血と聖水[「人工ネイ、アルザール」







「ふ・・・・・全く、君たちには叶わないよ」
フレイアは姿を変えた。一人のヴァンパイアマスターに。
「リボンズ!!」
ティエリアが叫んで、銀の銃をとりだしてリボンズに銃口をつきつける。
「今回はリジェネはいないんだね。本当に残念だよ」
「何がしたい、お前」
刹那がビームサーベルを取り出す。

「別に何も。忠告した通りだ。聖女マリナは、エタナエル王国樹立の生贄に選ばれた。そして、エタナエル王国ではアルザールが王について、恐怖政治と洗脳で民を支配している。僕としては、鬱陶しい存在なんだよね。この世界で、ヴァンパイアの国は一つで十分だ。貴重なホワイティーネイは、僕としても失いたくない。人間とヴァンパイアの数のバランスを保つには不可欠な、ヴァンピールを直すことのできる数少ない存在だからね」
リボンズは、ロックオンに耳打ちする。
「ねぇ、そうだろう、ネイ?ヴァンパイアの全ての存在を知る者よ」
ロックオンはヘルブレスをリボンズに向かって吐く。
「あははは。まぁ、そういうことだ。がんばってアルザールを倒して、民を解放してあげなよ。それから、聖女マリナをくれぐれも守るように。ホワイティーネイは貴重だからね」

リボンズは、闇に溶けていった。

「くそったれ・・・・」
「情報は・・・・本当だろうか」
「嫌なやつだが、あいつはこんなことで俺たちをからかうようなヤツじゃない。エタナエル王国か・・・」
「聖女マリナを守りつつ・・・・アルザールを倒せるでしょうか?」
ティエリアは、聖女マリナをどこか別の・・・一旦戻って、帝国におくるべきではないかと思案したが、ロックオンが首を振る。
「ここまできたんだ。護衛は刹那に任せる。俺たちはアルザールの排除だな」
「はい」
「にゃんにゃの?眠いのにゃ?」
フェンリルが、よっこらせっとティエリアの頭にのぼる。そこが定位置だ。もしくはティエリアの腕の中。

「あー。もう、寝れないな。皆で不寝番か」
聖女マリナは、すやすやと寝ている。これだけ騒ぎを起こしたのに、素晴らしい体質だ。

結局、その晩ティエリアもロックオンも刹那もそれ以上寝ることのないまま、朝が開けた。
馬車に皆で乗り込み、できるだけ普通の聖都を訪れる信者のように見せかける。
聖都につくと、閉じた箱庭という割には、人々は行き交っているし賑わっている。
教会に出かけると、そこでは巡礼の者を祝福する神父や賛美歌を歌うシスターの姿が見える。ヴァンパイアも人間も、同じように入り乱れている。
「はめられたか?」
ロックオンが、町を他の皆と見歩きながら様子を探る。

リーンゴーン。
聖都中に響く、中央聖教会の鐘がなった。
その時だった。人々が、ピタリと止まって、皆同じ方向に歩きだしたのだ。
その目は虚ろだ。ヴァンパイアも然り。
皆、中央聖教会を目指している。

「・・・・・・いくぞ」
ロックオンが、白い六枚の翼を出して飛翔する。
ティエリアも、ネイの血族として覚醒したので六枚の白い皮膜翼で空を飛ぶ。刹那は金色の鷹に乗って、聖女マリナも乗せる。

人々は、中央聖教会に向かって何度も地面に膝をついて拝んでいた。
「アルザール様万歳、エタナエル王国に祝福あれ」
「アルザール様万歳、エタナエル王国に祝福あれ」
「アルザール様万歳、エタナエル王国に祝福あれ」

しつこいくらいに繰り返す人間とヴァンパイアの群れを天空から見下ろす。
そして、中央聖教会のステンドグラスを、ロックオンがぶち破って、そこからロックオン、ティエリア、刹那、聖女マリナは浸入した。聖女マリナも話を聞いて納得し、エタナエル王国を破壊して元の聖都に戻すことに協力してくれることになった。

中央聖教会。
中はがらんとしていた。
本来あるべき場所から祭壇を取り除き、そこに玉座があった。
そこに座る少年は、にっこりと侵入者に向かって笑いかける。

「ようこそ、僕のエタナエル王国へ」
「は、誰がお前の王国だよ。ここは聖都、人間とヴァンパイアが共存する場所だ」
「洗脳して何が楽しい!こんなの、子供の遊びみたいじゃないか!」
ティエリアが叫ぶ。
刹那は、呪札を取り出して、結界を聖女マリナの周囲にはり、戦闘で被害が及ばないように隔離する。

「父様は夢見ていたよ?エタナエル王国を。滅びた古代魔法科学文明・・・・霊子学を極めた人々は、数億という虐げた人間たちから霊子エナジーを抽出して新たなる人類を作り上げた。不老不死の人間。それが」
「それが、ヴァンパイアの始まり」
ネイであるロックオンが、言葉を続ける。
「そうして生み出された新しい人類はエターナルヴァンパイアと呼ばれ・・・人間に服従していた。だが、ある時科学者たちが数億人分の霊子エナジーを凝縮して作り上げた固体を、エターナルヴァンパイアの皇帝と呼ぶようになった。その個体は、人間に奴隷のように虐げられていた新しい人類を解放して、ブラッド帝国を建設する。
そして、その個体は霊子学の主だった施設を破壊しつくし・・・・古代魔法科学文明は滅びた。生き残った人間は、その個体を血の神と呼び恐れた。それが、初代ネイ」
「そう。あなたは五代目ネイ。初代ネイに比べれば、なんてちっぽけな存在なんだろうね?僕はアルザール。
父様が・・・・地下に眠っていた、数十万人の人間の霊子エナジーを凝縮して作り上げた、人工のネイ」


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