血と聖水[「使徒、新人類を食らう者」







僕は、ロックオンだけのもの。
ロックオンは僕だけのもの。
12年前、そう約束をかわした。半年、一年と時間は少しずつ過ぎ去っていく。
ブラッド帝国に行ったのは、もう今から半年以上も前のことだ。

犯される。汚される。
ロックオン以外に体を好きにさせられるくらいなら、潔く死を選ぶ。
なぜなら、中性は好きになった相手以外に抱かれると壊れるから。精神が崩壊し、存在が成り立たなくなる。

脳裏で、ティエルマリアの美しい顔が見えた。創造の母、生まれた頃守ってくれた女王ティエルマリア。
ロックオンと過ごしたたくさんの思い出。ロックオンの笑顔がたくさん脳裏を横切る。
出会いの記憶、共に過ごした12年間の記憶、些細なできごとから嬉しいこと、哀しいことまでいろいろな思い出がティエリアの頭を支配していた。
これが走馬灯というものだろうか。
リジェネと刹那、それにフェンリルとの記憶もたくさん思い出した。ティエリアは泣いた。
「ロックオン・・・・・ごめんなさい。僕には、こうするしか・・・・あなた以外に抱かれるくらいなら、この選択しか僕にはないんです」

ティエリアは、舌を噛み切った。
支配する血族にされたというのに、ティエリアはある程度体の自由が利いた。ロックオンの血族であった名残だろうか。それとも、アルザールの血族とされたのが不完全だったのか。

「ティエリアああああ!!」
ロックオンが叫ぶ。
弾けた。
涙を零して、口から大量の血を吐くティエリアを見た瞬間、ロックオンの中の何かが弾けた。

「死ぬの?許さないよ」
血を与えられ、ティエリアは死ぬこともできない。
そのまま、アルザールに蹂躙されようとする。
ティエリアの体が光の粒子となって消え、ロックオンの腕の中にあった。
「ティエリア・・・・しんじゃだめだ」
ロックオンは、自分の血をティエリアに分け与える。噛み切った舌は、完全に再生され、血にまみれていた口内からロックオンは血を吸いだして、そのまま飲み込む。
「ロックオ・・・・」
「大丈夫だから。安心しろ」
震えるティエリアを抱きしめて、浄化の精霊を呼び出し血を綺麗に拭い去る。アルザールが触れた唇の痕もなくす。
そのまま、ロックオンはボロボロになった衣服をまとったティエリアに、自分のマントを与える。
「形作れ」
そのマントは、ロックオンの言葉だけで衣服となってティエリアを包み込んだ。

刹那が立ち上がる。
ロックオンの魔力で傷を癒されたのだ。
「意思は伝わった・・・・だが、もうどうなってもしらないぞ」
「ああ」
刹那は、全てを解放する。
魔力も生命力も全てを。それは、ロックオンを包み込んだ。
同じく、自然と魔力も生命力も解放したティエリアがロックオンを包み込む。

ネイ。五代目ネイでも、初代ネイでも、かわりない存在。それがネイ、夜の皇帝、血の神。
真っ白な六枚の翼は大きく伸びて、まるで爪のように鋭かった。
「エーテルイーター発動、40%限定解除」
真っ白な翼は、アルザールを包み、その血を食らっていく。
その血と肉を、翼が食っていく。びちゃちゃと音を立てながら。
アルザールは、悲鳴もあげずに自分の血と肉が食われていくのを感じていた。
「ああ・・・・最高だ。これがネイの力・・・・エーテルイーター、古代魔法化学文明を滅ぼした禁断の、同胞の血を啜り肉を食らうブラッディイーター、魂を食らうソウルイーターの二つを併せ持つ・・・・使徒の、力。霊子エナジーをも食い尽くした、人間が作り出した最高傑作・・・人間が作り出した神。僕はしょせん、使徒にはなれなかった・・・ネイにもなれない・・・エタナエル王国の夢は、潰えるか・・・・ネイ、あなたになら食われてもいい。だって僕もネイなんだから。一つになれる」
アルザールは恍惚の表情でうっとりとエーテルイーターを発動させたネイに、食われていく。刹那とティエリアの魔力と生命力を使うことで、五代目ネイであったロックオンは、足りなかった力を補い、初代ネイの力を解放し続ける。
凄まじい速さで再生していくアルザールを、白い翼は飲み込んだ。
灰さえ微塵も残さず、この世界からアルザールは消えた。
ネイに食われたのだ。

ネイ。何故、同胞がネイを恐れるのか。血の神であれば、崇めればいいのに。それは、使徒だから。ネイは、同胞を食らう。ヴァンパイアを食う使徒。
人が反旗を翻した奴隷の新人類、ヴァンパイアの制御のために作り上げた最高傑作品。人が人工的に作り出した神格をもつ神、それがネイ、夜の皇帝。

アルザールを食べ終えたロックオンは、その翼をティエリアと刹那にも伸ばす。刹那はティエリアを庇おうとしたが、逆に白い翼は庇っていたティエリアに標的を定めた。
じわじわと、ティエリアの血が吸われ、肉が食われていく。
ティエリアは微笑んでいた。

「あなたになら、全てを捧げられる」
手を伸ばして、ロックオンの唇に唇を重ねる。
ティエリアの白い頬を、涙が伝う。
ロックオンになら、食べられてもいい。愛の究極の形。捕食。それもまた、歪んではいるが愛の形の一つ。血と肉となって永遠に愛する人の体の一部になれる。犠牲愛。許すことも罰することも必要な愛の中で、慈悲と呼ばれる許す愛だ。愛しているからこそ、その罪もまた許す。
ネイがおこそうとしている、同胞食らい、血族である愛するティエリアを食すことを、ティエリア自身が許す。
極限の慈悲。愛し合っているなら、お互いが傍にいて愛し合うのが普通なのに。
ロックオンになら、全てを捧げられる。そう、体も血も記憶も心もそして・・・・魂まで。
ロックオンは、腕を伸ばして両足を食べられてしまったティエリアを抱擁していた。ビチャビチャと滴るティエリアの大量の血液が、ティエリアから命の灯火を消していく。
「食べない。お前は、俺のものだ。俺のもの。食べては意味がなくなる。一緒に傍にいて、愛し合うんだ。そうだろう、ティエリア?」
ロックオンは、自分の心臓を手で掴みとると、ぶちぶちと血管を引きちぎってくりぬいた。その血をティエリアに飲ませ、そして失われた足に滴らせて再生を促した。ティエリアの足は、ゆっくりと再生した。
使徒であるネイの血は、未知の可能性をもつ。血族した者は、命が尽きても血を与えられれば生き返るのかもしれない。ネイは、神である。神の寵愛を一身に受けるティエリアは、ネイの血族としてすでに覚醒している。
ティエリアの甚大な損傷はすでに回復していた。ティエリアとロックオンの契約、永遠の愛の血族が復活する。上書きされると、永遠の愛の血族でも血族ではなくなる。
ロックオンは、ならばもう一度血族にするだけ。

すでに一度血族としているので、契約はいらない。
ただお互いに確認のように額に紋章が浮かんで消えていった。

二人は、一人で二人。
二人で一人。
二人三脚で、世界を歩いていく。
それが、二人の愛し方。お互いの綺麗な部分も汚い部分も受け入れ、罰する時は罰し、そして許すときは許す。慈悲と紙一重。二人の愛に、憎悪と悲哀はない。ただ、愛し合う。純粋に、どこまでも深く透明に、まるで湧き上がる泉のように。




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