざにしていたガーターベルトから、小型銃を取り出して、相手の眉間を撃ちぬいた。 「くそおおお」 敵の兵士が、負傷したティエリアの髪を、髪が抜けるほど強く掴みあげる。 激しい痛み。 右目を、生きたままくり抜かれたのだ。 それでも、ティエリアは止まらない。大量に血を滴らせ、右顔面を完全に血で染め上げながら、銃で残った敵の脳を撃ちぬく。 死体に突き刺さったままだったサバイバルナイフをまた口にくわえ、背後から、身動きのとれぬ兵士の首を躊躇いもせずにかき切る。 「ジ・エンドだ」 ティエリアが、血まみれのまま声をだす。 敵の首から、プシューと、噴水のように面白いくらい血が吹き出た。 それをもろに浴びながら、ティエリアが立ち上がる。 誰も動かなくなったフィールドで、血に染まったバーチャルエンジェルが微笑んだ。 負傷率、60% 致命傷なし。 敵殲滅100%。 そんな数値が出てきた。 くり抜かれた右目は、通常なら致命傷だ。 すでに血は止まっている。 新人類の能力は計り知れない。 致命傷でも、コントロールによって血を止めることができるのだ。実際の戦闘ではそんな余裕は少ないが、実際にセラヴィに乗って、一人で戦っていた時に何度も負傷した。 そのたびに、生死の境をさまよっているようでは、クルーたちの命を守れない。 普通ならば意識が飛んでもおかしくないような重症をおいながら、出血は止まり、そして痛みに鈍い神経のおかげで戦闘行為を繰り返した。 だが、出血のコントロールによる停止は、緊急時以外にはしない。それをすると、体の全機能が低下し、数日動けなくなるのだ。 それでも、4年前は一人で狂ったように戦った。 僕の手は血まみれだ。 この仮想戦闘行為のように、実際に何度も自分の手で人を殺した。 銃で頭をうちぬき、目を潰し、喉をサバイバルナイフでかき切った。 負傷率60%とでているが、ティエリアは75%までなら戦闘行為が可能であった。 右目を実際にくり抜かれたとしても、再生治療を受ければ、右目は再生する。 心臓を保護するために、裏から強度の金属プレートを貼るという設定は正解だった。 だが、いくら強くても、頭を撃ち抜かれてしまえば終わりだ。 少し哀しかった。 「私は、強くなりたい」 人間の肉体というのは、とにかく脆い。 急所はいくらでもある。脳をやられてしまえば、人間はあっという間に終わる。 それは、ティエリアでも変わらなかった。 負傷していた傷が治る。 次のバトルステージ。 銃のみの戦闘だ。 ティエリアは、新しく出現した銃を手に、翔けた。 そして、次々と現れた敵の眉間を打ち抜いていく。 左肩を撃ち抜かれる。痛みを感じないように、神経を遮断した。 出血は傷口をしばることで自然に止まるようにさせた。 バン!パァン!ドドドド!!! 銃声だけが響く。 小型爆弾を放り投げる。 ピピピピ・・・・・。 数値が出てきた。 負傷率40%、致命傷なし。敵殲滅80% 逃げていく敵に、止めをささなかった。さっきは完全に息の根を止めるために、わざと100%達成まで戦ったが、実際の戦闘では逃げていく敵に構っている余裕などない。 仮想世界で、今度はセラヴィに乗る。 そして、宇宙を駆け抜ける。 ハイパーバーストをわざと放棄し、粒子サーベルと粒子ビームを手に、戦闘を開始する。 「トランザム!」 機体が赤く燃え上がる。 粒子ビームで敵を撃ち落とし、すれ違いざまに粒子サーベルで機体をなぎ払う。 敵は、最新のモビルスーツのアロウズとインプットされている。アロウズの機体と攻防を繰り広げる。 粒子サーベルが、赤い機体を完全に切り裂くことができなくなった。装填された新しい粒子サーベルは、長い槍のような武器である。それで、次々とアロウズの機体をくり抜く。 敵の攻撃は、GNフィールドで完全に防ぐ。 10分経過・・・20分経過すでに、トランザム限界時間を過ぎていた。 セラヴィはボロボロだ。もう、GNフィールドもはれない。 赤い機体に囲まれる。 「ここまでか」 赤い機体が、破壊音をたてて撃ち落されていく。 「ケルヴィム!」 いつの間にか、ライルがバーチャル装置に入り、ティエリアの装置と連結していたのだ。 通信がはいる。 「ハイパーバーストでなぎ払え!」 一度手から離したハイパーバーストを、ボロボロの機体で手にする。 「チャージ、30%、40%、50%、・・・・70%!」 フルパワーでなくとも、十分に敵の機体をなぎ払えるだけの破壊力はある。 正確な射撃で敵を撃ち落していくケルヴィムの機体に背を預け、ハイパーバストを解放する。 「よ、一人で戦闘訓練だなんて、誘ってくれればいいのに」 通信が入る。 ライルの明るい声に、ティエリアはため息をついた。 「一人での戦闘行為の訓練でした。これでは意味がありません」 「実際は、一人で戦闘なんてそんな危険な真似はミス・スメラギが許さないさ。OOの機体じゃあるまいし、セラヴィの機体はトレミーの防御をかねてるんだから、俺と連携とったほうがいいぜ?」 「分かっています。明日、一緒に連携の戦闘訓練をしましょう。今日は、もう疲れました」 ティエリアが、仮想世界から消えた。 バーチャルエンジェルが現実世界へと戻る。 同じように、ライルもバーチャル装置から出た。 装置から出たところで、ティエリアは軽い眩暈に襲われた。 「おっとっと、大丈夫かぁ?」 「大丈夫です。仮想空間に長くいすぎたせいで、仮想と現実の区別がつきにくくなっているだけです」 ティエリアはすぐに支えられたライルの手から離れると、歩きだした。 「明日、一緒に戦闘訓練しような!」 「はい」 振り返って、手を振った。 NEXT |